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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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ACE COMBAT 6 SS
モロク砂漠戦車戦後のガルーダ隊+α



 エメリア空軍戦闘飛行隊のパイロット達は、基本的に二人ないし三人でひとつの部屋を与えられている。それはそれぞれの駐屯地にあった頃からの、ケセドなどの条件が厳しかった時期を除けばおおむね守られている慣習だ。
 同室となるのは大抵同じ隊に所属する者となるが、無論、例外もある。例えば、現在エメリア空軍内に二人しかいない女性の戦闘機パイロットであるガルーダ隊隊長マリア"タリズマン"アッシュとウィンドホバー隊所属エレオノラ"ラナー"バレーカはいつも同じ部屋となる。片や異国の血を引く容姿に片や純エメリア系美女、性格も好対照、しかし空戦と得意とするというなんともパイロットらしい共通点―ただし飛び方はこれまた好対照だが―を持つ二人の関係はとても良好で、この戦争をきっかけに仲を深める以前よりの親友であったように見えるほどだ。
 そのタリズマンの僚機であるシャムロックはというと、同室になるのはこれと決まった相手がいるわけでもなく転戦の続く最近では一人部屋になることも多い。それに対して不満は特にはなかったが……まさかこんなときに一人部屋の有効さと憂うつさを同時に噛みしめる羽目になるとは思っていなかったし、なにより味わいたくもなかった。十数時間前にそう思ったシャムロックは、いまはただぼんやりと瞳を開けてベッドに身を横たえ目の前に迫ってくるように感じる二段ベッドの、古ぼけた上段の板を眺めているだけだ。
 なにしろ、やることがなにもない。時間潰しに本でも読もうかと思ったが内容が入ってくるどころかただ文字を辿るだけの行為にすぐに嫌気が差し、それからずっとこうしている。時折ウトウトとしているうちに放送が始まったのか、気がつけばつけっぱなしにしていたラジオから自由エメリア放送おなじみのDJ・ゼットの陽気な声が聞こえてきていて、先ほどからはそれを聞くともなしに聞いていた。が、実質なにも変わってはいない。
《というわけで次はあのナンバーを、おおっと銃撃音だって? またもや無粋な邪魔の予感だ! まったく、エストバキアの兵隊さんも仕事熱心だよねぇ。ではまた、PEACE!》
 彼のいつもの決め台詞の後に流れ出したメロディにシャムロックの表情が歪む。穏やかな曲調に合わせて響く美しいボーイソプラノ、まさに天使が歌う曲の名は「A BRAND NEW DAY」。エストバキアの監視をかいくぐり、首都グレースメリアから占領された領土に向かって密かに電波を発する彼ら自由エメリア放送が好んで流すこの曲は、いつしかこの戦争におけるエメリア軍の反抗を象徴するようになった。
 新しい明日のために、いつもの日々を取り戻すために、今を戦おう。暗闇を抜けて、輝く陽の光を受けて我らの母なる大地に立とう。
 言葉にしてしまえばあまりに陳腐だが、その御旗の元に集ったエメリアの戦士達へと送り送られるに相応しい曲であることは誰しもが疑わない。洒落者のゼットらしい、エストバキア兵をからかう痛快なトークと共に故郷から届けられるこの曲にどれだけ励まされたか、そして幾度、一刻も早い首都奪還をと決意を新たにしたことかわからない。
 そのゼットが、どこから聞きつけたのか「ガルーダ」の名を口にし始めたのもまた、いつだっただろう。それはこの戦争における自分たちの存在の大きさを如実に示してたのだなと、シャムロックは改めて認識する。民間人にも名が知られるほどに、ある意味「A BRAND NEW DAY」と肩を並べるほどにガルーダ隊もまたこの戦争の、プロパガンダの象徴となっていたのだ。
