忍者ブログ
ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
16
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

九龍妖魔学園紀 SS
1st。天香学園転入前。


 やや古い、いや、だからこそ雰囲気と味のある飛行機の音を葉佩は心地よく感じていた。ロゼッタ協会お抱えの医師が交代で詰めている医療飛行機。インド洋上空をまさに飛行中の、外見とは裏腹に最新の設備が整ったその中で、葉佩九龍は差し出された紙をなめるようにもう一度確認する。
「俺が日本の高校に、ですか」
「適任だと思うがね。キミは両親共に日本人、本籍も日本にあり日本語もできる。そして学校に怪しまれずに潜入できる年齢でもある」
 その会話は流暢な英語で交わされていた。ベッドに腰掛けた葉佩の前には、でっぷりと太った人の良さそうな白衣の男がいる。つい先ほどまで彼は医者として熱砂の地獄から帰還した葉佩を治療していたが、今はロゼッタ協会の一員としての顔になっていた。
「20歳がですか? 日本の高校3年生は普通17か18歳ですよ」
 ていうかもうすぐ21だし、と困ったように首筋をさする葉佩に医師はニヤリと笑って、
「無理はないということさ。キミでないのなら、とても日本人にすらみえない高校生がひとり出来上がるだけだがね」
「……なるほど」
 葉佩もまた笑い返し、そして傍らで明らかにイラついている性格のキツそうな目つきをした看護婦が差し出すペンを取って、くるりと回しておどけて見せる。
「確かに、拝命しました」
「うむ」

≪日本にて、超古代文明にまつわる遺跡の存在を確認。
 場所は、東京都新宿区に所在する全寮制『天香学園高等学校』の敷地内。
 担当ハンターは準備が整い次第、現地へ急行せよ≫

 日本の全寮制高校の敷地内に超古代文明の遺跡なんて眉唾もいいところだが、ロゼッタ協会が乗り出したということはある程度の信憑性があるのだろう。『ある程度』のなのは派遣されるのが新人の葉佩だという点で推し量ることができる。他所属やフリーのトレジャーハンターに荒らされる前にとりあえず唾をつけておこうという魂胆なのだ。
「あー…。先生、身長体重ってここで測ってもらえませんか? あと視力も。こんなの正確な数字わかんないんで」
「かまわんよ」
 任務地であり、カモフラージュも兼ねて生徒として潜入することになる学園への転入手続きに必要な書類にはこまごまとした項目が多く、やや辟易気味に葉佩はため息をつく。それでも適当に記入してしまわないのは性格なのだろう。それに医師は快くうなずいて看護婦に準備を命じた。
「学校へ入るのって面倒なんですねぇ」
「ああ、キミはロゼッタの教育施設にしかいなかったクチかね」
「……ええ、まあ」
「おっと、これはすまなかったな。気にせんでくれ」
 言葉を濁した葉佩に、医師は肩をすくめて謝罪する。トレジャーハンターには大なり小なり事情を抱えているものが少なくない。踏み込んだ質問は本来するべきではないのだ。
 どこかこそばゆそうに計測台に立って看護婦にデータを取られている葉佩を改めてじっくりと見て、医師はひとりうなずいた。ハンターらしく肉体と精神は鍛え上げられているが、外見や振る舞い、特に顔はあどけなさすら感じられる少年のような作りをしている。本人は不満そうだが、高校生で充分通るだろう。
 ロゼッタ協会の判断は正しい。日本ではトレジャーハンターという人種への理解は皆無だ。よくて架空のもの、悪ければ盗掘屋―葉佩とそのバディとしてヘラクレイオンの遺跡に同行した老商サラーを砂漠で死にかけるような目にあわせた『レリック・ドーン』のような連中―と同じと思われるのがオチだろう。怪しまれないに越したことはない。
「どうも、助かりました。これで全項目記入終わりです」
「うむ、ではこれを本部に返信しておくよ。そのうちH.A.N.Tに登録データが送られてくるだろう」
 書き終えた紙を医師に渡し、葉佩は一息ついた心地でまたベッドに座り込んだ。意識はしっかりしているとはいえ、まだ体力は回復しきっていない。次の任務地につくまではまだ時間がある、少し眠っておこうかと医師に許可を得ようかとそちらを向くと、もう一度書類を見直していた彼が思いついたように口を開いた。
「今回の件、どうやらキミの師匠の推薦もあったようだね」

『クロウ、キミに必要なのは友人だな』
『日の光は皆に平等さ、キミはそれを早く理解しなくてはならない』

「あー…、なんか納得しました」
 いつか聞かされた師匠の言葉が脳裏に蘇る。嘆息しカリカリと黒髪の頭をかきながら葉佩は笑った。それを、医師は意外そうな顔で見る。この少年と言っていい青年の顔が、いま、一瞬、悟りきった、あるいは疲れきった老人のように見えて。
 どうやら、この葉佩九龍という新人ハンターは思った以上の事情を抱えているらしい。医師はそう思って、自身のらしくもない好奇心を押さえつけた。
「自身の技能を認められて故郷の地を踏むのも悪くはあるまい。日本語で……なんだったか、『故郷に錦を飾る』だったかな? 今度は、うまくやることだ」
「よくご存知で。ええ、まあ、そうでですね」
 その続き、あの地が故郷といえるのか、を葉佩が心でつぶやいたことを知ってか知らずか―知るはずもないけれど―医師はさらに続けた。
「秘宝の加護のあらんことを」
「……貴方にも、あらんことを」

PR
お名前
タイトル
文字色
URL
コメント
パスワード
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Copyright c イ ク ヨ ギ All Rights Reserved
Powered by ニンジャブログ  Designed by ピンキー・ローン・ピッグ
忍者ブログ[PR]