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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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 ACE6小ネタ。
 連作と関係している感じのお話。シルワート解放後、まだタリズマンとスカイキッドが打ち解け切れてない頃のとある日の会話。なんだかシリーズ化している、うちのスカイキッドはこんな人です、という話。勢いで書いているので細かい部分はご容赦。




 才能が与えられるものだとすれば、『天才』の定義は『与えられた人間』であるのか。彼、スティーブン“スカイキッド”マッカーシーはそれに『否』と答える。スカイキッドにとっての天才の定義とは『物を使いこなす技能に優れる』ことだ。技能とは各人が磨くことが可能な部類の物であり、与えられるものではない。
 そして彼は、一部には天才と呼ばれている。
 本来の意味で『天賦の才』を讃える称号というのならば、彼はそれを拒絶することだろう。

 噂には聞いていた。スカイキッドらがシルワートにて籠城戦を強いられる中、自由エメリア放送を通じて彼らに語られ続けた『天使たち』。その代表とも言うべき、いつしか反攻の象徴となっていった『無名の天才』。――それが年下の女性パイロットだと人づて聞いたときに覚えた感情をなんと表現すればいいのか、スカイキッドは深く考えたことはなかった。それは言葉にし難い感情を自身が納得する形に落とし込む必要も、他人に伝えられるだけの文章にする必要もなかったからだ。
 無論、女性だと侮るつもりも、開戦前には自身が若手ナンバーワンだとか言われていたことを驕るつもりも毛頭なかったが……状況に相応しい高揚を覚えさせられたことは確かなのだ。今は辛酸を嘗めているエメリアだが、きっと、いや必ずや再び立ち上がる日が来るのだと、すべての理不尽を覆せるだけのなにかがエメリアの空に育まれているのだと。
 もしかしたら単純に、そこに自分がいないのが少しばかり悔しかったのかもしれないが……ともかく彼は決めていた。本人に会ってその顔を拝んでやるまでは、自身の答えを保留にしておこうと。
 そして。

「あ……んたがガルーダ1?」
 シルワート解放後、初めて顔を合わせた『天才』。そのタリズマンに、そうだよ、と簡単に頷かれてキッドはどう反応したものかとっさに判断ができなかった。ちょっと待ってくれコイツが本当に? 雰囲気が容姿が自身よりもかなり年下に見えるとはいえ、それにしてもこれは、なんというか、想像できる範囲を軽く飛び越している。正直を言ってしまえば、その隣に立っている相棒、長身のガルーダ2のほうが『ガルーダ1』の位置にしっくりくるんじゃないか? まあ、会う前に無線ですでに女性の声を聞いてはいたけども、しかし。おまけにそんなキッドの反応をどう取ったのか、かくりと首を傾げる仕草でますます不可解な存在に見えて来る始末だ。
「初めまして。同じ若手だし、会うの楽しみだったんだ。スゴイいい腕だって聞いてたとおりだね」
 なにがそんなに愉快なのか、ニコニコと機嫌の良い顔は見とれてしまうような整ったものではない。それこそ美女と評判のもうひとりの女性パイロット、ラナーに比べればタリズマンの容姿は凡庸、むしろ奇異なのかもしれない。エメリアでは珍しい濡れ羽色の髪は、少なくともキッドのイメージする『天使』とは重なるところはなかった。そのせいというわけではないのだが、普通ならば親しみが感じられるはずの愛嬌のある笑顔に、じわりと腹の底に鉛を飲んだような感触が蠢く。
 そうじゃないだろ、こんなんじゃないだろ。
 お前は、空ではあれだけの『エース』だったじゃないか。
 そんな言葉が脳内を巡るのは、それが押し付けがましいイメージだったとしても、エメリアの未来が少なからずこの存在に左右される事実に基づく正統な行為なのだろうか。
 そんな誰に対するものでもない言い訳を頭の片隅に抱きつつ、しかし態度では彼女を歓迎すべくスカイキッドは真っ直ぐに手を差し出した。ただ表情は、彼が持ち得る中で最も不敵なものになってしまったかもしれない。それは多分、意地みたいなものと、あとは少しばかりの感情の発露で。
「よろしくな、ガルーダ」
「うん、よろしく」
 握り返してきたその手の力が案外強かった、そのことがやけに印象に残ったのは何故なのか、今もってスカイキッドにはわからない。

