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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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銀魂 SS
土方×そよ。出会いから恋愛自覚の話。第一幕。
同人誌からの再録。
 車の静かな駆動音が、目の前に座る少女の立場への、土方の認識をより深くしていく。今は一時的に町娘の姿に身をやつしているとはいえ、その地位はまったく変わりなく少女の一部を成しているのだと。
 そよ姫―『将軍様の妹君』。
 土方にとっては雲の上の人間、むしろ異世界の住人だ。城から迎えに遣わされてきたのは対テロ対策の施された車、その後部座席は向かい合わせの仕様という庶民には縁のないタイプだし、そこに当たり前に収まった少女には気後れなど微塵にもない。うつむいた表情を隠す黒髪は手入れの行き届いた美しさを保ち、飾られた髪飾りには本物の輝きを抱く宝石、身に着けた服も簡素とはいえ素材は最高級品であることが見てとれた。
 これでかぶき町なんて所を歩いてよく無事でいられたものだ、と土方は改めて呆れてしまう。そこはあのチャイナ娘に感謝しておくべきなのだろう。神楽の怪力と格闘センスなら、そこらのチンピラなど片手で充分だ。
 そよが城から消えたと判明し真選組に出動が下って半日。無事に保護されたそよを城に護送するこの車に、どういうわけか近藤は乗らなかった。一応、曲がりなりとも真選組の最高責任者を差し置いて自分がここに乗せられた意味を、土方はなんとはなしに考える。
 剣の腕前は、認めたくはないが沖田が局内筆頭だ。最大戦力がしんがりを務めていることは、まあ、よしとしよう。但しこの筆頭戦力、どうしようもなく精神力に欠ける上に操る人間がいないと危なっかしくて話にならない。だから近藤がそちらに同乗しているのもうなずける。そして、それに次ぐ戦力である土方がそよの直接護衛に当たっているわけだ。
 ……さて。
 暇つぶしの思考は早くも終わってしまい、土方は内心でため息をつく。さっきからそよは黙ったまま、運転している下っ端の組員もそよに対して緊張しているのか一言も口を利こうとせず、屯所から城へ向かう車の中には沈黙だけがあった。
 仮にもこの国の最高権力機関、将軍家に連なる身を相手になにを話したらよいのか、土方にはわからない。まさか『なにを考えて城から逃げ出した、おかげでいい迷惑だ』なんて問い詰めるわけにもいかないのだし。
 今まで数回、幕府重臣の城下視察や将軍家の公式行事出席の護衛を務めた際に遠めに見たことはあったが、土方がそよに接するのは今日が初めてだ。幕府直轄の警察庁長官・松平片栗虎の肝煎りで創設されたとはいえ、真選組は新興であり幕府内部では田舎者の集まりと見なされ最も下に配されている組織、使い捨てとして最前線で戦うのが常だったし、その方が組の皆の望むところでもあった。
 まあ、そんな立場の俺が姫様と喋る必要もないか、と土方はついと窓の外に視線を向ける。これまた庶民には手の届かない、天人の技術を拝借し製造された素材を使ったそれは、こちらからはなんの問題もなく外が見えるが向こうからは中が見えないという特性のものだ。おかげで、要人が乗っていると気がついた向こう見ずで考えなしのテロリストに襲われることも、まず、ない。
「お煙草、どうぞ」
「は?」
 それでも、なんとはなしに怪しい者がいないか周囲を見ていた土方は、唐突に聞こえた声に慌てて首を回して車内に意識を戻す。その先では、いつのまにか顔を上げたそよが土方を見つめていた。
 色の白い、いかにも育ちの良さそうなその顔立ちは気味が悪いほどに印象が薄い。少なくとも土方には、とにかく作り物めいて見えて落ち着かなかった。
「なにかおっしゃいましたか?」
「はい。お煙草を吸われるのでしたら、どうぞ、と。この車は空気を洗浄するカラクリが備わっていると爺やが言っておりましたので、窓を開けなくても大丈夫です」
