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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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ACE COMBAT 6 SS
ヴィトーツェ防空戦の数日前。ガルーダのふたり。

 2015年11月中旬、ついにエメリア共和国と呼ぶべき地はアネア大陸より滅しセケド島の南端のみとなった。果たして数ヶ月前にはこんな戯曲めいた事態が想像できたであろうか、それも平穏をむさぼる者たちに。それそのものは罪ではないとしても。
 現在、エメリアの僻地であった街ヴィトーツェとカンパーニャ飛行場に集結しているのは、エメリア軍最後の勢力、とは言えば聞こえがいいが要は敗残兵の寄せ集めだ。軍としての形も成していないほどの小規模集団は、それでも首都奪還を掲げ反抗の狼煙を上げるべく幾度めかの再編成を行っていた。
 しかし、その編成結果を待つどころかまったく気にもかけていない隊も存在する。そのひとつ、通称『ガルーダ』と呼ばれる飛行小隊のメンバーであるシャムロックは、自身の搭乗機であるF-15Eを満足げに見上げていた。
 カンパーニャ飛行場の格納庫に収まった機体に真新しい鮮やかさで描かれているのは、隣の、もうひとりの隊員タリズマンの搭乗機であるF-15Cのものと同じ青の刻印。鷲に似た、それよりもどう猛そうな鳥をモチーフにしたそれこそがガルーダの隊章だ。
「おお~、良い感じ! 上手いね、お兄さん」
「任せろよ。さて、次は撃墜マークかパーソナルマークでも飾らせてくれよな、シャムロック」
「そうだな、そうしてもらえるように頑張ってみるさ」
 じゃあ俺は別の仕事があるんで、と軽く手を挙げて立ち去っていく若い整備兵の背にもう一度礼の言葉を投げかけてから、シャムロックとタリズマンは改めて顔を見合わせて笑い合う。
「これで別チームになったら、どうしようか」
「ないとわかってるから描いてもらったんだろう?」
 確かに、上層部が救いようのない愚鈍でもない限り、この二人を別チームにすることはまずなかった。エストバキアとの圧倒的な戦力差を覆すには航空戦力こそが最重要であり、ひとりのパイロットすら欠かすわけにはいかない。現状、問題児タリズマンの気ままかつ有能な飛行がフォローできるのはシャムロックでだけであり、同時にタリズマンが全力を出せばシャムロックもまた通常以上の戦果を上げることは、本人たち以上に指揮官であるゴーストアイが承知している。
「しかし、組んで3ヶ月でようやく同じ隊章を掲げるとは、なかなかない話だな」
「しょうがない。いままでは全然余裕なかった、って、今もあるわけじゃないけど」
 エメリアにとっては屈辱的なことに、この仮初めの平穏はエストバキア軍の悠然さからもたらされているものだ。アネア大陸内のエメリア領を獲得した彼らはその息の根を止めるなど容易いと考えているのか、ここ数週間は散発的な攻撃しか仕掛けてこない。その隙にやりたいことがあるとタリズマンが言い出し今日になって実行されたのが、『シャムロックの機体に隊章を入れる』ことだった。
 この戦争の発端となったグレースメリア撤退以来すっかり定着してしまった、ガルーダの二番機という場所。その居心地はシャムロックにとって悪いものではない、誰かに渡すのが惜しいと思うくらいには。いや、惜しいと思っている時点で実はすっかり気に入っているのだろう。そんな想いからシャムロックも彼女の言い出したことに一も二もなくうなずき、こうして新たなエンブレムを掲げた乗機を愛でることとなっていた。
「やはり同じマークが入っていると見栄えがいいな」
「へへー、だよねだよね」
 本当に嬉しそうに何度も頷いている、そんなタリズマンの様子にシャムロックは軽く微笑む。一応、タリズマンは妙齢の女性なのだが、それらしいところと言えば伸ばした髪くらいで他はお世辞にも年相応とは言えない。見た目の若さに加えて思考や口調はまるで少年のよう、行動や仕草も乱暴とは言わないがどうにも大雑把だ。それを不快に思う者もいるのだろうが、シャムロックからすれば9歳になった娘にどこか重なって見える。言い換えれば、その年頃の子ども特有の、自身の枠組みを定めていない自由に溢れる傲慢さを彼女は未だに持ち続けているのだ。まあ、さすがに怒るだろうから本人に言ったことはないのだが。
「ガルーダ、か。確か、どこかの国の神話の鳥だったよな?」
「らしい。アネア系のものじゃなくって、えーと、どこの国だったかな? ちょっと思い出せないけど、鷲に似た姿をしてる神鳥なんだって聞いた。場合によっては鷲の頭をした人間っぽく描かれるとかなんとかって」
「へえ。まさにイーグルには相応しいな」
「なんだけど、ね。私には大げさかなとも思う」
 どこか含みのある口ぶりに、ん、とシャムロックは傍らに視線を落とす。タリズマンはそれに気がついていないのか、隊章を見上げたまま腕を組んだ。
「大げさって、なにがだ?」
「ガルーダって金色なんだ。翼は赤を帯び、全身から黄金色の光を放ち青い空を横切っていく。それ、なんだか金色の王様っぽくて」
「ああ……」
 グレースメリアの象徴『王様橋』、その由来となった『金色の王様』。史実に基づいてはいるものの、エメリア人の中ではすでに伝説となっている人物になぞらえられているように感じるのか、とシャムロックは納得する。その間にタリズマンは組んだ腕を解いて胸の前に一房流れた髪に触れた。
