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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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真・女神転生if... SS
この話のみのヒーローとチャーリー。同人誌からの再録。


「どーよ、わかりそうか?」
 二年H組の教室を出た廊下、その端の突き当たりにふたりの男子生徒が立っていた。倉庫になっている空き教室の前なので掃除もおざなりで普段から埃っぽく人があまり近寄らず、いまもふたり以外には誰もいない。金髪で耳にピアスをつけた派手な生徒―黒井慎二が、壁に寄りかかって自らの腕につけた機械類をいじくり回している男子生徒―蘇芳浩次(すおう・こうじ)の手元を覗き込む。
「んー、まあ感覚でなんとか。あーっと、……これで起動すると思う」
「んだよ、意外と頼りねーな」
「扱えないってあっさり言い切りやがった、どっかの奴よかマシ」
「テメエ、一回死んどくか?」
「今日は日が悪いんで勘弁。おっ、動いた動いた、って、はあ? 何だ?」
 蘇芳の左腕には小型のキーボードが括りつけられている。持ち上げられているディスプレイが閉じれば蓋になるように設計されており、そこにはいま、青白い色をした不気味な人間の顔が浮かび上がっていた。
「『電脳占い師ノヴァ』? これ占いソフトだったのか?」
 電算部の佐藤から譲り受けた悪魔召喚プログラムをインストールしたつもりだった蘇芳は多いに不満げだが、黒井はその顔にボソリとつぶやく。
「顔コワー。ムダにポリゴン使った失敗例って感じだ」
「お前が言うなよ、センスはどっこいだ」
「う、うるせーな! あ、おい、名前聞かれてんぜ」
「あー、はいはい。しかしなんで占いなんだ。ユーザー登録でも兼ねてるのか?」
「コイツの顔で本名入れんのって、なんか怖くね?」
「そもそも入力できる文字数が少ないしな。簡単なのでいいだろ」
 軽いタッチで次々と質問に対する答えを入力していく蘇芳に、しばらく見ていた黒井は感心して、
「ヘーえ、手慣れてんな。んな小さいのでよくサラサラ打てるもんだ」
「小さいけど、配置がすごく使いやすくなってるからな。八幡先生、相当気を使って作ってるわ、これ。ホント変に気配りの人だな~」
「はーん、よくわかんねーや。オレ、パソコンなんてネットでしか使わねーし」
「エロサイト?」
「違うわボケッ!」
「ブラクラには気をつけろよー。よっし、入力終わり~」
「こ、この野郎……」
「さて、いまの結果でなにされたのか。ちょっとした変化でもつけるオマケか、……あ? なんだこりゃ?」
 怒りで肩を微かに震わせている黒井を完璧に無視して、蘇芳は楽しそうに、いったんすべての表示が消えた画面を見ていた。しかし、なにかを処理しているのか数度画面が瞬いたのちに表示された、非常にシンプルな表示とコマンド類にまた首を捻る。
「《仲魔を喚び出す》、《仲魔を戻す》……、なんのことだ? 『仲魔』?」
「さっぱりだな。八幡に聞いてみっか?」
「あー、いや、それよりも佐藤にしよう。確か趣味でこういうソフト類、組んだりしてるみたいだし、コレも危険じゃないってわかれば興味あるだろうし」
 意味のわからないコマンドの羅列、その一番下に《待機モードに移行》の一行を見つけていた蘇芳は、それにカーソルを合わせる。すっと画面が暗くなり、……次の瞬間、パパッと赤い光を放った。
「うわあ!?」
「蘇芳! オマエなにしたんだよ!」
「なにもしてねー!」
 うろたえるふたりの前で、画面に文字が走る。

《警告 マグネタイト胎動を察知 LV.10 over》
《戦闘モードに自動移行》

「戦闘モードぉ!?」
 裏返りかけた黒井の声に、蘇芳がハッとして、
「敵か、さっきみたいな」
「はぁ!? オマエが『餓鬼』って呼んでたアレかよ!」
 裏返りから悲鳴に近くなった声をさらにあげつつ、黒井は辺りを見回すがなにもいない。同じく周りに目をやった蘇芳が、ある一点で視線を止めた。
「おい、ここの中、お前確認した?」
「……そん中にいるのかよ」
 扉の向こうは、物置になっている普段は無人の教室だ。悪魔が潜んでいても、おかしいことはない。一瞬、顔を見合わせると、仕方ないだろ、といった表情を浮かべた蘇芳に憮然とした黒井が、
「やるのか?」
「放っといたら、後からツケが来るだけだろ?」
「ハッ、正義の味方じゃねーぞ、オレらは」
「俺だってそんなつもりはないね。たださー、新しいモノは使ってみたいってのが人情?」
 その表情が一転してニッとした笑みになり、蘇芳が黒井にディスプレイを示す。そこには、戦闘モードにおけるコマンドとおぼしき英単語が並んでいた。
「見ろよ。《FIGHT》、《TALK》、《COMP》などなど。……これってさ、悪魔を使うためのコマンドで、つまりこの《TALK》が悪魔と話せるってことだと思うんだよね俺は」
「なんで!?」
「『悪魔召喚プログラム』、なんだ。その方が『らしい』」
 とてつもなく愉快そうな蘇芳に、黒井はどうしたものかと頭を抱えそうになる。ひょっとしてコイツはヤバい奴なんじゃないのか。コイツに協力するという自分の選択もヤバかったんじゃないか。早くも後悔を始めた黒井の心中など知らず、蘇芳はさっさと物置の引き戸に手をかけている。
「おい、蘇芳ぉ?」
「一応、バット構えててくれよ」

