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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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ACE COMBAT 6 SS
Mission1終了直後。ガルーダ隊、地上での出会い。


 それは、青に描く鮮烈そのものだった。
 自分が辿るべき軌跡を空に見ているかのようにためらいのない機動、怖い物知らずな機銃の扱い、被弾することを端から想像の内に入れていないような、溢れ出るなにかに任せた、あまりにも自由な、なにかを忘れているような。

《無茶するなタリズマン、運に任せすぎだ!》
《わかってる! でも、どうしろってんだ。相手が多いんだぞ、後ろ取られる!》
《そうしないために僕がいる! 言っただろう、背中はまかせろ。君は君が思ったように飛べばいい》
《……そうする。愛してるぜシャムロック!》
《それはどうも!》

 若さゆえか、なにかそれだけの自信に繋がる根拠でもあるのか。馴染んだ空で新たな僚機の無茶苦茶なやり方に翻弄され、指示と命令、意見と進言の皮を被ったやり合いを繰り広げながらも、この飛行を少し楽しんでいた己をシャムロックは否定できない。
 もっとも、その余裕はエメリアが優勢を保っていたときまでだ。突如、謎の巡航ミサイルがグレースメリアへ打ち込まれ、それまでのF-4などとは明らかにレベルが違う動きをする、乾きかけた血のように赤黒くペイントされた不気味な機体が次々と飛来し味方を食い始めた。やがてエメリアの劣勢は確定し、防空本部が首都放棄および撤退命令を下すまでに至る。
 一時撤退の受け入れ先となった基地の滑走路、跳ね上げられたキャノピーの向こうに見た空は、戦場となったグレースメリアと同じ澄んだ青。我々を包む空は間違いなくひとつに連なった世界であり、すべての人間の傍に常にあるものであるはずだ。しかし、今は違うようにしか思えない。その青が砕けて降ってくるような錯覚に、シャムロックは瞳を強く閉じる。
 脳裏を占めるのは、数時間前に放棄した故郷、そこに残してきてしまった妻と娘のことばかりだ。身を以て感じたエストバキアの圧倒的な軍力を思えば、陵辱に屈したグレースメリアに戻るのが果たして何時になるのかなどまったく予測できない。一時は敵をエメリアから叩き出せると確信した先の敗北は、よりいっそうシャムロックを打ちのめしていた。己の、エメリアの未来もまた砕かれてしまったのか、と。
 だが、このまま何時までもコックピットにうずくまっていても仕方がない。それに……彼女に、タリズマンに挨拶しなくては。先ほどの戦闘はあくまで臨時編成でありこの先も彼女と組むと決まったわけではないが、一度は隣を飛び共に生き残ったのだから。そう思って、シャムロックはメットとマスクを外し機体から降りる。
 ガルーダの二機は、結果としてグレースメリアからの退路を確保するのに一役買い、そのまま殿を務めることになった。それは相手の増援であった赤いSu-33の編隊が、緒戦での派手な活躍―シャムロックの意図ではなく主にタリズマンの無茶によるものだが―からガルーダ隊に狙いを定め執拗な攻撃を行ってきたのが直接の原因だ。

《ガルーダ1よりゴーストアイ。あいつら、こっちを狙ってる。せっかくだ、相手をするよ》
《……了解した。タリズマン、シャムロック、無理はするな》
《言われなくてもしない、撤退が済むまで引きつけるだけ。ガルーダ2、オーケー?》
《オーケー。燃料の限りやってみよう》
《よし! シャムロック、エメリアの意地を見せるぞ!》