 エメリア系人種には見られない濡れ羽色の髪や瞳からして、タリズマンは恐らく他国出身なのだろうとシャムロックは推測していた。そんな自分が金色の名を頂き戦っていることに引け目を感じているのだろうか、しかしそれはあまりに彼女らしくない、と彼は心の内で首を捻る。第一、こんな事態……ガルーダの名を背負う部隊がグレースメリアを奪還すべく奮闘する一員になるなど、当時の軍上層部に想像できたはずもない。
 だが、シャムロックは気がつかない振りをして見せるのが最良だろうと思い、答える。
「気にすることないんじゃないか? 本当に、単純にイーグル乗りの部隊だから『ガルーダ』にしたのかもしれない」
「まあ、だとしたら上のセンスもそう悪くないね」
 それはこの数ヶ月で、まさに生死を共にし『相棒』と呼び合うほどの信頼関係を築いてきたゆえの判断だ。そんなシャムロックの心の内をわかっているのかいないのか、ふっとため息を漏らしタリズマンは触っていた髪を背へとやり、かくんかくんとふざけた感じで首を揺らめかせる。そのこれまた子どもっぽい仕草の拍子に、地上ではいつも解いたままにしている髪がさらりさらりと揺れた。
「……ん」
 ちょうど差し込む日の光を吸い込み鋼のように鈍く輝くそれに、シャムロックはつい見とれてしまった。その視線に気がついたタリズマンが、なに、と目で問いかける。
「あ、ああ。いや」
 以前、同じような状況でうっかり『君の髪は綺麗だな』なんて正直に言ってしまい、タリズマンが頬を引きつらせたり赤くしたりした一連の出来事を思い出して笑いを漏らしそうになり、慌てて堪えた。が、唇が妙な形に歪んでしまうのは押さえきれず、タリズマンが眉を上げる。
「なんだよ、なんかニヤついてるけど?」
「なんでもないさ。それよりも」
 そこで言葉を切り、シャムロックはタリズマンに向き直った。その雰囲気の変化に気がついた彼女もまた、彼と相対してその優しい色をした瞳を見つめる。
「いままでも散々そうだったけど、これで改めて、死ぬも生きるも共にってわけだ」
「……そうだね」
 言われてタリズマンの表情がすっと冷えた。その脳裏には、ここまでの撤退戦で見てきた惨憺たる敗北の戦場が過ぎていく。エストバキアの巡航ミサイル―この当時、ふたりはそれがニンバスと呼ばれるものであることすら知らない―などを初めとする圧倒的な攻撃で多くの仲間が空に散り、ガルーダは生き残りの地上兵の退路を支える以外になすすべもなかった。
 空へ還ってしまった者たちとの差などあってないようなものだ。ほんの一瞬にして、あちらとこちらを仕切った理不尽な線。果たして、それを踏み越えて仲間たちを連れ戻す猶予があったのだろうか? もしあったとして、自分にそれを行う力と勇気があっただろうか?
 詮なき自問自答に、タリズマンは臓腑が捻れるような不快感を覚えて瞬間、顔を伏せる。それは死への恐怖でもあるのか。期せずしてひゅっと漏れた自身の息の音に、そうだ私は生き残ったんだ、心の内でそうつぶやきグッと奥歯をかみしめ、彼女は顔を上げた。そして、一番機かつ隊長として、二番機であり部下である男へ命令を下す。
「シャムロック。ガルーダは必ず二機で帰投する。鳥は片翼では飛べないからな」
 命ずる瞳に宿る強さと傲慢さゆえの光が、シャムロックにはとても眩しく感じられる。この煌きが幾度もシャムロックを導く灯火となってくれた。それは、戦場で先陣を切る彼女と共に飛べばいつかグレースメリアに帰る日がくると思える、それだけの意味はない。地上でもその灯火に暖められて、シャムロックの心は凍えずにすんでいるのだ。
 しかしタリズマンもまた人間で、ひとりのパイロットに過ぎない。だからその火は、なにかがあればあっけなく消えてしまう。
「了解」
 だからシャムロックは、二番機としての自信に満ちた微笑みを返す。彼は、空を飛ぶことで生き、地上に降りてもなお空を見上げたままのタリズマンの背を見ていることしかできない己を知っている。その後ろ姿に流れる黒髪をしなやかな羽根のように閃かせて生きる彼女の、その空虚さと不安定さに気がついたのは何時だったのか、彼自身ももうわからない。
 しかしタリズマンは自身の一切をシャムロックに伝えようとしていないし、そもそもその考えにすら至っていない。だから聞かない。ただその背を護る、灯火を追う者として、しかしそれを悟られないように。彼女がいつか、地に立っていること、振り返ることをも思い出したとき、受け止められる人間がいてもいいじゃないか。……そう、それだけだ。
「必ず、共に帰ろう」
 すっと拳を差し出したシャムロックに、タリズマンがにっと笑う。そのまま、こんと拳を撃ち合わせ二人はもう一度、青と白、そこに赤が映えるガルーダの紋章を見上げる。
 金色の王様の微笑みはここにない。彼らはそれぞれの想いを翼に託し、かの微笑みが隠れてしまった黄昏の街を目指す。その道程が険しいことは明白、下手をうてば明日にでもエメリアが地上から消え去るほどの劣勢を覆せるだけの要因もないが、奇妙な自信とお互いの存在だけは確かなものとして隣にある。
「でもこのエンブレム、実は結構目立つんだよね。狙われまくるかも」
「その時はその時さ。僕と君ならなんとでもなるだろう?」
「言うなぁ、シャムロック。でも確かにね、うん、なんとかしちゃおうじゃないか!」
 そして彼らは知らない。ガルーダは、大いなる神に力と勇気を称えられ祝福を受け、その乗り物となることを許された神鳥だという伝説を。


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