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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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九龍妖魔学園紀 SS
5st後。葉佩と皆守。葉佩の過去についてほんのり。


 東京という町に抱いていたイメージとはだいぶ違う空と、思う。そして自分が育った場所ともあまりにも違いすぎる。全寮制天香学園校舎の屋上で、ぼんやりと葉佩は空を見上げていた。
 昼休みの校舎からは、ざわめいた雰囲気が立ち上ってくる。そろそろ肌寒さがつらくなってきた屋上にもチラホラと昼食をとる生徒の姿が散っているが、葉佩はそのどの集団からも均等に離れた場所にぺったりと座り込んでいた。
 『話題の転校生』と呼ばれる時期もそろそろ過ぎようとしているとはいえ、すっとぼけた行動の多い帰国子女の葉佩はなにかとクラスの、果ては学園の話題になっている。今の、ぼんやりと空を見上げるその姿も、どこか微笑ましさを感じさせて笑みを誘っていた。
「待たせたな」
 ん、とかけられた声に葉佩は振り返る。そこに、自分を見下ろすアロマをくわえた同級生の姿を認めて目を細める。
「わりーね」
「謝るくらいならやらせるな」
 苛立った声と共に投げつけられた売店の袋を受け取った。その中には葉佩が注文したパンやらジュースやらが詰まっている。休み前、気紛れに出席した授業でうっかり指名された問題に答えられずにいた皆守に助け舟を出してやった代償だ。
「おー、カレーパン」
「それは俺のもんだ」
 さも当然と言い切って皆守は一番上に乗っていたパンを取っていく。予想はしていたので葉佩も文句は言わないで、底に入っている紙パックのジュースを取り出してペリリと側面のストローをはがした。葉佩は折り畳まれたこれを、ぴよん、と伸ばす瞬間が好きで、飲み物はたいてい紙パックのものを買う。皆守も最近では、なぜ葉佩がそれを好むのかの理由は知らないのだろうけど、紙パックを買うくらいの気配りを見せてくれるようになった。
 そしてしばらく、お互いに無言で腹を満たす作業が続く。話すことがないのではなく、ふたりともそういう性格なので気まずさはなかった。
 ここに、やっちーがいれば違うけれど。
 葉佩が何気なく、すっかり3人でいるのが当たり前になりつつあるもうひとりのことを思ったタイミングを計ったように、昼食をあらかたを腹に収めた皆守を口を開いた。
「お前、よく空見てるが、好きなのか?」
「好きとかじゃなくて珍しいんだ。青い理由はレイリー散乱だって、頭ではわかってるんだけどさ」
「……なんだそれ」
「あれ、知らない? 光の波長よりも短い粒子によって起こる光の散乱現象のこと。短波長の青色光はより大気に散乱するから空は青く見えるわけ」
 すらすらと物理科学用語を解説してみせる葉佩に、そこには興味がないと皆守はアロマをふかして態度で示した。葉佩の知識はかなり偏っている。こんな風に小難しいことを並べ立ててみせたと思えば、紙パックジュースの飲み方を知らなくて四苦八苦し八千穂に大笑いされ教えられていたのは転校2日目の昼休みのことだった。
「お前、本当におかしな方向に知識豊富だな。それもトレジャーハンターとしての常識なのか?」
「トレハンの常識じゃなくて、俺が好きで調べたことだよ。さっきも言ったけど、青いのが珍しくてさ」
「珍しいって、前はどんなどこにいたんだ。年中曇ってるようなところか?」
 ずずず、とジュースをすする音がやけに大きく聞こえた。行儀が悪いと言ってもいいほどのそれに皆守は、ん、と眉を上げる。明らかに、わざとだとわかった。その視線の先の葉佩はストローから口をはなし、また空を見上げる。
「お前はここが牢獄だって言うけどさ、そんなことないよ」
 そう告げる葉佩の脳裏には、幾度も自分を苛む光景がまた過ぎる。

 暗かった。たったひとりだった。誰もいなかった。
 いや、いたけれど、あれは、なんだった?
 ……『秘宝の加護』?

「いたー! おーい、ふたりともっ!」
 聞こえた声で、葉佩は意識をすっとこの場に戻す。確かめるまでもなく、声の主……屋上に出てきた八千穂がぶんぶんと手を振りながら皆守と葉佩のほうに走ってきていた。
「いらっしゃい、やっちー」
「ごめんねっ! テニス部の用事で遅くなっちゃって!」
 ここに来る前にすでに告げていたことをもう一度言いながら隣に座る八千穂にいつも通りに微笑みかけていて、葉佩は気がつかなかった。
 皆守が妙な形に口の端をゆがめたのに。

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