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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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ACE COMBAT 6 SS
グレースメリア開放戦
捏造を多分に含む



「おおっと、待った。この俺を呼ぶときは“DJゼット”で頼むぜ?」
 エメリア放送局所属、特筆すべき点も持たない一介のアナウンサーに過ぎなかった“彼”は、そう名乗る度に自身の中に澱のように溜まっていくなにかを意識せずにはいられなかった。密やかに、しかし確実に降り積もるそれは恐怖と呼ぶべきもの……自身が、今この瞬間も祖国エメリアを蝕み続ける厄災、そう、戦争という名の狂気が産み落とした異端ではないかという、あまりにも馬鹿げた妄想からくるものだった。
 首都グレースメリアがエストバキア軍に蹂躙されたあの夏の日を境に、凡庸な、取り柄と言えばアドリブが利くことくらいでゆえにトラブルが多い生放送で重宝される程度だったアナウンサーは大化けに化けた。エストバキアによる爆撃を生き残った局の連中に呼びかけ、敵軍の監視と徴発の網をかいくぐって機材をかき集め、自らを筆頭に据えた『自由エメリア放送』を立ち上げたのは秋。負けが込んで西へ西へと撤退していくエメリア軍の消息すら覚束なくなってきた状況下で、“彼”は“ゼット”として初めてマイクを握る。
「ヘイ、グレースメリアの皆! 天使とダンス、してるかい?」
 その第一声は、早くから心に決めていた。勝ち気な声をしたストリートチルドレンの少女が口にした言葉、『天使とダンスでもしてな』。グレースメリア市民の誰しもが「胸くそ悪い」と陰で罵るエストバキアのプロパガンダ放送、そこで流される上滑りもいいところな「市民の声」に紛れ込んだそれは、ゼットの耳に妙に洒脱で軽妙な響きを残していった。
 その理由がなんであるのか。ゼットが自身への問いかけに答えるのは簡単だった。それは『鋼鉄の天使』……戦争勃発の数年前、彼がエメリア空軍によって行われた航空ショーの取材に行った際にインタビューに応じてくれたパイロットの愛機に描かれたパーソナルマークだ。
 『メリッサ』と書き添えられた守護天使の肖像には、身を預けるパイロットの想いがすべて込められていたに違いないが、かの少女がなにを天使に例えたのかは、ゼットにはさっぱりわからないままだ。しかし、その言葉は見事なまでに彼の記憶と一致し解け合ってゆく。
 巨人の連撃に曝される空の間隙を突き、凝った血の色をした悪魔のような機体を見事に撃ち落としたのは、鮮やかな青き鳥の紋章を頂きこのエメリアの空を守る、『天使』。
「なーんてな。まったく残念なことに、今、この空には天使様がいらっしゃらない。その時まではこの俺、自由エメリア放送のDJゼットが僭越ながら皆さんのお相手を務めさせて頂きましょう。ヨロシク!」
 彼、あるいは彼女なのかもしれないが、その作為じみた死と隣り合わせの舞踏はゼットに確信をもたらした。彼らは必ず戻ってくる。この戦争を生き抜き、歓喜と羨望、呪詛、畏怖、争いが連れてくるだろうすべてをその身に集めることになっても、再びこの空へと帰ってくる。
 そこに根拠などない。実際、当時のエメリア軍に敗走以外の道はなく、ついにはアネア大陸から脱してセケド島南端まで撤退していってしまった。しかし、それでもゼットは自身の生まれを愚直なまでに信じた。戦争という狂乱の時代が『天使』を必要とする事実を目の前で目撃した人間として、喜んで、率先して、共に、最後の最期まで、罰を受ける女王もかくやと踊り狂ってやろうじゃないか。……そう、これはもはや意地と、あとは少しばかりの趣味だ。エメリアの守人としての意地を示した彼らと同じく。
 そして、あれから7ヶ月。ついに彼らはこの日を迎える。
 2016年3月31日。ゼットたち自由エメリア放送の戦いもまた、クライマックスを迎える。
 だが、これは“ゼット”としての最後の放送ではない。これを以て戦争が終わっても、彼は自身が“戦争が産んだDJゼット”であることを肯定すると決めた。それに対する恐怖はすでに消えた、いや、克服したと言うべきか。なぜならゼットはもう知っている。『天使』の、彼らガルーダの背には羽根などない。天使はその身にまとった鋼鉄の翼を己の手で駆り、自らの意志でここまで一歩一歩、ただ必死にグレースメリアを目指し這いつくばってやってきたのだ。それが狂気だと、誰に言えよう。戦争が狂気の時代であっても、彼らの理由は。
