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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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ACE COMBAT 6 SS
アネア大陸上陸戦とシルワート攻防戦の合間。
シャムロックとクオックス。ちょこっとタリズマンも。



 アンソニー・ドイル―"クオックス"にとって、2016年1月16日は忘れえぬ日となった。奪われたものをエストバキア連邦の手から取り戻した……無論、エメリア共和国軍としては戦争の本番はこれからなのだが、それでもこれで彼の悲願は達成された。ここからはそれを叶えてくれた仲間達と共に、彼らの宿願を果たすべくこの大陸を東進していくことになるのだ。そのことに対するクオックス隊の士気は実に高く、隊長として彼は誇りに思っている。
 悲願達成の数日後、頻発するエストバキア軍との戦いと次の大がかりな作戦へ向けた準備が進む中、ひとときの合間にクオックスは戦闘機格納庫裏の人気のない辺りに座り込んだ背中を見つけ、ちょうどいい、とそちらに足を向けていた。
「シャムロック、少しいいだろうか?」
「ああ、構わないよ」
 離れた位置から声を掛けたクオックスに、シャムロックが首だけ振り返って答える。その横まで歩み寄り、用件の前にこんなところでなにを、と切り出そうとしたクオックスだったが実は相手が一人ではなかったことに気がついて絶句する。
「どうした?」
 クオックスの視線は、不思議そうに首を傾げたシャムロックの膝を凝視している。いや、より正確に言うのなら、そこに頭を乗せて地に横たわっているタリズマンに釘付けだった。顔から上半身の大部分がジャケット―大きさから推測するに恐らく本人のものではなくシャムロックのもの―に覆われているので誰なのかはわからないはずなのだが、彼女の場合、そこから流れ出ている濡れ羽色の髪が雄弁に正体を物語ってしまう。この色は頭角を現し始めた若きエースの証に挙げられているほどで、その上、場所が『相棒』の膝の上と来れば疑う余地もない。
 だが問題は、この状況がクオックスの常識内では非常に親しい間柄での行為に見えることであり、タリズマンは性格云々はともかく仮にも女性でシャムロックは立派に男性、しかもグレースメリアに妻子がいるという事実だろう。
「すまん、その、なんだ。邪魔しただろうか?」
 が、どう対処したものかわからず実にテンプレートな言葉を口にするしかないクオックスに、ああ、とシャムロックが納得したように頷く。
「悪いけど、期待しているようなことじゃない」
「き、期待しているわけじゃないんだが」
「顔に出てるよ。気にする必要はないけど、なるべく起こさないでやってくれ」
 静かだと思ったら寝ているのか、なら更なる気まずさを味わわないですむ、とクオックスは胸をなで下ろしたものの、それはそれでまた余計に問題じゃないかと思ったりもしたのだが黙っておく。しかしそれも顔に出たのか、シャムロックがだから違うんだと苦笑した。
「タリズマンは相棒だ。そういう対象に考えたことはない、お互いにね」
 シャムロックの言葉にやけに説得力があるのは、そのまとう空気ゆえだ。困った風でも呆れた風でもない、ただ事実を述べているから淡々としている、そんな雰囲気を醸し出している彼に、クオックスも、ならばそうなのだろうとあっさり受け入れて、むしろこの状況は好都合なのかと考え直す。彼が話し相手として求めたのはシャムロックではなく『ガルーダ』なのだから。
「わかった。妙な事を言わせてすまない」
「別にいいさ、それこそ気にしないでくれ」
「にしても、こんなところでなにを?」
 最初に立ち戻り、シャムロックの、タリズマンとは反対側になる隣に腰を下ろしてクオックスが尋ねると、
「タリズマンのトレーニングに付き合ってるんだ。ここで休憩してるわけだけど、彼女、走り疲れるとどこだろうが寝転ぶクセがあって、まあ、地面よりはこのほうがマシだろう?」
「それで、そのまま眠り込まれた?」
 そういうことだ、とシャムロックはクオックスから膝にある頭に視線を向けた。つられてクオックスもそちらを見ると、彼らの視線か会話に反応したのか微かに身じろぎをする。しまった起こしたか、と焦るクオックスだったが、そこまでではなかったらしくまた動かなくなった。
「このまま話していたら起こしてしまうか?」
「いや、眠りが浅かったらいまので起きてる。これなら大声をだすか僕が立ち上がらない限り大丈夫だ」
 これがアバランチやワーロック辺りだったら、してやったりとした顔で『なんで知ってる』などと返すところだが、こういう場で人をからかうタイプではない純朴なクオックスはただ安心した様子で、そんな彼に今度はシャムロックが問いかける。
