忍者ブログ
ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
30
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 ACE6小ネタ。
 スネークピットとオルタラに住む少女の話、その2。つまりオリジナル色が強いのでご注意を。しかもスネークピットは出ていません。もうこれACESじゃないだろってレベルです。マジで。ゲーム開始後、オルタラが占領されて以降のお話。勢いで書いているので細かい部分はご容赦。

拍手、ありがとうございます。
励みになります。



 世界には、難しいことがたくさんある。
 少女はそれを知っている、つもりだった。あの夏の日に『戦争』というものが巻き起こって、自分が子どもで、何も知らなくて、何もできない存在だってことを否応なしに知らされるまでは。そんな状況において彼女が理解を強いられたのは、彼女が『子ども』として侮られ、しかし庇護される存在であるのは当然、という簡単な事実だった。
 だとしたら、あの「おじさん」はどうして、彼女を侮らなかったのだろう?

「……おじさん、いないね」
 少女の大切な場所は、一方的な蹂躙とその後の放置の結果としてすっかり荒れ果てている。それもまた戦争というものの影響であることも彼女はすでに知っていた。彼女の両親はその事実を大層嘆いていたし、また彼女が幼い身で戦禍に巻き込まれてしまったことを憂いてもいる。この地球上では生まれついて定められる幸運、詰まるところの豊かな生活を約束されていたはずなのに、と。それがどういう意味なのかは彼女には理解できなかったのだけど、いつも穏やかに笑い優しかった両親の悲痛な顔を想い出せば、泣きたくなってきてしまうわけで。
 にゃお、とか細く、しかし確かに返事をしてくれる足元のぬくもりが投げれば、喪失に今ここで声を上げて泣いてしまっていたかもしれない。大切なお友達がいなくなってしまったかもしれないこと、それを確かめることすらできない無力に。
「あなたも、ずっとここにいるね」
 この猫にも帰る場所があったはずだ。でも、きっと帰れなくなってしまったのだ。少女のお友達が幾人か、そうなってしまったように。
 少女がかがみこんで撫でようと手を伸ばしても、以前のようにツンとすました抵抗されることもない。おじさんに撫でられなくなって久しく人恋しいのか、それとも彼女にそこまで気を許してくれたのか――なにしろ、今この猫が荒れた街においてもこうして生き抜けるのは、少女が与えてくれる食料によるところが大きい。まあ、少女もまた猫のぬくもりで得ているものがあるのだからお互い様だ。
「あっ……」
 よしよし、と撫でる動きに合わせて、ふわんと髪が視界を塞いで少女は少し驚いてしまう。ちゃんと母に髪留めをつけてもらったはずなのに、いつの間にか緩んでしまったようだ。
 癖の強い自分の髪が、少女はあまり好きではない。かけっこをしたりするのにはふわふわと乱れて邪魔だったし、それに雨ともなればくるくるとなってしまう髪はみっともないようにしか思えなかったから。憧れる物語の主人公たちの髪は真っ直ぐで綺麗で……だから少女は、なるべく目立たないように短めにまとめて結わえているのが常だった。
 でも、今は違う。むしろ足りない。さっと撫でつけてもすぐに落ちてくるようじゃ、まだまだ足りない。だって彼女にその性質を譲った母の髪は、もっともっと長いから。友人たちの母親も、たいてい長い髪をしている。家族でお出かけする時、それを美しく結わえて着飾る姿は少女にとって別世界への切符のように見えたものだ。あるいは、自分にはない魔法使いとしての姿か。
 思考が転がるままに考え込んで止まった少女の手に、にゃあお、と猫が抗議の声を上げる。それに彼女はかすかに首を捻って、
「ねえ、おじさんはあなたが困ってると思ったんだよね。じゃあ、私も、困ってると思ったからお話を聞いてくれたのかな?」
 つまりそれは、
「私は困った子だったんだね、きっと」
 そうだ。そのときの私は、自分が子どもだとわかっていない、世界で一番困った子どもだったのだ。その困った子どもが誰かを困らせる時が来るって信じていたから、だからきっと「おじさん」はここで自分に出会ってくれたのだ。少女は今更にそう思う。
 でも、だったら、あのおじさんが彼女を子どもと侮らなかったのは、
「でもおじさんは、私のこと、できるって、なれるって、信じてくれたのかなぁ?」
 『子ども』の私を、『大人』のように、『大人』として。『先生』として、そうなるようにと路を示し教えてくれた。ここでいつもの日々を過ごすことが仕事だって諭してくれた。
 でも、今は、そのお仕事ができてない。世界がそれを許してくれない。
「……おじさんは、みんなをミチビク人だって」
 父と母が教えてくれた。おじさんが言っていた「先生のように路を示す」ことを『導く』と言うのだ。それは皆を守るために、すべを作り出すことだという。そのおじさんが少女を認めてくれたのなら、ここにはすでに『すべ』があるのだ。それを少女が知ったことを、おじさんはきっと確かめに帰ってきてくれるはずだ。先生は、その成長を見届けてくれるものだから。
 にゃお、ともう一声鳴いた猫は、また止まってしまった少女の手のひらに頭をすり寄せてくる。それに励まされて、少女は少しだけ笑った。自覚はない、おじさんに向けていたのとは違う形の笑みを。
「一緒に言ってあげようね、あなたも」

 おじさん、お久しぶり。
 ずっと待ってたよ。

 そう言える春が来る日はそう遠くないし、きっと「おじさん」が驚いてくれることだって、もう少女にはわかっているから。
PR
お名前
タイトル
文字色
URL
コメント
パスワード
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Copyright c イ ク ヨ ギ All Rights Reserved
Powered by ニンジャブログ  Designed by ピンキー・ローン・ピッグ
忍者ブログ[PR]