《ガルーダ隊には、ゼット謹製・金色の王様勲章をあげちゃおう!》
 ラグノ要塞突破作戦時などは、アイガイオン撃墜に引っかけてそんな彼一流の励ましの言葉を頂き、ああ言われたからにはグレースメリアに帰ったら必ずせしめに行こう、なんて相棒と、タリズマンと笑い合ったものだ。だが今は、それがまるで幻であったように思える。
「…………」
 無言のままシャムロックは両手で顔を覆った。ゼットお手製の勲章は、この戦争が終われば軍の上層部が押しつけてくるだろう薄っぺらな褒賞よりもよっぽど美しく胸元を飾ってくれるに違いない。あの時はそう彼女と、言葉に出さなくとも誇らしさを感じ合っていた。それがどうだ、常に先陣を切り皆を勝利へと導く神鳥、その名を頂くガルーダ隊は出撃禁止の上に作戦参加資格剥奪を言い渡され、その一員である自分はこうして狭い部屋の中で泥のように重くのし掛かる時間に沈んでいくばかりだ。そう思いながらシャムロックは閉じた目をよりいっそう強くつむった。その瞼の裏にある闇は、この部屋へと閉じ込められる前に最後に見た彼女の瞳が宿したそれとは比べものにならない。
『信賞必罰は軍隊の精神が依るところ。これは当然の処置です』
 司令部の面々を前に静かにそう言った彼女は、間違いなく軍人であり部下の失態をその背に負う隊長であった。……そう、モロク砂漠に展開された戦場にてガルーダ隊が犯した命令違反の発端がおおむねシャムロックにあることは動かし様のない事実なのだ。
 エメリア軍はいよいよ首都グレースメリアを目前にし、その奪還を阻止すべく集結しつつあるエストバキアの残存勢力を叩くためにモロクでの戦いに臨んでいた。首都奪還前最後の大規模な一戦は撤退を始めたエストバキア軍をエメリア軍が追撃するまでになり勝利は目前と思われたその時、空に陸にと前進していたエメリア兵は聞こえてきた命令に耳を疑う。
《作戦指令本部より撤退命令、直ちに攻撃を中止せよ》
 理由は明かされないままの突然の指令に動揺が走る中、それを心得ていたかのように一部のエストバキア部隊より反撃が始まる。いや、それはただの反撃ではなかった。彼らは『ガルーダ殲滅』という明確な目的を持ち巡らされた作戦を遂行せんと行動を開始したのだ。
 無論、標的となったガルーダの二人がそんな敵の意図など知るはずもない。シャムロックが撤退命令に抗したのは、敵の猛攻に曝される中での攻撃中止という矛盾した自体にゆえではない。
 ここでエストバキアの残存部隊を潰せば首都奪還作戦への足がかりがより確実なものとなり、戦争の終わりは一気に近付いてくるはず。グレースメリアへと、故郷へと、愛する家族の元へと帰る日が来る。ここまで来たその目的を手にする瞬間を迎えられるのだ、険しく長かった道程を互いに支え合いながら歩んできた存在と共に。
 それがゆえにシャムロックは叫んだ、この戦争はここで終わらせる、と。

《家族を苦しめるのは、これでもう終わりだ! やるぞ、ガルーダ1》
《……ガルーダ1から2。命令に従い撤退する》
《なっ、タリズマン!? なにを……なにを言っているんだ?》
《聞こえなかったのか? ガルーダ2、撤退だ》
《タリズマン!! 君までそんなことを言うのか? ここまできて撤退しろと!》
《そうだ! わかってるなら従え!!》

 その後もタリズマンはシャムロックの暴走をギリギリまで止めようとした。普段の温厚な様子からは想像できないほどに声を荒げる彼がゴーストアイから告げられる再三の攻撃中止命令を承伏せず、あまつさえ無線を切るという暴挙に出るその瞬間まで、だ。