 それから、少し経ったある日。
 シルワート解放以後、勢いのまま続く出撃の合間、つかのまの平穏な一日にたまたま立ち寄ったレストルーム。そこにいたタリズマンとのとりとめない話の先が、初めて出会ったときのことになんて行き着いてしまって、スカイキッドは半ばふて腐れたようにしていた。つーかなんでそんな死亡フラグっぽい話なんてすんだよ、と一つ椅子を挟んで隣り合わせに座った相手に対しブツブツ口をついて出てしまうのは実のところ建前で、本心ではただ気恥ずかしく気まずいってことなのだが、
「私、あの時、嬉しかったんだよ」
「あ?」
 さらに事態を悪化させる、まあそれはキッドの基準でだが、ともかく彼にとっては居心地の悪さを倍増させるタリズマンの台詞に思わず眉根にしわを寄せる。が、相手はそんなキッドの態度に動揺した様子もなく、話を振ってきたときと同じテンションでさらりと続けた。
「キッドはあの時、私を助けてくれたんだ」
「助けた?」
 彼女の言い分は余りにも理解しがたい。俺達を、シルワートを『助けた』のはお前のほうだろ、とキッドが反射的に返してしまいそうになる前に、タリズマンはふいっと天井へを視線を向けることでそれを制し、まるでそこにかつての自身を見ているかのように遠い目をして、
「あの頃って、私、妙にみんなに期待されてた。でも、それがイマイチわかってなくて。けどさ、キッドを見たときに思ったんだよ。この人は生きてる、隣に並んでくれる。私は確かにこの人を助けたんだ、ってさ」
「は? どういう意味だ?」
 それはつまるところ、他の連中は死んでるようもなものだったってことか? 隣で翼を並べる資格がないなどと抜かす気なのか。確かに援軍が来るまでの数日はそろそろ限界が見えてきていると言ってもいい状況で、わかりやすく言えば生きた心地がしないって場面もあったことはあったが……それを表に出したことなんてただの一度もない。このタリズマンは言うこと成すこと単純だから、妙な比喩が込められている可能性も低いそれをどう取るべきなのか。
 頼むから、これ以上、妙な事を言ってくれるなよ。あの時にように、自身のどこかで蠢いている澱を感じながら、スカイキッドはいっそ挑むようにタリズマンを見つめ、
「うん、それそれ」
 が、そんな険しい視線に対しタリズマンが返して来たのは、彼が想像だにしなかった嬉しそうな表情だ。そして、机に肘をついていた腕を持ち上げて左手で拳を作る。それを、広げた右手とぽんと胸の前で打ち合わせ、
「ちゃんと返ってきた。それが本当に嬉しかったんだ」
 ――ああ、そうか。あの握った手の強さは、もしかして感謝か感激だったのか。
 すとんと、理解が降りてきたようにスカイキッドは思う。
 解放されたシルワートでタリズマンを迎えた連中は、その天賦の才を持つとされる者―『天使』を喜びと共に迎え入れた。それは決して間違ったことではない。しかしタリズマンにとっては、それは鏡を見ているようなものだったのかもしれない。己の行動の結果をただ延々を見せられるだけの、一種の停滞。停滞が恐怖に等しいことはスカイキッドだって身に染みている。しかし恐怖を打ち破り、これから行き先の未来を知っている者もまた彼女の前にもいたのだ。
 スカイキッドが合点がいったのが表情でわかったのか、もしくは彼のここからの反応を予測していたのか、はは、とタリズマンは珍しく自嘲気味に笑って軽く目をそらし、
「ごめん。なんかすっごい傲慢だって自分でも思う」
「……別に俺はそうは思わない。ただ、お前って本当にバカじゃないか?」
 バカとはなんだよ、と、途端に唇をとがらせ腕組みまでしてみせたタリズマンの仕草は気取ったものなのか、それとも素なのか。どっちでもあり得そうなのがこの人間だ。まったく、シャムロックがまるきり保護者のように接する心情もわかってきた気がする。だって、こいつはバカなんだ。自分にできることをちっとも弁えてないくせに、託される願いにあっさり―もちろん本人としては相応の努力を払っているし、幸運を呼び込む気質を持ってもいるのだろうが―応えてしまう。誰かが名付けたのかそれとも自分で考えたのか、『護符(タリズマン)』とはよく言ったものだ。
 しかしそれでも、スカイキッドはその御加護に賭けてやろうなどとは思わない。賭けなんてとっくの昔に始めているのだ。このエメリアが勝利するという目に、スカイキッドは己のすべてをつぎ込んでいる。そいつを勝利へと導くのは、天使でも天才でも、ましてや神様でもない。ただの、この地上を這いずり回り、僅かな力で空を愛しむ人間たちに決まっている。
「別にバカでもいいだろ。そのために俺達がいるんだ」
 スカイキッドがわざとそっけなくそう言ったのに、タリズマンはその表情を変えた。一瞬、真剣な色を帯びたその瞳は、しかしすぐにそれを隠すように弓形を描く。そして彼女は椅子から軽く腰を上げ、
「おうよ。よろしくな、キッド」
「ああ、よろしくされてやるよ」
 差し出された手を握り返しそして返されたその力は、互いを頼もしく感じるような強さであった。
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