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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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真・女神転生if... SS
この話のみのヒロインとアキラ。同人誌からの再録。

「死なない、私は死なない、帰る、絶対に帰るんだ、帰れるんだ、死なない私は」
 彼女は、舛花由香里(ますばな・ゆかり)は呪文のようにそう言い続ける。
青黒い石に腰かけた少女、片手には使い込んだ名称不明の軽機関銃、それを見つめる不健康なまでに青白い顔に浮き上がる赤い唇が必死に動き続けているのを、宮本明は無感動に見つめていた。
 客観的に思えば、いまの舛花はかなり不気味だ。栗色のショートヘアに目鼻立ちのはっきりした顔、小柄な体躯は快活な印象を生み出してしかるべきだが、彼女からは病的なイメージしか湧かない。灰色の空のような不安定さを感じるだけだ。
「おい、舛花」
「…………」
「舛花」
「なに?」
 吐き捨てるような返答がノモスの小部屋に反響した。声は低く小さく、顔も上げす、指も銃の引き金に掛かったまま微動だにしない。それでも宮本の呼びかけは、呪いの言葉を止めることには成功した。
「少しは落ち着いたか?」
「う、る、さい。あんたみたいのがいたら落ち着くものも落ち着かないっ!」
「……悪かったな」
「悪いわ、本当に悪い。あんた、本当にどちらかにまとめてよ。気持ち悪い気持ち悪い。私までそうなったら、どうしてくれるのよ」
 どうやら呪いの言葉は止まっていなかったようだ。宮本は大きくため息をつく。
 これは発作だ、舛花由香里が抱えた、どうしようもない病気の。宮本がアモンという悪魔と融合したように、舛花は内部を少しずつ、しかし確実に、真の魔界であるノモスに凝った悪意に犯されていっている。
「ねえ、私はちゃんと人間なの? あんたみたいに、おかしなことになってない?」
「なってない」
 宮本は即答したが、舛花は信用しなかったらしい。ゆるゆると持ち上げた自分の左の手のひらを見つめ、薄汚れた制服に包まれた腕を舐めるように見ていき、そのまま、岩に腰を下ろした膝へと視線を流していった。
 魔法や回復の泉で癒すとはいえ、身体に傷跡は残る。むき出しの足に白や赤でうっすらと線がついている様は、生き抜いてきた勲章というよりも、否応なしに刻まれる年輪のようだ。そして舛花にとっては、それは自分を侵食していく悪魔の呪詛に等しい。
「なんで『こっち』には鏡がないの? 自分の目を信じろって無茶よ。ああ、もう」
 そういえばなぜだろう、と宮本は自身の中にあるアモンの知識を参照したが返答はない。魔界の王にとっては『鏡』というものなど瑣末過ぎる項目らしい。それを舛花に伝えようかと一瞬だけ思案し、きっとろくなことにならないと判断して、やめた。別に、舛花はいまの疑問に答えがほしいわけではないのだ。
「知ってる? 脳ってね、狂ったりしないように自分で自分が見るものを都合よく変えたりするんだって」
「鏡も自分で見るんだ、意味ねぇな」
「あはははははっ! そうね、そうだね! あーあ、もう私だめかも。私もとっくに、あんたみたいに悪魔になってて、でも認めたくないから見えてないだけなんじゃないの、ねえ?」
「俺が信用できねぇなら、仲魔にでも聞いてみたらどうだ」
 戯れの答えを、宮本は一瞬の後に悔いる。
 うつむいたまま肩を揺らしていた舛花が、ぴたりと笑いを止め、ゆらりと顔をあげた。自身の肉体の重さも感じていない、すべての物理法則を無視したようなその動きに伴って現れるのは、穢れたものを高潔に見る、宮本が最も嫌悪し愛している、舛花の、人間の、瞳だ。
「アンタのそういうところが、一番おかしいのよ」
 自分とは違う次元に生きるモノを見る瞳に宿るのは、異物を排斥する傲慢さを肯定した輝き。しかし宮本にそれを指摘する権利も拒絶する権利も、ましてや愛する権利もない。彼女と己の間に間違いようもない断絶があることくらい、宮本はよくわかっている。
「もういや、早く帰るのよ、帰るの、帰ってやる、絶対に帰るの」
 またうつむいて、舛花の呪いは続いていく。
 この場合、帰ることを信じている人間であることが勝敗の分かれ目なのだろう。
 宮本はその自分の結論に、静かに目を閉じた。
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