「来た、来た来た来たぁ! ドンパチが始まったぞ!!」
 外を見回っていたスタッフが移動放送車に飛び込みつつ報告するのと同時に、ゼットはマイクをつかんだ。そしてエンジニアがゴーサインを出すのも確認しないままに叫ぶ。電波に歪むものではなく、自身の肉声がいつかのストリートチルドレンの少女に、舞い戻った者たちに、そしてグレースメリアという戦場に在るすべての命に届けとばかりに。
「グレースメリアの皆! 空だ、空を見ろ、我らが天使のお帰りだ!!」

§

《ガルーダ1よりドラゴンバスターズ・リーダー! おっちゃん、まだ生きてる!?》
《こちらドラゴンバスターズ・リーダー。ああ生きてるとも、ご期待に添えなくてすまんな。ただ上がうるさくてすっかり手こずっちまってるんだ、議事堂の砦をこじ開けるまで援護を頼めるか?》
《そのつもりで来たんだ、遅くなってごめん! ガルーダ1よりスティングレイ、戦闘機はこっちに任せて地上の掃除を頼んだ。シャムロック、いくぞ!》
《シャムロック了解》
《スティングレイ了解。頼むぜ、ガルーダ》
《ありがたいが、一言いいかタリズマン! おっちゃんはないだろう、俺はまだ45だぞ!?》
 部隊の40%を損耗という状況でも口の減らないドラゴンバスターズ・リーダーを頼もしいと取るべきか、呆れるべきなのか。まったくこの軍は、とゴーストアイが心でついた悪態は、しかしこの状況下においても彼らが負ける姿だけは欠片も予測できない自分に対するものであるのだという自覚はあった。
 刻一刻と変化していく作戦区域図は、この最大の作戦がひとつの山場を迎えようとしていることを示している。天辺を越えた太陽を背にして始まったグレースメリア奪還作戦は、まずガルーダがその独自判断によりウィンドホバー隊との巧みな連携でジャミング機を率先して破壊し制空権を確保、彼らはそのまま取って返して港湾区域の制圧に参加しこれも成功に導いている。これにより艦隊砲撃が可能となり勢いづいたスティールガンナーズ隊が続けて飛行場の奪還に成功、この際にやはりガルーダが敵機の多くを叩き、彼らの道を切り開くことに尽力していた。休む間もなくゴーストアイはさらにドラゴンバスターズ隊およびワーロック隊の支援にガルーダを向かわせたのだが、この二隊の状況は非常にまずかった。直掩のスティングレイ隊が敵戦闘機に追い回され支援もままならない戦況に飛び込んだタリズマンが、相手がガルーダとわかっているかのように後を考えない機動で挑みかかってくる敵機をぎりぎりで交わす。
《さすがにきついな、これ。あと何機だ? アラートがひっきりなしで気持ち悪くなりそうだよ》
《まったくだ。しかし、このままだと……》
《まずい! ドラゴンバスターズ、敵だ。ビルの谷間から湧いてきている!》
 本気でまずいかもしれない、そう続けようとしたシャムロックの言葉を奪ったのはゴーストアイだ。
《なんだって!?》
《ビルの内部に隠れていたようだ。ガルーダ隊、ドラゴンバスターズの援護に向かえ》
《でも、こいつら逃したら今度はワーロックに……くそっ!》
 自身は常にひとつの体しか持たない。その当たり前の事柄に悪態をつくしかないタリズマンに託宣を与えるかのように響くのは、彼女の倍近い年月をその身に、その心に刻み込んできたのであろう貫禄を持つ低い声だ。
《ガルーダ隊、聞こえるか。こちら第二艦隊旗艦マリーゴールド。準備が整った、これより我が艦隊は貴隊の、エメリアのエースへの支援を優先する》
《……支援に感謝します、艦長。この戦域をよろしくお願いします》
《了解した。我々がこうして支援を敢行できるのは、君たちのおかげだ。そして君たちの助けを必要とする部隊はまだいる。頼んだぞ》
《任せておけガルーダ。ここまで来たんだ、そう簡単に死ぬかよ! ドラゴンバスターズ、制圧部隊はそのまま内部を片付けろ、残りは敵増援を叩け! いいな、敵さんを天使とのダンスにお誘いしてやれ!!》
 リーダーの気炎万丈な号令に、おお、と力強い雄叫びが答えた。さらに始まった援護の艦砲射撃が彼らの道筋を煌びやかに飾っていく。そこに敗北のビジョンなど、どう描くことができようか。もはやこれは理屈ではない。理由を必要とするのなら言ってやろう、それはここが彼らにとって取り戻すべき地だからだ!
