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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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ACE COMBAT 6 SS
グレースメリア開放戦
捏造を多分に含む




 言葉が、出なかった。
「なんなんだよ、これは」
 違う、そう思う中でかすれた声が聞こえたが、それが自分のうめきだとはすぐに気がつけなかったのだ。それ程までに、ワーロックは頭上に展開する空戦に心を奪われていた。
 一度はゴーストアイによって作戦成功が宣言されたはずだった。首都を取り戻した、ついにやったという実感がわき上がり始めた矢先、それに水を差す……いや、それどころではなく、一度は止まった時計の針だろうが動かしてみせようという傲慢に充ち満ちた声が無線に割り込んできたのだ。

《まだ終わってはいないぞ、ガルーダ》
《! ガルーダ2より1、いまのが聞こえたか?》
《ガルーダ1、聞こえてるよ。やっと来たんだ、ずいぶん遅い登場だな》
《こちらにも都合があってね。だが、この空で天使が俺を待っていてくれたとは感激だ》
《……待ってたわけじゃない。これが必然ってだけ》
《そうだな。今まで気が気じゃなかったが、これで憂いはなくなる》
《相変わらずつれないな、エメリアの天使? だが、真の戦争はここからだ》
《真の、戦争?》
《ゴーストアイよりガルーダ隊! このスピード、間違いない奴だ!》
《もはや守るべきものは腐った政治や傷を負った大地ではない》
《ミサイル急速接近、複数、複数だ! なんだ、これは……っ》
《守るべきもの……それは未来だ!》

 今、ミサイルの軌跡も生々しい灰色の空に展開する敵は、たった一機の戦闘機とそのお供らしき無人機たち、それだけだ。それが首都奪還戦までを生き残った精鋭揃いの全エメリア航空隊を相手にしている光景は、まるきり冗談にしか見えない。……いや、あるいは黙示録の再現か? あれは本当に、命のない戦闘機なのか? 長く軍人であり続けるワーロックの記憶にすらない異常なスピードで空を飛び回り破壊をまき散らすあれは、もはやこの世のものとは思えない。ああ、そうだ、魔法のほうきに乗った異世界の魔術師かなにかじゃないか? ほら見てみろ、魔術師が杖を振れば、なにもない虚空から光のようなミサイルがいくつもいくつも湧いて出て、地獄から使い魔たちが無尽蔵に召喚されてくる。そしてやつらは、故郷にご招待しようとばかりに悪意を発散し襲いかかっていくではないか!
 だが、ついに舞い戻ったエメリアの鳥たちも黙っているはずがない。強奪したグレースメリアを我が物顔で喰らい尽くしてきた者を一匹たりとも逃がすまいと、残された最後の力、いや、それ以上のなにかを燃やし尽くして無人機に立ち向かっていく。それはたったひとつの目的―あるいは打算なのかもしれない―のため、いつしか、この戦争に身を投じざるを得なかった彼らの希望にまで成長した存在を、その最後となるはずの舞台へと導くため。
 魔術師を討ち滅ぼし掠め取られた宝を取り戻さんとする彼らの願い、そのすべて背負い羽ばたく天使の翼、あるいは、眷属の血を吸って生きる憎き無法者共、その親玉の喉笛を食いちぎらんと閃く凶鳥の翼は、青く輝く紋章と共に。
「タリズマン……ついに最初から最後までお前頼みになっちまったな」
 ワーロックがガルーダ隊と共に初めて作戦に臨んだのは、ケセド島の戦場だった。そもそもワーロックが率いる戦車大隊はケセド島駐留の部隊であり、紛争とは一番遠い存在だと思われていたほどだったのだ。それが、撤退してきた軍と合流を果たしてからは、エメリアの主力となって七ヶ月に及んだ反攻作戦を戦い抜いてきたのだから皮肉なものだ。
 この七ヶ月の間、ワーロック隊が参加したうちで彼らガルーダの手を借りなかった戦いなどない。絶望の一歩手前まで追い詰められていたケセドの頃は、ガルーダを含む航空隊がヴィトーツェ防空に成功したと聞いただけでも心が躍り上がったものだ。そしてヴィトーツェで得た勢いを殺すまいと稼働戦力の九割を投入した一度きりの賭け、シプリ高原戦。そこでガルーダ隊は本格的にワーロック隊の支援に回り、的確ではあるがどうにも常識を一歩はみ出がちな一番機とそれをうまくフォローしつつ僚機の無謀すら戦場に還元する二番機という奇跡のようなコンビネーションに驚かされたものだった。……ああそうだ、その勝利の際に、誰だったろうか、エメリアの真の戦争はここからだと雄叫びを上げたっけな、とワーロックは思い出す。
「なら、奴にとっての『真の戦争』ってのはなんだ?」
 ぎり、と空を睨む瞳に力を込めてワーロックはつぶやく。そう、あの敵戦闘機パイロットが、遅れてきた真打ちとばかりに悠然と―これはあくまで比喩で、実際には凄まじいばかりの高速飛行で登場したのだが―この戦場に現れた際にまったく同じことを言ったのだ、『真の戦争はここからだ』と。
「じゃあ、これが本当の戦争だって言うのか?」
 壊滅と言っていい損耗状況にあるワーロック隊には、もはや地上からの支援を行うすべはないし、なにより今は制圧ポイントを維持することに専念せねばならない。なにしろ、戦争はまだ終わってなどいない。この街のどこからいつ伏兵が踊り出してくるかもわからないのだ。それはどの地上部隊も同じであろうし、かろうじて未だ続く艦隊からの砲撃が低空を飛行する無人機にダメージを与え、同時にガルーダに対し僅かながらの電子支援を行っている程度だ。
 つまりそれは、『真の 戦争』が彼らには手の届かない高みにしかないとでも、この魔術師のまやかしのような戦いが……未来を守るとでも言いたいのか?
「……なにが、真の戦争だ」
 煮えたぎりこみ上げる怒りで、ワーロックの声が震える。
「なあ、ガルーダ……?」