「で、僕になにか用か?」
「いや、用と言うほどじゃないんだが」
 さてどう切り出したものか、と改めて首の後ろに手をやって考え込んだクオックスだったが、あまり遠回しなことを好まないうえに得意ともしない自身の性根を思い出し、そのままの言葉を口にする。
「ありがとう、と言いたくてな」
「……君に礼を言われる心当たりがないな」
「だろうな。まあ、確かにあんただけに言うのは間違ってる。しかし上陸戦で、ガルーダ、あんたたちは俺たちの隊に随分肩入れしてくれただろう?」
 真っ向からの指摘にシャムロックは曖昧に笑う。それがほぼ答えのようなもので、クオックスはやっぱりな、とにやりと笑い返した。
「ゴーストアイの指示、でもなかったようだが」
「僕たちへの指示は、細かい部分を無視して言ってしまえば『状況を見て臨機応変に対処せよ』だ。それに従ったことには間違いない。オルタラは君たちの庭なんだからな」
「ふっ……。物は言い様、か」
 開戦前、クオックスが率いる機甲大隊は、先の上陸作戦が決行されたラルゴムビーチの先にあるオルタラに駐留していた。つまり彼らにとっては追われた地を奪い返すための、特にクオックスにとっては生まれ育った街を解放する戦いだったことになる。
 アネア再上陸を果たしたエメリア軍が掲げている悲願にして目標、『首都グレースメリア奪還』。それは、奪われた故郷を取り戻そうとするエメリア兵の総意でもある。ゆえに今回の作戦に臨むにあたり意気軒昂なクオックス隊には全軍の理解があった。
 遊軍として戦場の綻びを突く、あるいは丸め込むために飛び回るガルーダ隊の行動は、上陸作戦においてもその一環として地の利を持つクオックスを重点的に支援したという域を出ていない。が、そこにもうひとつの、明確な意志があったことは確かだろう。
「隊長の、タリズマンの判断だったのか?」
「いや、僕たちの総意さ」
 そう言ってシャムロックはまた、自らの膝で寝こけるタリズマンへと視線を向ける。
「知ってるだろうけど、タリズマンは対地攻撃が苦手なんだ。もし気が向いたら、よくやったって褒めてやってくれ」
 冗談交じりなそれがまるで我が子を語る親のようで、クオックスはくくっと喉を鳴らした。なるほど、これは確かに『そういう対象』ではない。戦場の空を駆けるガルーダを見上げるたび、その加護の元で戦う隊の中の誰かがまるでつがいの鳥のようだと言うが、実際は親子の鳥といったところなのだろう。
「俺が褒めて喜ぶものか? パイロットなんだから当然だとむくれそうな気がするがな」
「ははは、確かに」
「まあ、とにかく……俺たちは俺たちの街に帰ってきた。本当に感謝する、ガルーダ。そして次はこっちの番だ」
「ああ、頼りにしてるよ」
 互いに自信ありげな笑みを交わし合った後、タリズマンにも礼を言いたいところだが目が覚めるのを延々と待つのもどうかと思い、話はそれだけなんだ、とクオックスが腰を上げようとする。と、シャムロックが、あ、と何事か口にしかけたのに気がついて彼は動きを止めた。
「なんだ?」
「その……君はここで、オルタラで育ったんだよな」
「そうだ。まあ訓練や配属は、ずっと地元だったわけじゃないがな」
「ということは、ユリシーズの時も?」
「ユリシーズ? 落下の時か? その時はオルタラにいたな。しかし、それがどうかしたのか?」
 先ほどまでの会話とはあまり関わりのない、唐突に振られた話題にクオックスが首を捻るのも当然だ。ユリシーズ落下が今回の戦争の遠因であることは間違いないが、だからといって、そんなことをここで確認する理由は全くないだろう。そんなクオックスの疑念を感じ取りシャムロックは首を振った。
「どうというわけじゃないんだ。すまない、突然」
「……そういえばイエロージャケットがユージアからの移民と聞いた」
「それは僕も知ってる」
「しかし恐らく、思い出したくないこと、だろうな」
「ああ」
 上陸作戦でも大きな活躍を見せたヘリ部隊を率いるイエロージャケットは、ユリシーズによって生活基盤を失い一家そろってユージアからアネアへ移住してきたのだという話はシャムロックも耳にしていた。そんな彼は、今また再びユリシーズを源とする事象にすべてを奪われようとしているのだ。その心中を察すれば話題に上げるのも憚られる。そして、それは彼だけではないのだろう。大なり小なり違いはあるとはいえ、あの小惑星に影響されない生き方などこの地球に在る生命体には取りようのない道なのだ。
「僕もあの夜は、ユリシーズの欠片を、生まれ育った街で、ただ流れ星として見上げていただけだった。でも、それによって打ち据えられたものが確かにあったんだと今更に思うよ」
「俺も似たようなものだな」
 幾筋も幾筋も空に描かれた軌跡、それは一夜の幻などではなかったのだ。そう分かっていたはずだったのに、とクオックスは空を見上げて眼を細める。
