「……また無茶な」
「そなたは、いつもそればかりじゃの」
作戦概要を聞いたウーベが頭を抱えたことに、エルネスティーネは皇女、いや、元皇女らしくもないにやにやとした表情を浮かべている。まあ年相応ではあるのだが、ウーベとしては『皇族』がこんな風に、活きた相好を持っているなど想像できないことだったのだ、つい最近まで。
「もちろん、そなたならば成功させることは出来よう?」
そんなウーベから向き直った先に立つ腹心の部下に微笑みながらの言葉に、その相手、緑の目をしたエースはあっさりと頷く。
「無論です。が、ティーネ様。こういった作戦に遊びを含ませるのは如何なものかと思います」
「ほっほーう、これだから朴念仁は困るのぉ。そなたとは長いつきあいなのじゃ、そろそろ、わらわの心中を慮ることくらい可能じゃろ?」
「無理です。貴方は作戦上の無駄をまったく許さないのに、自分の趣味での揺らぎは好む。この思考はおかしく、俺には理解できませ……」
「おかしいとはなんじゃっ!」
「奇妙ということです。その上、そのおかしな作戦が正規軍を狂わせているのがますます奇妙に思えますが、それを立案される貴方は巡って正常なのでしょうか?」
「くっくっく! そなたこそ異なことを。そんなものは後の世が決めることじゃ」
迷いのない、しかしまったくもって斜め上過ぎる返答と、それに対して実に愉快そうに笑う皇女に、ウーベのこめかみに辺りにざわめくような感触が走る。まったく、革命軍として帝国に対し開戦を宣言して以来、こんな光景を何度見たことだろう。ヨハンは元々自分の意見を実直に言う傾向が強くはあったが、エルネスティーネを相手にした場合は特に遠慮がないようで、エルネスティーネもまた、ヨハンに言い捨てられる方をわざと選んでいるようにも思える。
そしてこういう時、ウーベは恐ろしくなる。目の前にいる二人は、少しばかり人間の域からはみ出している気がしてならないのだ。喩えるのならば、可憐な容貌でありながら只人では理解できない次元を識る思考の大蛇と、覆う上位の世界を万人に平等な雷を以て支配する戦の神、といったところか。
(……だけど)
だからこそ、意識しているかしていないかの違いはあるとはいえ、こうも互いを認め合い楔と為すのだろう。そう、ここにいるのはウーベが想像する『皇族』やかつて憧れた『グリュンフォイエル』ではない。しかし間違いなく、彼の理想とする『指導者』であり思い描いた『エースパイロット』だ。
凡庸な身で彼らと共に歩める、これ以上の光栄があるだろうか。そう思い、ウーベは身を引き締める想いを新たにした。