§

《シャムロック、後方に無人機来てるぞ!》
《く……! 大丈夫だ、振り切れる!》
《ああああ~! なんなんだよ反則だろ、これ~!!》
 ひっきりなしどころか鳴りっぱなしのアラートに耐えきれなくなったのか、タリズマンがいつもに増して子供じみた悲鳴を上げた。さもありなん、果たして何連ミサイルなのか想像もしたくない雨あられの火の矢、その隙間を埋めるように無人機の機銃が打ち込まれ、非常識にも程がある弾幕を作り出しているのだから。ガルーダの二機は、それを隠れ蓑に迫り来る敵機体―ノスフェラトを幾度も迎え撃ち、逆にこちらの射程に捕らえようと全神経を集中させた飛行を続けていた。
《どうする? いくらなんでも奴の無人機だって無限じゃないはず、つきるまで粘るか?》
《……我慢比べじゃこっちが不利だよ。無人機は皆に任せてヘッドオンに持ち込む、カバー頼んだ》
《待てタリズマン! いくら君でも奴を相手にいけるのか?》
《自信がなきゃ言わない。いける、やってみせる》
 その声に、鮮やかにシャムロックの脳裏に描かれるもの。先を飛ぶ何重もの鋼鉄にくるまれたコクピットの中、さらにメットとマスクに隠されているはずの彼女の息づかいと表情までもが手に取るようにシャムロックにはわかった。
 彼女は今、笑っている。
《なあ、シャムロック。ここをどこだと、私たちを誰だと思っているんだ?》
 いつしかその身に多く重ねられていた幻想、その手に渡されたたくさんの事柄、そして望んでその胸に受け止めてきた僅かばかりの望みたち。それらすべてを信じて解き放ち彼女は挑む、挑もうとしている。だから、その隣に並ぶことを許された者として、シャムロックは自身から零れ出る感情を抑える必要もない。
《ガルーダ2了解。任せておけよ相棒、君の背を守るのが僕の役割だ》
《ああ。アテにしてるぜ、相棒》
《……そうか。君もまた受け入れたのか、エメリアの天使》
 そこに、まるで味方の無線であるかのように明瞭に聞こえてきた声。これもあのときと、初めて相まみえたグラバ諸島上空、アイガイオンとの死闘の際と同じく、ノスフェラトの発する強力なECMやガルーダへの電子支援の影響で混線しているのだろう。しかし、こんなあり得ない状況がここでは当然のように思えてくるのはなぜなのか、ふとそんな考えがシャムロックの脳裏を過ぎる。
 それはパステルナークがつぶやいた言葉のせいなのかもしれない。『受け入れた』……確かにそうだろう。いまのタリズマンはあの時とは違う、そしてシャムロックもあの時とは違うのだ。そのきっかけとなったのは、対峙するパステルナークによりタリズマンが撃墜されたこと。そしてガルーダの双翼は、たくさんの言葉といくつかの約束を交わしここにいる。
《そう、俺も識り、そして……》
 颯爽かつ絢爛と登場し、まるで舞台役者であるかのような大仰な口上を行った人物のものとは思えない淡々とした言葉はすぐに途切れ、数瞬。それまでの自分を否定するかのようにパステルナークはまた朗々と、だが、気がつかないうちに押し隠しきれぬ苦悩を滲ませてしまった声で続ける。
《戸口に待つ罪にも支配されてやろう。悲運とは、ユリシーズがもたらした避けられぬ運命だ!》
《! ユリシー……ズ?》
 飛び出した思いも寄らない名称にタリズマンが息を呑む。彼女にとって『ユリシーズ』がどんな意味を持つのか、それがわかるシャムロックもまた、なぜ彼が、と驚愕に目を見開く。が、すぐに互いの認識のズレを正すだけの余裕はあった。