 明らかに自分よりも上手のパイロットを含む編隊を前にしてもタリズマンに迷いはなく、ゴーストアイの言外の詫びを明るく受け流し、さらに味方へ高らかにそう宣言して相手に挑みかかっていった。果たして考えあっての行動なのか無意識にこなしてみせたのかはわからないが、言葉通り相手の隊長機を墜としてエストバキアに一矢報いてみせたことは事実であり……だから、未だにその声と戦闘機動しか知らない彼女に、シャムロックもまたわずかな希望を見出していたのかもしれない。
 ようやく機体から降りたシャムロックに気がつき、隣のF-15Cの元から小柄なパイロットが歩み寄ってくる。ではあれがタリズマンか、と彼は相手を見やった。
(……本当に若いな)
 全体的に小振りな造作も、決して軟弱なわけではないが、フライトスーツ越しでもわかる線の細い体も明らかに二十代前半といったところだ。顔立ちにもまだ柔らかさが残っており、航空学校の生徒と言われても納得してしまいそうな雰囲気をしている。そしていっそう目を引いたのは、その長い髪と瞳の一点の濁りもない黒色だ。濡れ羽色とはこのことを言うのだろうか、珍しいなと内心で驚くシャムロックに相手は軽く手を上げ、かくりと首を傾けた。
「シャムロック?」
 その仕草には相応しいものの、声も無線で聞くより幼く彼女の印象に拍車を掛けた。こうなるとちょっと誤れば十代にも見えてしまいそうだなと思いながらシャムロックはうなずく。
「ああ。君がタリズマン?」
「そうです。初めまして」
「初めまして……って言うのも妙な気分だな」
 思わず苦笑してしまったシャムロックに、だねぇ、とその前まで来て足を止めたタリズマンも笑う。なにしろすでに、無線越しとはいえ通常なら初対面ではまずあり得ない怒鳴り合いをやり、互いの命を幾度も助け合った仲なのだから。逆を言えば、その事実に対する気恥ずかしさなど微塵にも感じないだけの濃密な時間を過ごしたわけでもあり、今更『初めまして』もおかしな話としか思えない。それでも、ひとつの儀式として必要だとシャムロックはグローブを外した手を差し出す。
「マーカス・ランパートだ。よろしく」
「マリア・アッシュ。こちらこそ」
 交わした手はシャムロックのそれに比べて一回りは小さく、マリアという名に合う女性らしい丸みを帯びた柔らかさのあるものだった。自分と同じように戦闘機の操縦桿を握っているとは思えないなとシャムロックは嘆息し、少し躊躇ってから口を開く。
「女性に対して失礼とは思うけど、年齢を聞いても?」
「一応、25歳」
「25?」
 自分とたった十しか違わない、いや、むしろ十も違っていると言うべきなのか、とにかくその事実にシャムロックはまたもや驚かされる。しかし考えてみれば、活かし方は無茶苦茶だがあれだけの操縦技術と勝負度胸を持っているのなら妥当以上の歳と言えた。そんな反応にも年齢を聞かれることにも慣れっこなのだろうか、タリズマンは特に気にもしていない様子で続ける。
「あと、女性に対して、なんて言わないでよ。ここじゃ、お互いにパイロットであることが先だろ?」
 そう言われても、少年のような口調が容姿と重なるとなんともチグハグに感じられ、さらにその両方が記憶に焼き付いている戦闘機動とまったく結びつかずシャムロックは戸惑い曖昧にうなずくことしかできない。ただ、その言い方に嫌みはなく、すっきりした表情からもまったくの本心であることは確かに伝わってきた。
「でも、さすがシャムロック。やっぱりベテランが僚機だと飛びやすいんだって実感した」
「え、ああ、いや」
 それはつまり、楽しそうに笑って賞賛する言葉にも嘘がないわけで、さすがにシャムロックも照れを感じて無意味に髪に手をやってしまう。
「僕のことを?」
「うん、噂でだけど知ってた。すごく腕の良いパイロットだって」
「それは光栄だけど、僕としては逆に君を噂にも聞いたことがなかったのが不思議だな。大した腕前じゃないか」
 いくらルーキーの域を出ていない年齢で非常に荒削りとは言え、これだけのセンスを持ったパイロットが基地内にいることすら知らなかったのだ。空での様子といい『爪を隠す』なんて芸当ができるとは思えないしそれ以前に隠す必要もないのだから、ゴーストアイが嘆く程度で済んでいたことがとにかく意外でならない。が、それにタリズマンは呆れたような顔をする。
「だから、それがシャムロックのおかげなんだって」
「え? どういうことだ?」
「『僕がいる』って言ってくれただろ? あれでさ、私、本当になにも考えないでただを前を見て飛べばいいんだって信じられた。いままでそんな風にやれたことなんてなかったんだよ。自分でも、今ならなんでもできるなって思いながら飛んでたし」
「……そうなのか」
「そう。すっごく気持ちよかった」
 嬉しそうに頷くタリズマンのあまりの素直さに、シャムロックが感じていた照れが形を変える。彼女が自由に飛ぶ手助けをした事実と自分が楽しんでいた時間が同意義だったのは、ひとつの奇跡と言えるのではないかと、そういう想いに至って。
 が、次の瞬間、タリズマンはわずかに目を伏せて寂しそうに口を歪める。
「実際は、できなかったけど、さ」
「それは君だけじゃない」