 実際に、あのタイミングでの攻撃中止及び撤退が可能だったのか。帰還後にそう問われて、まあ無理だったろうねと命令に従うと言ったその口でタリズマンはあっさりと答えた。あの場に飛来したシュトリゴン隊の攻撃は明らかにガルーダだけを付け狙う偏執的なものであったし、他のエストバキア軍飛行隊も地上の対空部隊も『ガルーダ殲滅』というたった一つの至上命令を遂行すべく、彼らの頭上を優雅に舞う青い刻印を抱く鳥を地に引きずり堕とすことだけに執念を燃やしていた。ガルーダが、本人たちの意志は別として今やプロパガンダの象徴となっていることは、そこに含まれる意味合いは真逆であるとしてもエストバキアにとっても同じなのだ。
『でも相手を攻撃しないで撤退するってのが無理だっただけで、二人だけで連中を全部墜とせって命令なら遂行可能だった』
 続いたタリズマンの言葉に嘘はない。ガルーダはまさに、エストバキアの怨念を一身に受けそれを突き返すことで更なる怨嗟の声を自身に集積する、そんな終わりのない円環を巡る存在に成り果てていたとも言えるのだから。
 実際に、無線を切って完全な単独行動に出たシャムロックとそれに従う形で同じように独自行動を取るタリズマンという飛行隊としての体裁を成さない状況であっても、ガルーダ隊はたった二機で相手を全機撃墜し生還を果たした。しかし、その帰還時の状況は決して無事を喜び合う和やかなものではなかった。むしろ、帰還途中の無線でも互いに黙りこくったままのガルーダ隊に対して他のパイロット達が抱いた懸念を越えた状況が展開されることとなる。

 先に地上に機を降ろしたのはタリズマンだった。シャムロックがその足で地に立ったときに彼女はすでにシャムロックの乗機F-15Eの元へと歩み寄って来ていて、彼は自身の所行を振り返ってどんな顔をしようかと思案し結局のところ結論が出ず、ただ表情を引き締めたまま近付いてくる相手に向かい口を開く。
「タリズマ……」
 だが呼びかけは途中で遮られた。足を止めないまま、しなやかに全身を捻ったタリズマンが放った拳がシャムロックの頬に命中したことで。
 平均よりも小柄で細身だが彼女も軍人だ、本人の努力もあって体はかなり鍛えられている。さらに絶対的な非力さをカバーすべく重心と膝からの体重移動も計算しつくされた、手本のような腰の入った一撃にシャムロックの長身が軽々と吹き飛んだ。
「…………」
 倒れ込んだ彼が立てた音がいやに大きく聞こえるほどにしんと静まり返った場の中心で、動きに合わせて宙に散った黒髪がさらりと背に収まる。そこに集まる視線など微塵も気にしないタリズマンは、殴った拳をだらりと垂らしシャムロックを見下ろしていた。
 彼女が僚機に対し大いに腹を立てているだろうことは、シャムロックが無線を切ってしまうまでのやり取りを聞いていたエメリア兵には明白であった。が、年齢に比べ感情表現の幼いタリズマンが怒鳴り声のひとつも発しないでそんな行動に出るなど誰に予測できただろう。
「立て、シャムロック」
 やがてその場に響いた、なんの情念も、怒気すらこもっていない平板なそれが彼女の、自分を殴った人間のものだとシャムロックが理解するのに数秒がかかった。そのふたつの認識が彼の混乱の渦へと叩き落とし呆然としたまま、それでもなんとか身を起こしてタリズマンの前に立つ。
「マーカス・ランパート中尉」
 名と階級を呼び見上げてくる黒い瞳にはやはりなんの感情もなく底知れぬ深淵を思い起こさせ……初めてシャムロックは彼女に対して恐怖を感じた。それは人間が本来持つ、暗闇への、あるいは得体の知れないものに対する本能からの恐れに似ていたのかもしれない。
「答えろ、ガルーダの隊長は誰だ?」
「……君だ」
「そうだ、わかってるんだな。なら、どうして私の命令に従わなかった?」
 シャムロックに返す言葉はない。ここで感情論を振りかざすほど彼は愚かではなかったし、なにより彼がどんな想いから命令違反を犯すに至ったのかタリズマンがわからないはずがないと知っているからだ。それでも、こうして決して怒りにまかせてではなく相手を殴り問いかけること自体の意味を、シャムロックはなおも乱れる感情の中でなんとか見出そうとする。と、ひときわ大きな足音がその場に割り込んできた。
