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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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風色サーフ SS
本編第七章後、サラとティノ




 人間が人間である定義は、実は難しい。
 少なくとも番号で呼ばれていた時代の《彼》は、自分が人間だと思ったことはなかった。その身は忠誠を糧に動く機械でしかなく、その忠誠は植え付けられた蒙昧そのものであった。
『汝ら、凶鳥を屠る大剣であれ』
 彼の隊に名はなく、ただ在るべきカタチを求める元に示された言葉がそれである。しかしこれは一方でこの国の在りようの極地であったのだろうと、いまにして彼は思う。
 シュレスベルク帝国はこの大陸に嵐を起こす凶鳥であり巨人であると、彼は教えられた。確かにそれは一方から見れば間違っていない。だからこそ、その鳥を屠るために彼の国は長く争いを肯定してきた。その結果、更なる混乱がこの世界に降りようとも多くの犠牲を払おうとも、だ。
 そんな彼にとって、空を舞う鳥は長く戦闘の象徴であった。そして象徴は驚くべきことにその域を脱し空に具現化した。それは『飛行機』という名の新兵器で、人が人である限界を超え、人が人を地にひれ伏させるための偽りの玉座であった。
 そして彼の国は、空の新たな王者―あるいは暴虐に犯された覇者に、屈した。

「あらぁ、ティノさん」
 静かに食事を運んできた彼に、にこにことサラが笑いかける。しかしその笑顔の半分以上は包帯に覆われて見えない。彼はそれをとても残念に思うし悔しいとも感じていた。見れないことが悔しいのではない、彼女がそうなることを防げなかったことにだ。
「お食事? いつもごめんなさいねぇ」
 空爆によって彼女が受けた傷は浅くない。サラが動けるようになるまでは相応の時間が必要だと、衛生兵であるアリサが言っていたことは彼も知っている。いまの、『大剣』であることを思い出さないままの彼がサラにできることは、こうして栄養のある食事を提供し一日も早い回復に役立てることくらいだ。
「……あら」
 窓際に据えられたベッドに食卓を整えるティノの大きな背に、ふっと黒い影がよぎる。それに気がついたサラが声を上げ、窓の外へと視線をやった。声に顔を上げた彼も同じように見た先の空には、遠くへと羽ばたいていくつがいの鳥、ではなく、二機のオオルリの姿があった。
「ああ、もう見えなくなっちゃう。早いのねぇ、飛行機って」
 残念そうに言うサラの声を聞きながら、彼はその青い影を見えなくなるまで見つめ続ける。
 銃に多くの類があるように、刀剣に多くの形があるように、飛行機という兵器にも多くの態がある。そして、彼がかつて手にしていた規格外の機関銃―それこそ人間では扱えないはずのシロモノ―でも、空を撃つことはできなかった。
「どこに、行くのかしらね」
 それはサラにとっては質問ではなく、ただなんとなしに出てしまった疑念の独り言だったのだろう。が、彼はそれに反応して首を横に振る。その表情はいつもと変わらないが、長年のつきあいがあるサラは少しだけ、その目の奥に痛みを読み取った。……知らない、と言うよりは、知らないほうが良いことなのだと彼は言っている。そう理解したサラは、にこりと微笑む。
「ねえ、ティノさん? きっと優しい人が作って大事にしてもらえば、飛行機だって優しくなるんですよ。あの子を作ったのが誰なのかは知らないけれど、あの子をお世話しているのはエリカたちで、乗っているのはコリンさんやルカくんなんでしょう?」
 確かめるように彼に向かってサラか小首を傾げる。それが正しいことを知っている彼が頷き返すと、だったら、とサラは続ける。
「あの子は優しい鳥なんだわ。いまはああして戦うために飛んでいくけれど……いつかきっとそうでない日が来る。だって飛行機は、世界を、風に乗って飛び回るための羽根になってくれるはずって、エリカが言っていたもの」
「……その日が、早く見たいな」
 その言葉に驚いているのは、目をまん丸にしたサラだけではない。発した彼も自身の口に手をやって半ば呆然としている。確かに自分が言ったはずなのだが、まるで他の誰か音の出し方を習ったかのように感じた彼は、しかし、それに不快感は覚えなかった。
「ええ、ええ。まったくだわ」
 そんなティノに嬉しそうに何度も頷いたサラは、用意された匙に手を伸ばす。
「それじゃ、そのときに備えて私も早く元気にならなくちゃ。だって、そう遠くない日のはずだものね」

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