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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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 ACE6小ネタ。
 ゲーム開始前、エ・エ戦争開戦直前のお話。スネークピットと、オルタラに住む少女の交流。つまりオリジナル色が強いのでご注意を。
 文中では「男」と表現していますがスネークピットのことです。うちのスネークピットはこんな人です、という話のつもりなんですが…。勢いで書いているので細かい部分はご容赦。

拍手、ありがとうございます。
励みになります。


 少女には、『おじさん』の友達がいる。
 そのおじさんは、少女から見ると『面白い人』だ。なにしろ、お父さんと―彼女の親と同じくらいの歳に見えるのに、お友達になれてしまったくらいなのだから。少女の友人には、こんな歳の人と仲の良い子なんていない。だから少女にとって、これはちょっとした秘密で、同時に心に秘めた自慢だ。
 そして少女は今日も、夕暮れ前の柔らかな日の中、そのきっかけとなった場所へと心を弾ませながら向かっていく。手に持っているのは、母親が持たせてくれたお菓子の入ったバスケットだ。『おじさん』は甘いものが好きだからきっと喜んでくれるだろう。それに、『あの子』も。
 とは言っても、今日、おじさんがそこにいるかはわからない。はっきりとした約束はしたことがないし、おじさんは忙しい人のようで本当に時々しかそこにいないのだ。いなかったらガッカリしてしまうことは少女もわかっているが、お友達に会いたいって思うのは当然のことだから期待はどうしてもしてしまうわけで。
 街中にある小さな緑地に向かって路地を走る少女の耳に微かに聞こえてくるもの。それに表情がぱっと明るくなる。これは『あの子』の声、おじさんと知り合うきっかけになった『あの子』が、おじさんに会えて嬉しいと言っている声なのだから。その喜びに一刻も早く追いつきたいかのように少女の足はますます速まり、
「こんにちは、おじさん!」
 たたた、とその場に駆け込んで来るのと同時に上げた声に、屈み込んで猫を相手にしていた背中が少女に振り返る。
「ああ、こんにちは。……って、うわ!?」
 にこりと笑った男の顔に、がばっとばかりに猫が飛びかかる。それはまるで、よそ見をしないで自分だけを見てほしいと抗議したかのようで、驚いて声を上げた男は情けなくもそのまま尻もちをついた格好になってしまった。それに少女がころころ笑い出すのを見て、なんとか猫を引きはがした男もまた朗らかな表情を浮かべる。
「久しぶりだね」
「うん! お久しぶりだね、おじさん」
 前に会ったのはいつだっただろうか、と少女はなんとなしに記憶を探ってみる。……多分、夏になる前だ。今はこんな風に夕方に出かけるのがいいと母親に諭されてしまうような時期だが、あの頃は昼間こそがとても過ごしやすい時期だったはず。そしてとてもよいお天気で――それは初めての日もそうだった、と少女は思い出す。その日、彼女は気持ちのいい天気につられて、お気に入りのワンピースに下ろし立ての靴を履いてお出かけしてみて、そこで出会ったのだ。その頃はもうちょっと小さかった『この子』と『おじさん』が、彼女の散歩コースであるここで、にらめっこをしているのに。
 あまりに真剣な様子に一度は気圧された少女だったが、だからこそ、何事なのかと大いに気になってしまったのも事実だ。それに、少女にとってこの猫はここを通るたびに目に触れる存在で、いつか触ってみたい、お友達になれたらいいのにと思い続けていた憧れだった。その相手になにをする気なのかと、勇気を出して声をかけてみて。
 そのとき男が言ったのは一言。

「迷子がいると気になるんだ」
「……猫さんが迷子?」
「多分、そうなんじゃないか?」
「あのね、おじさん。この猫さんは迷子じゃないよ? いつもここにいるの。夜になるとお家に帰っていくのよ」