 この戦争の遠因がユリシーズであることは間違いない。パステルナークが言う通り、あの星はこの地へと降り注いだ運命そのものだ。歴史に『もし』を用いることなど馬鹿馬鹿しいが、もしユリシーズが存在しなければ、いや、そこまででなくともこの地球に飛来することさえなければ、こうして二国が争うことなどなかっただろう。それどころか、アネア大陸に存在する国家をひとつにまとめる「アネア共和国構想」が現実となり、ひとつの大地に足をつけて生きる同胞として、手を取り合い平和な時を歩んでいたのかもしれない。
 しかし、現実は鏡に映したかのように反転している。ユリシーズによって壊滅的な打撃を受けた隣国を救うべく行われたエメリアの経済支援は、逆にエストバキア軍閥間の争いを激化させ、数年間に渡る内乱という更なる惨事を招くきっかけとなってしまった。のちに「無計画な支援」と呼ばれることとなった政策は二国間に修復不可能なひびを穿ち、やがてそれは埋めようのない溝にまで深まってしまい、ついには貧窮しきった国家を立て直すという大義を掲げたエストバキア連邦軍がエメリア共和国に攻め入るまでになったのだ。
 だが、『戸口に待つ罪』とは? そこに込められているはずのパステルナークの真意をつかみきれないまま、それでもまったく気を抜かずに操縦桿を操るシャムロックだったが、次に耳に飛び込んできた声にはさすがに色をなくすことになる。
《こちらエメリア東部防空軍第8航空団第28飛行隊、コールサイン『ガルーダ1』。エストバキアの戦闘機パイロット、応答を。聞こえてるんだろ?》
《なっ……》
《タリズマン!?》
 絶句したシャムロックに続き、なにを考えている、という動揺や誰何をありありと浮かせてしまったゴーストアイの怒声が無線に響く。それも当然だ、中世の騎士道物語でもあるまいし、こんな時に一介の兵士……たとえイデオロギーの一角に祭り上げられているエースといえども、一介の兵士が独断で名乗りを上げ、あまつさえ刃を交える相手に向かい通信を行うなど、あり得ないどころかあってはならない事態だ。……まあ、このパイロットは『あり得ない』を相棒の手を借りて現実のものにし積み重ねてエースという存在となったわけでもあるのだが、この場合はもはやそんな範疇すら越えている。
 無論、話しかけられた相手であるパステルナークもそれは充分にわかっていた。先ほどの言葉はあくまで独り言のつもりであったのだから。……いや、違うか。パステルナークの唇の端が皮肉げにくいっと上がる。
 『言葉』の本来の役割はなんだ? 自身の内に秘めたる決意など個人の意識下でしか意味を持たない。そんなもの、それこそ徹頭徹尾まやかしだ。だが、それに手段を与えてやれば事態は一変するとわかっていて、それを望んだからこそ彼は口に上らせたのだから。それに、呆れるほどに詩的な表現ではあるが、天使御自ら声をかけてくれるなど己の罪を告白した咎人への情けに違いない、とパステルナークはもう一度唇を歪める。
《これはこれは、俺としたことがレディに対し大変な非礼を》
 では、ありがたく受け取ろうではないか……エストバキア軍きっての伊達男の名にふさわしい、優雅な一礼すら浮かんできそうな声色を意識して選択しパステルナークは続ける。
《では改めて、こちらはエストバキア370航空連隊第9戦術飛行隊シュトリゴン・リーダー、イリヤ・パステルナークだ》
《イリ、ヤ?》
《そうだな、この俺を哀れんでくれるのならば君も名を教えてくれないか、エメリアの天使?》
《……マリア・アッシュ》
《!! ……これは、なんとも》
 タリズマンが、どこか呆然と彼の名をつぶやいた訳。それがわかり、ゆえにそれ以上は言葉にならずパステルナークは鉛のようなため息を吐いて口を噤むしかなかった。そしてシャムロックもようやく、タリズマンが唐突に名乗りを上げた理由に思い至る。そういえば彼女は、ユリシーズによる災禍の只中、教会付属の難民キャンプで保護されたのだから教養として身近にしていておかしくないのだ、と思い出しながら。
