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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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銀魂 SS
銀時×神楽。月の夜のふたり。殺伐系。

 月が、出ている。
 しかし満月ではない。こんなときに満月を引き当てるほど、銀時は自らの行いが良いとは言えない。とりあえず月に雲がかからない程度のありがたみはあるようだが。
「神楽ァ。お前なにやってんだ?」
 自称・夜の蝶であるはずのお登勢の店の灯も落ちている。それほどの深夜だろうかと記憶を手繰りながら見上げた先の影に、銀時は目を細めた。月を背に万事屋の屋根に立つ、黒い影に。
「遅いネ、銀ちゃん」
「ヅラと飲んでたんだよ、文句あるか」
「あるネ」
 絡むなァ。銀時はそう思って、足元に力を入れた。月の逆光か、神楽の表情が見えない。嫌な感じがする。地面を踏みしめていることを確かめたくなるのは、受け止めるための準備行動だ。
 なにをか聞くのは、野暮ってものだ。
「昔話でもしてたアルか?」
「……あんだァ、そりゃ」
 言いがかりのような追求に、銀時の表情が期せずして怪訝なものになった。それに、しまったと思っても、もう遅い。
 昔のことなど語りはしない。第一、なにを語れというのだ。桂は変わったし、銀時も変わった。時代が変わったのとは違う意味で、そしてまた、根っこの部分は変わっていないとしても。

 流れ落ちた血はどこに帰った。銀髪の鬼はどこに逃げた。
 さあて、こちとら存じません。
 ほら見てごらんよ。月が、きれいだ。

「銀ちゃんはどこに行くネ」
 は、と思わず漏れた息は、疑念と呆れ。
「お前はどうなんだよ。夜兎ってくれぇだから、月が恋しいのか?」
 さてさて、今宵の娘は『目覚めて』いるらしい。
 戦闘民族『夜兎』。戦って戦って殺して殺して、行き場をなくして絶えゆく血。神楽の背負うものなど銀時は知らない。神楽の父、その名もご大層な『星海坊主』がこの星に来て初めて知った、たくさんの事柄。チンケな言い方をすれば秘められた過去とでも言うのか、そんなのは知ったこっちゃない。弱くなったなどと揶揄されるのは、俺が甘やかしたからだって? あれから幾度目か、銀時は鈍く笑う。

 いやいや、これまたご冗談を。
 寂しくて死ぬ生き物にゃ、生きる資格もございません。

 ゆらりと動く神楽の身体はしなやかで無駄がない。そして、身を守るために持つ傘を優美に振り上げた。愛しきものへの合図のように、己をここでないどこかへ、宇宙のどこかにいる誰かへ、示すように。……止まり木どころか、この場に根付いているくせに、なんの真似だ。銀時がそう思ったとき。

 トン、と軽い音が聞こえた。

 脳が悲鳴を上げる。目を覚ますな覚ませ、刀を抜いてはならぬ抜かねば死ぬ。白夜叉、この背に負ったもの、望む望まざる、滑り落ちてくる、そう、落ちてくる。動かなくなる、前に。

 浄も不浄も混ざり合った空気に派手な音が響く、金属と木片がかち合う音が。大体どうして今夜はこんなに静かなんだ、ここは天下のかぶき町だってのに。悪態をつきながら受け止められたのは余裕ではなく、心構えと相手の……手心か?
 芯まで冷え切った群青色の瞳。暖かさなどない橙の髪。おおよそ相応しくない色を纏う彼岸の舞手。弾き返せばそれらはすべて翻り、地を蹴る音に砂が巻き上がった。向かい叩きつけられた衝撃を受け流した銀時に、更に追撃。二、三、四、そこまで数え反撃に移った。
 動きは読んでいる。というよりも、至極、読みやすい。視線の動き、間合いの流れ、小細工などいらない圧倒的な一撃を有する夜兎の攻撃は、本能のままと言えるほど直線的だ。
 掬い上げる薙ぎを、神楽は避けない。またまた派手に音が響き渡る。
 交差したふたりの影は、今はひとつ。傘と木刀を交わし、お互い食い合える間合いまで踏み込み、ほんのちょいとでも腕の力加減を変えれば、とても愉快なことになるだろう。
「言ったろ、俺ァ酔狂な奴が好きなんだよ」
 睨むのでもない、銀時をただ写すだけの目。その奥には、捨ててきた風景があるのかもしれず、追いかけたい背が霞んでいるのかもしれない。昼間の子供っぽさはどこへやら、まったく、血というものは怖い。過去というものは怖い。夜闇というものは怖い。
「自分の血に抗おうなんざ、酔狂の果てだ」
 つらかったこと、忘れたいと思う過去。消したい記憶など数えたくないほどあるが、それらが本当に消えてしまったときの自分が自分でなかったことを、銀時は知っている。それは、多くの荷物を背負い込みながら生きることよりも、何倍も、味気もなければ意味もないことだった。
 それ以上に、恐ろしかったのは。
「お前のパピーも仰ったぜ? 『地球人にしちゃあ、やるな』ってよ」
 この身に染みついた、技能と異能。

 兎は狼に食われるものと相場が決まっている。
 夜の兎は、逆に狼くらい、食い殺す。
 が。

「鬼と兎だ。勝てる気がするか?」

 息がかかるほどの距離を決定づけるのは殺気であり殺意ではない。
 ギリギリと鳴るのは腕か、傘の軸か、削れていく洞爺湖の文字か。

 ガギンッと、聞き慣れた音がする。瞬時に離れた、分かたれたふたつの影。数メートル先の地にふんわりと着地した神楽は、まだなお、銀時を見つめていたけれど、
「あーあ、だりィ。飲みすぎたァ」
 ヒュンと円を描いた切っ先が、すとんと腰の収まるところに収まったのは、背を向けてから。明かりの消えた二階、色気もなにもなく新八と定春が寝こけているのだろう『万事屋 銀ちゃん』と称される場所を見あげて、銀時は足を踏み出して、
「早いとこ寝ろよ。明日にゃ仕事が来るだろ、きっと」

 いいかげんにしろ、と。
 ここが自分の生きる世界なのだということを、求めずとも在るべき場所がいつの間にかできていたのは俺だけなのか、と、銀時に言えるはずもなく。

 戸が閉まる音と同時に、神楽はまた地を蹴って舞い上がる。トン、トン、軽やかな跳躍に階段は必要ない。銀時がたどった跡を追わずに、神楽は再び屋根に立った。見下ろした先に映る世界は、夜に沈む。青空の逃げた跡に、沈む。

「……どうして、そんなこと言えるネ」

 眠れる鬼の足先と、ぐるぐる回る兎の尾は、もうしばらく重なることはないらしい。

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