忍者ブログ
ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
21
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 【魔法少女まどか☆マギカ】創作文。
 本編開始前、まどかたちに出会う前のマミさんとキュゥべえのお話。長文書く時間が無いので、10話を見たときにふと思い付いてそのままだったネタを文章化。ありがちなネタなので、どこかでカブってそうな気がするけど……。勢いで書いているので細かいところはご容赦。







 もし、ここに誰も居なかったら?
 想像すれば、ぞっとする。この場所は、ひとりで暮らすにはあまりに、茫漠たる平原と同じに広すぎる。そこに一粒の宝石が落とされたとか聞かされても誰が探しに行くものかと笑い飛ばしたくなるほどに。
 そんなことはとうの昔からわかっていたし、それを理由に引っ越しを提案されたことだってあった。でも、それでも、守らなくちゃいけない。なぜなら、ここは還ってくる場所だから。与えられた運命の延長、それを全うして、もう一度死ぬその日までの。
「マミ? どうしたんだい?」
 リビングへと続くドアを開けたまま硬直したマミの足下にくるくると熱がまとわりつく。猫か、それに類する動物に近いかたちと温もり。ただし、大きな尻尾と耳からたなびく不可思議な部位―マミはすでにそれがなんのために存在するのかを知っている―が、この生物が常識の埒外であることを雄弁に物語っているのだが。……いや、彼自身が雄弁であることが、なによりの証明だ。
「あ、ああ、ごめんなさいキュゥべえ。なんでもないのよ」
 ぎこちなさを少しでも消せただろうか、そう自身でも心配になる表情を作るのがマミの精一杯だった。しかしキュゥべえはなにも気がつかなかったのか、ならいいんだ、とタタッと先に部屋へと駆け込み定位置である彼と同じ色をしたクッションへと身を投げ出した。それはキュゥべえのためにと購入してきて以来の習慣で、どうやら気に入ってくれたらしいと誇らしく思った時をマミは昨日のことのようにはっきりと思い出せる。
 だが、いまの気持ちはその喜びとはほど遠い。鉛を呑んだように臓腑を這う違和感は、落胆とも呼べるのかもしれない。……キュゥべえに求めた言葉を与えてもらえなかったから? 繕った笑顔を浮かべたくせに?
「ねえ、キュゥべえ」
「なんだい、マミ」
「お茶にしましょうか」
 己をあざ笑う思考を打ち消そうと、手に持っていた慎ましやかな紙箱を示してマミは微笑む。小さく印刷された店名は、最近オープンしたばかりという小さな個人経営の店のものだ。店構えに惹かれて、魔女退治のついでに購入した……そう、今日だってこの店から帰る途中に魔女を一体消滅させてきたのだからついでと言っていいはずだ。
「いいのかい? 夕食の前にデザートだなんて」
「いいの。だって、とっても美味しそうだったんだもの。我慢しきれないわ」
「やれやれ、しかたないな」
 ころんと身を転がせて起き上がったキュゥべえはいつも通りだ。というよりも、マミは彼がはっきりとした表情を浮べたところを見たことがない。しかし長い付き合いのうちに、その端々に浮かぶ感情を読み取れるようになったとは思う。例えばいまなら、台詞の通り呆れを装いつつも内心では喜んでいるんじゃないだろうか。ただ、それはいつもあくまで推測でキュゥべえ自身に真相を確かめたことは、ない。なぜなら、その必要がないから。
 手際よく紅茶を用意して、テーブルを整える。カップも皿もふたつだ。キュゥべえはわりと器用だけれど、さすがにカップを持つことはできない。でもふたりで過ごすお茶の時間だ、用意しなくてなんとする。キュゥべえはフォークを持つことだってできないけれど、ひとつのケーキじゃ、ふたりで楽しむには全く足りないじゃないか。
「はい、どうぞ」