 “イリヤ”と“マリア”。先ほどパステルナーク自身の言葉でもって奇しくも指し示された概念の枠組み。この世界でもっとも知られた教典にある兄弟、その兄が犯した罪になぞらえたパステルナークの想いまでもが、作り上げられた因果の縮図の破片にすぎないのだとあざ笑われたような怖気が彼らを襲う。存在するとしたら悪趣味な寓意そのものではないかと思えるまでのこの脚本は、一体、誰の意志により綴られたのだろう。それこそ、飛来した絶対者たるユリシーズの残滓なのか?
《はは、ははははっ! こんな演出まで用意されているとは。まったく、君との、なんらかの縁とやらを疑いたくなるな、タリズマン?》
 そんなシャムロックの物思いを吹き飛ばしたのは、パステルナークの笑声だ。
《だが、俺はそんなものに踊らされる気はない。言ったはずだ、守るべきものは未来だと》
《……そうだ。僕たちは、未来を取り戻すためにここまで来た》
 『鬼神の亡霊』。かつての戦いで、その言葉を発したのはパステルナークではなかった。しかし彼もまた過去から這い寄りし幻影に囚われかけていたのだろう。彼に虚妄を吹き込んだ、エストバキア内部に入り込んだ『彼ら』―ベルカからの亡命者達は未だに過去を声高に叫び、ありもしない幻と戦い続けている。それに誘われたか呪われたのかは定かでないが、エストバキアを牛耳る『将軍たち』もまた、自分たちが知りもしない栄光に憎悪という咎を巻き取り縋ろうとしている。
 だが、そんなもののために戦って、どうしようというのだ。確かにユリシーズはエメリアの大地を穿つことはなかった。自身が平穏を貪ってきた側であると非難されれば、それを否定する術をシャムロックは持たない。だが、ユリシーズが舞い降りた地も、消えてなくなってしまったわけではないのだ。遥かなる空の下には大地があり、翼を休めそこに待つ者たちと微笑み合うことこそが飛ぶ理由であると、わかり合えないはずがない。パステルナークもまた、『守る』ためにこの戦場に来たのだから。
《行こう、タリズマン! これで終わりにしよう、この手で戦いに終止符を打とう!!》
 ならばもう終幕の時だ、終幕としなくてはならない。これ以上のアンコールなんてごめんだ。無線を通して、その決意をこれまでになく滾らせたシャムロックの声がタリズマンの耳に響き……彼女は今、ノイズに歪みなんの味気もないはずのそこに、いまこの瞬間にもすぐ隣に相棒が立っていてくれるような温もりを感じていた。
 そう、私はひとりじゃない。ひとりじゃなにもできなかった。今だってそうだ。皆が道を作ってくれて、シャムロックが背を守ってくれる。どこまでも、皆をアテにしてるんだ。そういう私を、皆が“エース”と呼ぶのなら。“エース”であれと、言うのなら。
《“タリズマン”、了解》
 そんな想いを胸に、力強いシャムロックの声とは対照的に静かにそう返したタリズマンは改めて自らが定めた舞台を見据え、その相手を思う。
 たったひとり、恐らく死を覚悟の上で、自身が不在となる未来のために戦場へと参上した人。考えてみれば彼が……パステルナークがこの覚悟をタリズマンに教えてくれたのだ。彼が守りたい未来とはなんであるのか、それはタリズマンにはわからない。だが、ここですべてを断ち切ることが、彼と彼女の最期の縁だ。
 だから未来を夢見る自身と共に、この広い広い空へと。
《ガルーダ1、エンゲージ!》
 
 

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