「なにをしている。すぐにデブリーフィングを行う、総員ブリーフィングルームへ向かえ。ガルーダ、お前たちもだ」
 それが、本来ならばこんなタイミングでこんなところに現れるはずのないゴーストアイのものであることに違和感を覚える余裕があった人間は、その場にいなかった。

 そのデブリーフィング内で、今回の撤退命令に対する詳細な説明がようやく行われた。
 追いつめられたエストバキアは、大量破壊兵器を用いた無差別攻撃によるグレースメリア殲滅を画策している。それは端的に、これ以上の前進を行えば首都に対する焦土作戦を実行するというエメリアへの脅しとも言えよう。ゆえに総合参謀本部は即時の作戦中止という苦渋の戦略的判断を行った。それが今回の自体の真相というわけだ。
 それを知った際のシャムロックの動揺は言葉に出来ないほどだった。なにも知らなかったとはいえ、自身の行動が故郷を破壊し、そこで彼の救いを待っているはずの妻と娘を殺していたかもしれなかったのだから。
 突きつけられた現実に愕然とするしかないシャムロックに、追い打ちを掛けるように命令違反に対する処分が告げられる。『本日1600時を持ち、ガルーダ隊は出撃禁止の上に作戦参加資格をすべて剥奪。さらに同時刻より自室以外での行動制限命令を科す』。デブリーフィング後に呼び出された司令部で、軍における命令違反への処罰としては寛大とも言える処分が下される前に、彼女は軍のお歴々に先の言葉を告げたのだ。
 それは即時拘束や除隊の覚悟もあるということだったのだろう。事実、とりあえずのものとはいえこの程度の処分で済んだのは、ガルーダがエ・エ戦争における重要な鍵となっているゆえのことなのだ。
 ここで彼らを拘束するなどして戦線より離脱させることは航空戦力の大幅ダウンに直結し、同時に軍から象徴たる存在を欠くことで前線の士気を回復不可能なまでに削り取りかねない。さらにアイガイオン撃墜時に確認された敵エースに対抗できる可能性があるのは、現在、ガルーダ隊をおいて他にないのだ。奴は、エメリアにとっては幸いなことに今のところ戦場に現れていないが、首都奪還までには必ず再び戦線に投入されるだろう。それらを加味すれば、軍司令部としては彼らの処分を謹慎に留めるしかなかったのである。
 それでも、『なにもしてはならない』という罰は今のシャムロックにとって非常に重かった。たった一人の空間にただ降り積む時間は思索の範囲を際限なく狭めていく。非道な行動に出ようとしているエストバキアへの憤りと、それでも自分が行ったことすべてが間違いではなかったと思う意地と、巻き込んでしまった相手への後悔と疑念とが絡み合い、まったく収まりがつかない。
 せめて謹慎となる前にタリズマンとなにがしか話したかったが、司令部はその時間すら許さなかった。それに、彼女に殴られた頬が未だに疼いている。そんなはずはないとわかっていても、その感覚が残っていると感じる限りは『相棒』とまともに向かい合えないような気もしていた。それでも……。
「……くそ」
 堂々めぐりに陥る思考を断ち切ろうと、シャムロックは身を捻り頭を抱えるように横寝をする。流れていた天使の歌声はいつしか途切れラジオからはなにも聞こえなくなっていたが、電源を切るために手を伸ばすことすらなんだか億劫になっていた。むしろ、こうしてつけておけば再びゼットの声が聞こえてくるだろう。それはグレースメリアの無事を意味しているのだ。
 人質は生かされてこそ価値がある、脅しは実行されないからこそ脅しとなる。切ってしまった切り札などもはや死に体だ。それはわかっていても、なにもできない無力感は焦燥を産みそんな自身に倦み、いっそのこと眠ってしまえばなにも考えないですむ、そんな逃避に身を任せてシャムロックは再び目を閉じた。

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