§

 パラパラと、その者がしゃべった言葉がディスプレイに文字となって表示される。
《学校は楽しいな~、オイラ学校だいすき~》
 そのあまりに平和なフレーズに、蘇芳も黒井も半ばポカンとしていた。最初に遭遇した悪魔『餓鬼』は、問答無用にこちらにむき出しの殺意を向けてきたというのに、この、落差のあり過ぎるのん気さはどうだろう。
《ヒーホーヒーホ~、学校は楽しいな~》
 物置の中にいたのは、学生服を着た、雪だるまに手足をつけた悪魔。真ん丸な様子にとても愛嬌があり、子供向けのマスコットかなにかと言われても納得できそうだ。そいつは人間とは感覚が違っているのか、しばらく引き戸を開けたふたりに気がつかないでご機嫌に鼻歌を歌っていたが、やがて、
《……あれ? キミたちは?》
「雪ダルマがしゃべってら……」
《ヒーホー! ユキダルマじゃないホ。キミ、失礼ホ!》
 黒井の正直な言葉に、キイキイと即座に彼らの言語で言い返してきた。が、そう言われてもやはり雪だるまにしか見えない外見でコロコロと動くと、可愛らしくお辞儀をしながら自己紹介をする。
《ボクはジャックフロストだホ~!》
「……雪と氷の妖精ジャックフロストか。すげえ、ちゃんと会話できるし」
 嘆息しながら腕につけたコンピュータをなでる蘇芳に、ジャックフロストはハタと不思議そうに首を傾ける。恐らく顔も訝しげになっているのだろうが、それを読み取るにはいささか表情に乏しかった。
《キミたち、ボクの言うことがわかるホ?》
「この機械が勝手に翻訳してくれるんだ。お前は俺の言葉がわかるのか?」
《ボクらはキミたちの言葉、わかるホ。キミたちがわからないから、お話できないホ》
「へえ。人間ってのはやっぱり無知な生き物だな」
《ヒーホー! キミはすごいホ、そうやって認めるのはイイことでムズカシイことホ~!》
 喜びを表現しているのだろう、ヒョコヒョコと飛び跳ねる姿はまた愛らしく、悪魔というよりは大きなぬいぐるみのようだ。思わず苦笑した蘇芳に、ジャックフロストが文字通り転がるように近付いてきて、蘇芳の腰ほどの位置から両腕を広げて顔を見上げた。
《ボク、キミについていくホー!》
「へ?」
《もうボクとキミは友達ホー! ボクは友達を放っておけるようなハクジョウモノじゃないホ~。ボクは友達がたくさんたくさんいるのが幸せホ。目指せ友達ヒャクニンだホ、ヒホホ~!》
「……友達か。おっし、一緒に行くか」
《ヒーホー、うれしいホ! じゃあ、キミの名前はなんていうホ?》
「蘇芳、浩次」

《交渉成立》
《ジャックフロストを仲魔にしますか?》
 YES
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
《ジャックフロストのデータを取得、登録完了》
《個データ内に契約主『スオウコウジ』上書き完了》
《個データ内に翻訳プログラム組み込み完了》

「今後ともヨロシク、ホ~!」
 組み込まれたという翻訳プログラムの効力なのか、ジャックフロスト自身の口から子供っぽい声が聞こえ姿がかき消える。驚いた蘇芳だったが、同時にディスプレイにパッとジャックフロストのデータがスクロール表示されて、ほうっと息を吐いた。
「……なんか俺、感動しちゃったよ。すげえコレ。仲魔ってそういうことか」
「こっちはオマエの神経の図太さに感動したっての」
「しっかし、どうするよどうするよ。ものすげー楽しくなってきちゃったりしてきた」
 キーボードを叩きながら瞳を輝かせている蘇芳に、一言も口を出せずに事態を見守っていた黒井はさらに頭痛を覚える。
「なんで頭抱えるんだよ。使えるモノは使えばいいって発想だって。敵は少ないほうがいいだろ?」
「じゃなくてよぉ、いや、そーなんだけどよぉ、その、悪魔だろ? 大丈夫なのか?」
「いまのこと害はない、よってすべて良し。俺は変な堪え性もマゾッ気もないから安心しろって。つーかそんなんだから素直に共感してやったんだけど? お前の『協力してやってもいい』って言い草にさ」
 チラチラと腕のコンピュータに、明らかに嫌悪を込めた視線を向ける黒井に、蘇芳は続ける。
「ユーザー登録もさっきの奴との契約も俺の名前で済ませてある。俺以外には使えない、言い換えりゃ俺さえ押さえときゃいい。イザとなったら俺ごと殺せば万事オッケーだろ? なあ?」
 ニヤニヤしながらそう言った蘇芳に、黒井は心底腹立たしそうな態度で背を向け、先に教室から出ていった。
「けっ。言ってろ、偽善者」
「ああ、言いましたさ。偽悪者」

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