《おっちゃん、終わったら皆で一杯やろうな!》
《ああ、楽しみだ。ほれ、さっさとワーロックのお守りに行け!》
《了解!》
《……こちらワーロック。放送局に到達、これより奪還作戦に移行する。支援可能な部隊はいるか? 手を貸してくれ》
《ガルーダ1よりワーロック! 支援を開始する、手当たり次第に行くから巻き込まれんなよ!》
《おいおい、おっかないな。シャムロック、あんまり無茶させないでくれよ?》
《努力はするけど、今日は僕もタリズマンを止める気にはなれないかな》
《ははははっ! 全車、いまのが聞こえたな!? 天使の加護は我らにあり、これで負けはないぞ! 建物の陰に隠れて支援を待て!》
 こちらはこちらで損耗率50%に近い壊滅状態にあっても平静さを失っていないワーロック、彼が指揮するその隊が目指すまさにそこから、今やなんの意味も成さないだろう虚構となったエストバキアのプロパガンダ放送がなおも垂れ流されていた。が、その無味乾燥な音波を与えることすら許さないとばかりに、ある意味お待ちかねの声が重なる。
《ヘイヘイ、お待たせしちゃったかな? 電波ジャックなら俺たちに任せろ、本日も最高のビートをお届けするぜ! この俺が自由エメリア放送のDJゼット、今日は移動式放送車から君をロックオンするよ?》
 作戦前や後に、軍用無線で民間放送を聞いている……もちろん本来はあってはならないことなのだが、そこは軍隊らしくない編成下で戦い続けざるを得なかった苦境の名残とも言えるエメリア軍内の突飛な習慣のおかげで、場違い甚だしいはずの戦場にいつしか馴染んでしまった軽快なトーク。これまでもエストバキアのプロパガンダ放送電波帯を見事に乗っ取って来た彼らは、ここでも気合いを入れてエメリア軍を『支援』してくれるつもりらしい。
《勝利を疑うな、我らエストバキアに必勝の……》
《はいはい、本当にそればっかだねぇ。埃を被ったプロパガンダなんか背負ってちゃ、天使とのダンスなんて無理に決まってるだろ? なあガルーダ隊? 口喧嘩なら俺たちに任せて、いつものようにやっつけちゃってよ!》
《……あはは! 本当にとんでもないよなぁ、この放送局》
 昼下がりのカフェでくつろぐ友人に声を掛けただけ。その技術力もさることながら、なによりもそんなゼットの話しぶりにタリズマンはなにか大声で笑い出したい衝動に駆られていた。最高だ、本当にこいつら最高じゃないか! 見たか、この街には今うつし世のすべてがある、そう世界に向かって叫んでやりたい! この戦いは、私たちが解放するものは……。駆け抜けていく想いを操縦桿を握る掌にまで漲らせて、彼女は叫ぶ。
《ガルーダ1よりDJゼット! 支援に感謝する!》
《……タリズマン。彼には、こちらの声は聞こえてないと思うよ?》
《わかってるって。でもこれが終わったら、ゼットに金色の王様勲章もらいに行くんだろ? こっちもなにか用意しとこっか!》


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