 今日のケーキはガトーショコラ。振りかけられた粉砂糖だけが飾りのシンプルな作りは、店主の自信を感じさせた。マミがしっとりとした生地を切り分けて差し出すと、キュゥべえはパクリとその欠片を一口で頬張ってモグモグと顎を動かして味わう。
 ああ、きっと私もこんな風にしていたんだろう。そんな想いが溢れてくるのは、この部屋に入るときに唐突に感じた虚無感の続きだろうか。
 母が紅茶に凝るようになってからできた、家族の大切な習慣。休日のお茶会でお菓子を用意するのは父の役目だった。こうして父が差し出してくれたケーキで口をいっぱいにしながら、マミはいつも笑っていた。だって楽しかった、嬉しかった、幸せだった。こんなに美味しいお菓子を食べているのは世界で自分だけだと、信じて疑わなかった。そしていつかは、自分が父に負けないくらい美味しいお菓子を用意する係になるんだと、心に堅く決めていた。……もう、叶わない夢になってしまったけれど。
「どうキュゥべえ、美味しい?」
「ああ、美味しいよ!」
 ふよふよと尻尾を振ってキュゥべえはそう言う。犬は嬉しいときに尾を振るというがキュゥべえもそうなのかはマミは知らないし、これから先、聞くつもりもない。そう扱うのは嫌だったし彼が嘘を言うはずがないと、じゃあもう一口いかが、とさっきよりも少し大きめな欠片を勧めれば、またもや遠慮なくパクリと食いついた。子どものように大きく頬を動かす様子を見守りながら、マミも自分の分を切り分けて口に入れる。確かに美味しい、これはきっとその内に評判になることだろう。それを一番に見つけて、こうしてキュゥべえと楽しんでいるんだという優越感が胸に湧き上がり、同時に、そんな自分を馬鹿馬鹿しくも、思う。
「マミ? どうかしたのかい?」
「ん? 美味しくて感動したのよ。私のセンスも捨てたものじゃないわね」
「なにを言ってるんだ、マミが買ってくるものはいつも美味しいじゃないか。マミは、美味しいお菓子を見つける才能があるんだね」
「え……」
 カチャンとフォークと皿がかち合う音がするのを、マミは他人事のように認識した。それは間違いなく自分自分の手から滑り落ちたフォークが立てた音だとわかってはいたけれど、マミの意識が望む世界には必要のないものだから。彼女がずっとずっと何度も何度も繰り返して、幻であるのに現実よりも強固な、遠い昔になってしまった手の届かない『そこ』で父と母は微笑む。『マミが見つけるお菓子は美味しいね』と。
 でも、それはマミにしか見えないもの。他の誰にも認識できないものなんて、無いも同然。この広すぎる部屋にすぐに霧散してしまうくらいが関の山で。
「マミ? 泣いているのかい?」
「あ……」
「今日は怪我はしていなかったはずだろう? ソウルジェムもそれほど濁ってはいないし……」
「大丈夫、大丈夫よ。心配しないで」
 零れ落ちそうになった涙を急いで拭い、マミはキュゥべえに微笑みかけた。目の前にあるのは相変わらずの表情と紅い瞳でしかなく、でも、それ以上が存在することへの期待も、いまの彼女にはない。
「ありがとう、キュゥべえ」
 突然の感謝に不思議そうに首を傾げるキュゥべえは、マミにとって命の恩人で、共に戦う相棒で、だからこうして身を案じてくれる。そうだ、それ以上……なにを望むのだ。だれにも顧みられることなく終わるはずだったマミのすべてを、もう一度つなぎ合わせてくれた。それだけでも身に余る僥倖のはず。
 でも、それでも。これくらいは許されるだろうか?
「本当にありがとう」
 こうして、その存在に手を伸ばし触れて、確かめるくらいは。


PR
お名前
タイトル
文字色
URL
コメント
パスワード
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Copyright c イ ク ヨ ギ All Rights Reserved
Powered by ニンジャブログ  Designed by ピンキー・ローン・ピッグ
忍者ブログ[PR]