「…………いえ、勤務中ですので」
 数秒後、土方は模範的な返答をしてそよから視線を外した。どうやらそよは、土方が窓を見ていたのは開けようか思案しているためと思ったらしい。やれやれ、のん気な姫様だと、ため息をつくのだけはなんとか耐えて土方は椅子に座り直す。そよはそれを、やはりじっと見つめていた。まるで土方の一挙一動を見逃すまいとするように。
「……まだ、なにか?」
「はい?」
 視線を外したまま問い返した土方に、相手は自分の行動に気がついていないと思っていたのか、そよは立場に相応しくない―土方からすれば、らしくないすっとぼけた声を出した。それに今度は土方が驚いて、またそよに振り返る。
「いえ、なにかおっしゃりたいことが?」
「あの、貴方とお話しするのは初めてですね。近藤様とでしたら幾度か機会があったのですが」
「土方です」
「はい。お名前は知っております。土方十四郎様でしょう?」
「私のような卑賤の者の名前を覚えて頂き、恐悦至極に存じます」
「……土方様は、その……真選組の方々は皆さん、近藤様のようと思っていたのですが違うのですね」
「近藤は近藤、私は私です」
「は、はい。それに、あの、すみません。お名前は先ほど覚えたばかりでして。近藤様が教えてくださったのです。これからしばらくの間、護衛につく人だと」
「そうですか」
 取り付く島もない返答をしている自覚が土方にはあった。別にこの姫君に取り入る気もないし、今後、護衛に回されることがあっても支障のない関係を保てればそれでいい。護衛する側とされる側に馴れ合いが生まれるとロクなことがない。多少、無愛想で近寄りがたいと思われるくらいが互いの為というのが土方の考えだ。
「今後、記憶に留め置いて頂ければ幸いです。帯刀はしておりますが将軍家の敵ではないと認識して頂く程度でかまいませんので」
 つまり土方にとって、相手の自分への心象よりも任務を果たすことが優先だ。だから、今の言葉はあるかもしれない護衛任務の備えのつもりだった。しかし、
「大丈夫です」
 きっぱりとそう言って、そよは微笑んだ。土方の考えなど無駄だと言わんばかりに。
「もう貴方のことも忘れません」
 ニコリと、なんと言えばいいのか……そう、年端もいかぬ少女なのだから、こんな笑みをして当然なのに、そよがするわけのない……土方がそう思っていた、人として当たり前の笑顔。
「…………」
 ―しかし、そう、それはそよがしてはいけないもののはずで。
「……ご気分でも?」
 眉をひそめつつそう言ってしまうのを、土方は抑えることができなかった。
「え? いえ、平気ですが」
「ならば、いいのですが。失礼致しました」
 やはりその、人形が必要以上の生々しい笑みをして見せた類のチグハグした不気味な顔のまま、そよは首を横に振った。そしてまたうつむいて、それきり、口を閉ざす。話すことはなくなった、そんな風に。だから土方も、もう一度視線を窓の外に流して……ふと気がついた。
 この姫君は名前も知らない護衛役が煙草を吸うことを知っているのだ、と。
「……姫様」
「なんでしょう?」
「つかぬことをお聞きしますが、私が煙草を吸うとご存知で?」
 土方はここまで、懐の煙草の箱を手に取ることすらしなかった。勤務中というのは建前、実際には要人警護という面倒なしがらみのせいでなのだが、なのにこの世間知らずな姫君がなぜ気がつけたのか。土方にとっては答えの見えない難問に、そよは小首をかしげて簡単に答える。
「微かですけれど、匂いがしました」
「……それは失礼を」
「そんな。爺やは煙草は体に良くないと言いますけれど、お好きな方には大切な嗜好品でしょう? それに私、その種類の匂いは嫌いではありませんから」
 嫌いではないのか。そこに土方はまた意表をつかれる。無論、顔には出なかったけれど。
「あの、私もお聞きしていいでしょうか?」
 そしてそよは、癖なのか、また少し小首をかしげる。
「土方様は、女王さんとお知り合いなのですね」
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