 そのときのおじさんの、びっくりした顔を少女は今でもよく覚えている。なにしろ大人がそんな表情をするなんて知りもしなかった、いや、むしろ思ってもいなかったから強く印象に残ったのだ。
 それから数ヶ月。ここで話した機会は両の指に足りないくらいだが、少女と男はすっかり仲良しになっていた。少なくとも少女にとっては、大切なおやつを分けてもいいと思えるくらいにはこの『おじさん』に親しみを感じていて、今日もまたバスケットから出した母お手製のお菓子をベンチで男に振る舞う。ありがとう、と喜ぶ男の膝の上にはすました顔で猫が座り、まるで少女に男を取られまいと牽制しているようにも見えた。それだけこの猫が男に馴れているということなのだろうが、男もまたその膝の存在を愛おしそうに撫でて、
「この子にもあげていいか?」
「うん、いいよ。私もお友達だもん」
 少女から受け取った焼き菓子を少しばかり割り分け掌にとってうやうやしく差し出せば、そんな扱いが当然だと言わんばかりに男の手から猫が献上品を味わう。それを眺めながら少女はふと思いついて、男を見上げた。
「あのね、おじさん。聞いてみてもいい?」
「なんだ?」
「おじさんは警察の人ですか?」
 真っ直ぐに見つめられ、まるで教師に質問するように問いかけられて男は面食らう。
「どうしてだ?」
「だってね、困った人を助けてようとするのは、警察の人のお仕事だよ?」
 少女の純粋な疑問に、男は考え込む。それはなにかごまかそうとしているわけではなく、この小さな好奇心にいかにして答えるのが適当なのか探っているのだろう。それだけ男の『職業』が少女の未成熟な価値観にはよくないということなのか、あるいは、単純にこの年頃では理解できないと思っているのか。やがて判断したのか、男は一つ頷く。
「警察じゃないな。先生か」
「先生なの!? 学校の先生?」
 驚いた少女の背筋がとっさにピンと伸びるが、男は、いいや、と訂正して、
「先生でもないんだ。ただ、そういう仕事かなと思っただけでね。俺は皆がそれぞれの持ち場で困らないように助ける役目を請け負ってるから、皆がどうやって飛べばいいのか、どうすれば生き残らせられるか、仕事の時はそういうことを考えてる。そうやって路を示すのは……師だろうからなぁ」
 最後の部分は、恐らく少女にではなく自身の考えをまとめようとした独り言なのだろう。しかしそこまで言ってから、うーん、やっぱり先生とも違うか、と頭に手をやって再度考え込む男に、当然ながら理解が追いつかない少女は目をぱちくりさせるばかりだ。
「先生じゃないの?」
「守る仕事、だな。困ってる人がいないときでも、いつかその時が来ると信じている役目だ」
「……難しい」
 眉根を寄せた少女に、男はハッとしてごめんごめんと笑顔を作る。子どもを相手にするのは男にとってはあまり馴れたことではないのだろうか。それでも、この少女を困らせてしまった事実からは逃げないというかのように男はまた口を開く。
「俺達がそういう役目を負っているから、君は気にしなくていいんだ。君はまた明日もここへ来ればいいし、そういう毎日を過ごしてほしい。それが君の仕事なんだ」
「それでおじさんはいいんだ」
 ああ、と生真面目に答えた男に、わかった、と少女は笑顔を浮かべて頷きを返す。そこにあるのは、『おじさん』の仕事がなんなのかはわからないけど、きっと凄く立派なものなのだという確信だ。こうして楽しい毎日を送れることは少女にとってとても『良い』ことだから。それに少女が、男の手に残ったお菓子の破片を舐め取ろうとしている猫とお友達になれたのもこの人のおかげなのだ。ゆえに少女にとってこの『おじさん』は素晴らしい友人なのだし、
「お菓子、ありがとう。美味しかったよ」
 なによりも『おじさん』は、他の大人のように少女を侮らないから。
「じゃあ、そろそろ時間だ」
 掌にあった贈り物はすべて猫の胃袋の中に収まったようだ。そのまま満足げに膝でくつろごうとする猫をそっと抱き上げて、男は立ち上がる。それに少女は少し残念そうな顔をするけれど、すぐにぴょんとベンチから飛び降りた。
「おじさん、またね!」
「ああ、また」
 男は猫をベンチに降ろして頭を撫で、そして少女にも軽く頭を下げて歩き出した。見送りの言葉だけでは足りなくて、少女はブンブンと腕を振る。それに手を振り返し路地の向こうに消えていく男を見送ってから、少女は男の座っていた位置に身を丸めた猫に向かって小首を傾げ、
「おじさん、また来てくれるといいね」
 にゃお、と答えた猫に嬉しそうに微笑み、少女もまたバスケットを取ると弾むような足取りで帰路につく。その行き先、差し込む夕日を纏い少女の頬を撫でる風は、どこかに涼やかさを孕んでいた。それはつまりエメリアの短い夏が終わろうとしていることを感じさせ……ただ、それが同時に輝かしい日々の終わりとなるのを『知る』のは、『信じている』男であってもできないことだったのだ。
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