「ここには破片は落ちてこないってわかっちゃいたが、それでも恐ろしかったな。空が砕けて太陽が昇るべき場所がなくなって、そのままもう夜が明けないんじゃないかと思った」
 ユリシーズによってこの地上が滅びる可能性は充分にあった。この世の終わりが来たのだとしたり顔で言った評論家をテレビの向こうに見たとき、当時はまだ若造であったこともあるが、情けなくも腹の底が冷たくなるような感触を覚えたことをクオックスは思い出す。
「あれから何年も経ったが、あの流れ星の影響はもう消えないのかもしれない。……しかし俺たち人間はあの星には勝てなかったが、大地や空を奪われたわけじゃなかったんだろう」
「……それは?」
「結局、人間から奪うのは人間だ」
 そう、世界は終わらなかった。むしろ、その影響を飲み込み更なる混乱を産み出したのは人間そのものだったのだ。悲観論を言うのならば、この地球に人間がいる限り平和などあり得ないということだろう。
 皮肉っぽさもなにもない、先ほどのシャムロックのように事実を淡々と述べているだけのクオックスの言葉はやはり朴訥で、しかし、次第に熱を帯びていく。
「しかし、俺はな、シャムロック。お前やタリズマンが飛んでいるのを見るのが嫌いじゃない。ここが戦場で、俺たちはお互いに軍ってくくりに在るって知っていてもだ。うまく言えないんだが、あの星が降った空を、それでも鋼鉄の羽で飛んでるんだってのが……」
 そこでクオックスが額を抑え、ああだめだ、と呟く。
「すまん、今度はこっちが妙なことを言ったな。忘れてくれ。やはり故郷に戻ってきて、少しばかり浮かれて過ぎているのかもしれない」
 照れくさそうに口元を緩めて言った彼は、すぐに表情を変える。
「浮かれるのはここまでだ。……この国には破片がほとんど落ちなかったからな、ユージアの国々やエストバキアにすれば、いい気なもんだって思えもするんだろう。だが、だからといって侵略を肯定はできない」
「もちろん。僕たちは必ず帰る、グレースメリアに」
「任せろ。お望み通りに送り届けてやろう」
 力強く言い切ったシャムロックに、クオックスはもう一度、その瞳に自信を漲らせてうなずいて今度こそ立ち上がる。タリズマンにはまた改めて礼を言うよ、と手を振って立ち去っていく彼を見送り、シャムロックは自身の膝にまた目をやった。
「……君は……」
 タリズマン、君はどこで、どんな想いであの日の空を見たんだ? そんな風に無言のまま問いかけても返事があるわけがないし、彼女が目を覚ます気配もまったく感じ取れない。もっとも、深い眠りだとわかってたからこそ、彼もこの場でユリシーズのことを口にできたのだ。
 相棒がなぜ空に執着するのか。その理由がユリシーズにあるのではないかと予測したのはシャムロックの勝手だ。その上、それが正しいのか知りたいと望むのは、僚機としては過ぎた行為なのかもしれないという自覚はある。しかし彼は、そんな自分に嫌悪や違和感は覚えなかった。
 常に空に共にあり、地にあっては『シャムロックの家族のために戦う』と、そう言ってくれた彼女を他人のように考えるのは、振り返るのをただ待っているだけであろうとするのは、そろそろ難しい。
 ひとまず今すべきは、この眠りを護ることか、などと思いながらシャムロックは被せたジャケットから見える頭を撫でる、と、ぴくっとその身が震えた。どうやら意識が浮上してきた瞬間に触れてしまったようで、うう、と寝ぼけた声と一緒にもぞもぞと動いた彼女の上半身からジャケットがずれ、茫洋とした表情が覗く。
「おはよう」
 思った傍から起こしてしまった、そんな自分の間の悪さに心で苦笑しつつシャムロックは見下ろした表情に小さく呼びかけた。まだ覚醒しきっておらず状況が把握できないのか、不思議そうにボンヤリと目を半分開けたままだったタリズマンは、その呼び掛けに自分がなにをしているのか思い出したらしい。
「ああ、ごめん。膝、邪魔じゃなかった?」
「僕が言い出したことなんだ、気にすることないさ」
「……これ、寝心地いいなぁ。なんか、クセになるかも」
「こんなことでよければいつでも。まだ眠いのならもう少し寝るか?」
「うん。……もうちょっとだけ、いい?」
 睡魔の誘惑は相当なものなのか、切れ切れの言葉の合間に彼女のまぶたはもう閉じている。シャムロックが返事の代わりにぽんぽんと頭を叩くと、ありがとう、と言ったのだろうか、わずかに唇が動いたものの音になることはなく、代わりに微かな寝息が彼の耳に届いた。それに微笑み、膝を動かさないように気をつけながらジャケットに手を伸ばして再びタリズマンの、その寝顔を隠すように覆う。
 日はまだ高い。もうしばらくは、ここで静かな時を得ることも許されるだろう。

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