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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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 連作に絡んでる感じの小ネタ創作文。
 「青の刻印」でちょっと触れているで「うっかり『君の髪は綺麗だな』なんて~」云々のエピソード。時間軸的にはそれ以前ってことになります。脳内では結構前から想定されていたのでババッと文章化、やっぱり細かいところはご容赦。

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「ん?」
 バタバタと天井を叩く派手な音に、シャムロックは顔を上げる。それと同じく、機体について話していた相手である整備の青年も格納庫の天井へと視線をやった。
「雨っすね」
「みたいだな」
「泣きそうな空でしたもんね。ついに持たなくなったかぁ」
 まるで小石でも降り注いでいるのではないかと思える雨音に、外はどんなことになっているのかとふたりはなんとなしに半分以上閉ざされたシャッターへと視線を向ける。と、そこに突如として人影が飛び込んできた。
「うっひゃあ! すっごい、バケツひっくり返したみたいだよ、これ!」
 声の主―タリズマンは、タンと勢いをつけてその場に踏みとどまり、そのままぶるぶるっと小犬のように身を震わせた。長い髪から雫が奔放に彼女の周囲に弾けるのを見て、整備の青年が声を上げる。
「うわー、派手に降られたなぁ。タオル持ってくるか?」
「悪い、頼める?」
「了解」
「あ! できたら、オイルついてないやつで」
 ニヤッとしつつふざけた注文をつけたタリズマンに、わかってるってと青年が同じように笑い返して走っていく。それを見送ってから、この短時間ですっかりずぶ濡れになった上着を脱ぎつつ彼女はシャムロックに視線をやった。
「やられたよ、走ってたら急に降ってきてさ」
「急でもないぞ。朝から降りそうな色の空だったじゃないか」
「ん、そうだっけ? で、そっちはなにやってたんだ? 邪魔しちゃってごめん」
「いや、なにってわけでもないさ。ちょっと機体を見に来たついでに、今後について色々とね」
 ふうん、と返事はしたものの、彼女の意識は脱ごうとしている上着に向かってしまったようだ。それもそのはず、水分を吸って重くなった布地はまるでイタズラ心でも起こしたかのように彼女の身にまとわりついている。
「……手伝おうか?」
「大丈夫だって、ちっちゃな子じゃないんだし。よっと!」
 タリズマンがなんとか上半身から引っぺがした上着からは、ぽたぽたと水が垂れている。それに、このままでは屋内に持っていくのもなんだ、と言いたげに彼女がため息をついた。両手でそれを目の間に広げ、いっそのことここで絞ってやろうかなどと思案しているらしい横顔や額、肩や背にも、鉛のような空から落ちてきた銀色の雫を惜しみなく、あるいは、否応なしに含んだ黒髪が、まさに水の流れのように、なんの味気もないはずの格納庫の照明の中に艶めいて輝く。
「…………」
 性差などがあるとはいえ、同じ人間であるのにここまで違う造形をしているのは不思議なことだな、とシャムロックはぼんやりと思う。彼女ほどにハッキリした、混じりのない闇を抱く髪と瞳を有する人間はエメリア系人種においては珍しいが中央ユージア以東では時折見られるものらしい。それは知識としてシャムロックも知っているが、それでもやはり、こういうちょっとした弾みにいやに奇しきものに……少し大げさだが、神が自らの慰みや戯れに作り上げた『異形そのもの』に思えてくる。なんて言葉で表現するのは詩的に過ぎるのかもしれない、とシャムロックは自身の想像に苦笑してしまう。
「おーい、シャムロック? どうかした?」
 広げた上着を丸めながら自身を見返してくるタリズマンの不思議そうな瞳に、シャムロックは無遠慮に彼女のことをじっと見つめていた自分にようやく気がついた。ああ、と少し焦り、なんとかその場を凌ごうとつい思ったままのことを口にしてしまう。
「君の髪は、綺麗だな」
 『異』は時として『美』に通じる、と聞いたことがある。だからきっとそんな風に感じられるのだろうと考えたシャムロックだったが、言われたタリズマンは上着を力を込めて絞ろうとする姿勢のまま動きをぴたりと止める。
「は?」
「あ、いや、だから少し見とれただけだよ。他意はないんだ」
 さらにタリズマンの眉間にしわが寄り表情が厳しくなったのを見て、もしや怒らせてしまったのかとシャムロックは慌てて、揶揄したつもりはないのだという意味を込めてそう付け加える。が、彼女は表情を緩めることはなく、なぜかさらに頬を引きつらせた。眉間のしわは残っているが瞳に浮かんだ険はなくなったので怒ってるわけではないようだが、とにかく様子がおかしい。
「タリズマン?」
「あ、ああ、あー、えっと……なんだろ……」
 ぐしゃっと上着を両手で押しつぶすようにした仕草にシャムロックが気を取られた一瞬に、うつむいた彼女の表情は見えなくなってしまう。ただ、濡れた黒髪の間に見える耳が不自然なほど朱に染まっているのは隠せていなくて、
「ありがとう、って、言えばいいのかな?」
 その消え入りそうな声は、見事にシャムロックの不意をついた。
「そ、そうだな。うん、本当に綺麗だよ」
「わわわ、わかったから! もう、いいって」
 珍しく弱々しい言葉尻になった彼女は、髪のことをなのか容姿のことをなのかはわからないが、どうやら単純に褒められるのに慣れていないらしい。シャムロックの言葉を流すことができない初々しさと真っ直ぐに受け入れてしまう愚直さは歳にしてはかなり幼い反応だろう。が、それは決して不快なものではなく、むしろシャムロックの胸をふわりと温かくする。……これもまた『異』の一端であるかもしれない、彼にはそう思えたからだ。なにしろ彼は、タリズマンが更なる異形、秘めた異才と衝動を遺憾なく見せつける存在と化すとき―空にあるときに、その友として間近にあるのだから。
「おーい、タリズマン。おまた……」
「あっ、ありがと!」
「お、おお。どういたしまして?」
 タオルを振りながら戻ってきた整備兵が、タリズマンの大げさな反応に驚いた顔をした。そして、なにかあったのかと言いたげにシャムロックに視線を向けてくるが、それに彼はなんでもないと軽く首を振るだけだ。
「なあなあ、シャムロック。雨で体冷えちゃったし、そっちの話が終わったらホットウィスキーでも一杯付き合ってくれない?」
 照れ隠しなのかそれとも他のなにかなのか、受け取ったタオルでわしわしと乱雑に髪を拭きながら言ったタリズマンに、シャムロックが少し呆れた顔になる。
「ウィスキー? コーヒーでいいんじゃないか?」
「え~?」
 この、アルコールの味など知りもしない年頃に見えるタリズマンが意外なことにかなりの上戸であることは、エメリア空軍の謎のひとつだなんて言われている。しかし、どちらかというと飲むという雰囲気が好きなのか、味そのものは深く理解していないらしく好みは特に決まっていないあたりは年相応だ。
「じゃあ、せめてワインにしたらどうだ? それならおごってもいい」
「お、そう? じゃ、そこはシャムロックに任せた!」
「了解。まあ、君はその前にシャワーと着替えだな。レストルームで待ってる」
「おうよ、逃げんなよ?」
 第一、いま彼女が寒さを感じているのか。奢らせる気満々でくいくいと指を曲げて見せたタリズマンの、まだ微かに朱が差す頬を見れば大いに疑問でもあるが、シャムロックは笑って、早く行けというように甲を向けて彼女に手を振った。

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