 護るべきものをみすみす敵の手に渡すことになってしまったのは紛れもない事実であり現実だ。それでも、その表情があまりに彼女に似合わなくて、シャムロックは思わず語気を強める。そんな顔をするなと言いたかったのが伝わったのだろう、タリズマンはまたシャムロックを見上げこくりとうなずいた。それからその表情がきゅっと引き締まる。軍人らしく背筋を伸ばした姿からは、それまでの幼い雰囲気が見事なまでに、まるで芝居の一幕のようにかき消えて、
「最後の命令、付き合ってくれたことに感謝する」
 その凛とした声にも、間違いなく部隊の隊長を務める者の責務が含有されていた。
「なにを言ってる、隊長に従うのは当然のことだ」
 あの状況、つまり撤退戦の殿を務めよという命令。それが『共に死地に臨め』という意味であることは、もちろんシャムロックも理解していた。しかしそれも、このシャムロックの言葉も、あくまで修辞にすぎない。
 状況において最善を尽くし、未来を逃さないために次善を取る。その判断ができるうちはまだ生き抜けるというのがシャムロックの持論だ。そしてタリズマンもまた、同じよう自分にできる最善を尽くし未来を逃すまいとしている。死に行く気など、彼女は更々ない。そうわかったとき、シャムロックに異を唱える理由などなにもなかった。
「それに君が言った通り、少なくとも僕たちお互いに関しては、ただのパイロット同士だろう?」
 だからそう揺るぎのない返答をしたあと、彼はふと思いつきいたずらっぽく付け加える。
「あと、愛の告白までされたしな。そんな相手を放って逃げたら男がすたるさ」
「へ?」
 シャムロックの言い様にきょとんとし、数時間前の自分の言動を反すうしたタリズマンが目を見開く。
「あ、ああああ~! しまった! あれは思わず、つい……」
「気持ちは嬉しいけど、僕は愛する妻と可愛い娘がいるんだ。すまない」
「はいっ!? だから違うんだよ、こっちも嬉しかったっていうか感謝の気持ちっていうか! ……うわぁ、私のバカ……もうちょっと言い様があるだろ……」
 わざとらしい、いかにもな紳士風のおじぎで謝罪を示したシャムロックにタリズマンがあたふたとして頭を抱え、恥ずかしさに耐えきれなくなったのかその場にしゃがみ込んだ。そして膝を丸めた姿勢のまま、そっとシャムロックを見上げ……目が合うと同時に互いに噴き出す。
「君は空だと口数がもの凄く多くなるんだな」
「みたい。自分では普通なつもりなんだけど、もう少しでいいから口を閉じる努力をしろってゴーストアイが言うしなぁ。けど、本気で嬉しかったんだよ。その気持ちは本当なんだ」
 こういうときのクセなのだろうか、タリズマンはまた首をかくんと傾け、そのまま反省するようにうなだれてみせる。
「にしてもちょっと、さすがに、自分でも恥ずかしい」
「そうだな。人生の先輩として言えるのは、ああいう台詞は言い過ぎると価値が下がるから、ここぞという時を選んだほうがいいってことくらいだ」
 僕は妻と娘に、今すぐにでも伝えたい。そうだ、僕は家族のためにグレースメリアに帰る、二人をこの腕に抱きしめるために。その決意がシャムロックの身を奮い立たせる。まだ飛べる、空は砕かれてなどいないのだ。
「おーい、そこのふたり! おたくらがガルーダか?」
「ん?」
 かけられた声にシャムロックが周囲を見れば、数人のパイロットが連れだって二人に向かって手を振りつつ歩み寄って来ている。着ているフライトスーツの仕様からして海軍所属の者たちのようだ。通りでまったく見たことない顔だと思ったシャムロックの隣で、タリズマンも膝を伸ばしそちらを見る。
「あの人、海軍ってことはホーネットの? 確かアバランチだっけ?」
「多分な。彼も良い腕だった」
 早い話が、ここに逃げ延びてきていることが実力の証明だ。そして、気がつけばアバランチの隊だけではなく、二人がそれぞれ見知ったパイロットも含め他の者たちも次第に集まり始めている。恐らく、エストバキアに一泡吹かせたガルーダ隊がどんな連中なのかと待ちきれずにやって来たといったところだろう。
 極論、ここに集う者たちは自分たちの存在意義を根本から否定されたとも取れる。ゆえに表情には疲れが浮かんでいるし隠せない焦燥も見えるが、決して暗いものではなくましてや諦めきったものでもない。海軍や空軍、所属など関係なく、この敗北を受け入れ、次への奮起と決意をそれぞれの瞳を宿している。
 悪くない雰囲気だ、むしろ撤退後としては申し分ないとも言えるな。そう思ってシャムロックは改めて、この状況を作り出した立役者のひとりであろうタリズマンへと振り返った。と、同じタイミングで彼女もまたシャムロックへと視線をやって二人は真正面から見つめ合う格好になる。その間に馴染む空気は、あり得ないはずの年月を重ねたかのように自然なものだった。そう、二人がそれに気がつかないほどに。
「また組みたいな、貴方と。シャムロック」
「ああ、僕もそう思うよ。タリズマン」
 これが、エメリア・エストバキア戦争を翼を並べ駆け抜けていくこととなる『黒翼の鳥』と『金色の鳥』、その真の出会いだった。

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