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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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ACE COMBAT 6 SS
セルムナ連峰制空戦とサン・ロマ強襲の合間。
エメリア軍のバレンタイン。でも恋愛要素は皆無。



 私は、言われるようなエースでも英雄でもない。本当のエースは円卓の鬼神や片羽の妖精、かつてのベルカ空軍パイロットのような人たちを言うんだろうし、真の英雄はメビウス1やラーズグリーズだ。
 ただ戦争の終わりには英雄が必要で、私はたまたまそこにいただけ。そうだな、エメリア軍にとって私は、お守りみたいなものだったんだろうな。まあ、TACネームからしてそうなんだけど。
(エ・エ戦争後の『ガルーダ1』へのインタビュー、没稿部分より)


「あー、ついに気がついちまったか!」
 そう言って、ガビアル戦車大隊を率いる隊長、エド・アルバレスは哄笑した。それを前にして唇をとがらせているのはタリズマンだ。ガビアルの態度が気に食わないのか、腰に手を当て怒っているというポーズを大げさに取ってみせる。
「だから、なにが! もったいぶらないで教えてよ」
 シルワートを解放し拠点として数日。セルムナ連峰でのニンバス攻撃に東進の足止めをされたエメリア軍は、空中要塞アイガイオン撃墜を次目標に据え、そのための橋頭堡として港湾都市サン・ロマとカヴァリア航空基地の奪還作戦を立案した。その作戦内での活躍も大いに期待される、ようやく軍隊らしくなったエメリア軍内で今や知らぬ者はいないエース部隊となったガルーダ隊、その一番機であるタリズマンは、ここのところひとつの現象に頭を悩ませていた。
「そのままだよ。落とし物が多いって話だろ?」
 確かに今ふたりが話題にしていたのはその件であり、タリズマンの悩みの種もそれだ。
 最近シルワートの基地内では物を落とす人が多く、それを何気なく拾って手渡すこと数十回、どの場合も例外なく、やたらと感謝されたり気味が悪いほどの笑顔を向けられたりすることにタリズマンはすっかり参っている。しかもシャムロックやアバランチにその話を振ったところ、そんな目にあっているのは自分だけだと判明し……空戦センスにも発揮されている持ち前の勘の良さから、なにかあると悟った彼女が特攻をかけたのがガビアルだったわけだ。
「しかし、なんで俺に聞きに来たんだ?」
「私の目の前で落とすのが、シルワート以降に合流した陸戦部隊の人ばっかだって気がついたから」
「なるほど。やっぱりいい観察眼してるな、さすがはエメリアのエース」
「じゃなくて~!」
「わかったわかった。実は最近な、俺たちの間じゃ『タリズマンが触れたものを持っていれば、戦場でそのご加護がある』ってジンクスが流行ってんだよ」
「……はい? なにそれ?」
「お前、TACネームがTACネームだ。そういう話も出て当然だろ」
 てっきり年少パイロットをからかう賭けでもしているのかと思っていたのか、タリズマンはその答えに一度ぽかんとし、そうだけど、とモゴモゴと口を動かした。それにガビアルは含み笑う。
 シルワートタウンでケセドからの軍と合流した彼は、まったくエースに見えないエースの人となりを把握しきっているわけではなく、この扱いにどんな反応を示すか実に興味深く思っていた。事実を受け入れて照れるか、自信に満ちた答えを返すか、縁起物にするなと怒るのか。いくつか予想をつけていたのだが、タリズマンはそのどれにも反し本気で困った顔で視線をさ迷わせている。
「どうした?」
「……私はひとりしかいないし、皆を援護するなんて無理だよ」
 視線を合わせないようにしたいのか、ごしごしと手の甲で額を擦る仕草に見せかけて目を隠す様は途方に暮れた子どものようで、ガビアルは面食らう。

《ガルーダ1、おっ始めるぞ。天使とダンスだぜ》
《ガルーダというのか、頼むぞ!》
《まっかせとけぇ! 行くぞシャムロック、空の連中はこっちで全部平らげる!》
《了解だタリズマン、これ以上未亡人を増やすわけにはいかないからな!》

 エストバキア軍に包囲された絶望的状況の中、誰もが命を削り、ギリギリで凌いでいたシルワートタウン。その鉛の蓋のような空に舞い降りた、鳥のエンブレムの二機。地上部隊の歓声に応えた『天使』たちの声を、ガビアルは今でもはっきり思い出せる。そのまま見事な連携でシルワートの生命線である空港を脅かしていた敵機を叩き、敵精鋭部隊の赤いSu-33たちを一手に引き受け撃破していったことも。このエース達がケセドからエメリア軍を導いてきたのか、これなら勝てると確信した瞬間の、高揚も。
 それをもたらしたパイロットは、今、困り果てた顔をしている。
 なるほど、こういうタイプか、とガビアルは心で頷いた。それは決して彼女に幻滅したわけではない。この『タリズマン』はまさしくその名の通り、自らを懐に抱く者を勇気づけ、それによって強くなってきたエースなのだろう。その想いと共に、カビアルは軽く息を吐く。
「タリズマンは真面目だな。いいんだ、こういうのは気の持ちようなんだからよ」
「そうそう。『気』のためにこいつでも配ったらどうだ?」
「ん? なんだワーロック、それにシャムロックも?」
 ガビアルから見て正面、タリズマンの向こうからひょこりと姿を現したのは大荷物を抱えたワーロックだ。その隣には段ボールを抱えたシャムロックもいる。
「なに、その荷物?」
 振り返って不思議そうな顔をしたタリズマンに、見てみるか、とシャムロックが小柄な彼女のために身を屈めた。中身を覗き込んだタリズマンは、ますます首を捻る。
「これを配れって?」
「そう何回も物を拾わされるよりはいいだろ?」
「……ワーロックも気がついてた?」
「まあな。と言っても俺がこいつを用意したのは別の理由だったんだが、この際だ。タリズマンのご加護がありますようにってな」
「い、嫌だよ、そんな! きっとゴーストアイも怒るって!」
 ぶんぶんと首と手を振って拒否するタリズマンに、ガビアルも援護してやろうかと口を開きかける。が、それよりも早くシャムロックがタリズマンに向かって微笑んだ。
「明日はサン・ロマ作戦だ。士気の向上にもなるだろうし、今日はちょうどバレンタインデイだろう?」
「あー、そうか。そんな日だな」
 段ボールいっぱいに詰まったキャンディやチョコレートの包み紙の理由に、ガビアルもタリズマンもようやく納得する。昨年の夏の終わり以降、そういった事柄にすっかり疎くなってしまっていた。さすがに新年を迎えた際は皆で祝い、グレースメリア奪還と戦争の早期終結を誓い合ったが、それ以降はアネア上陸戦を初めとする激戦に次ぐ激戦で季節感など吹き飛んでいる。そんな風に戦時を平時と捉えている自分たちに今更ながら寒々しいものを覚えたタリズマンは、うーん、と腕組みをして考え込む。
 自分がちょっと道化を演じれば皆が喜んでくれる。そんな考えたこともなかった事実に彼女は戸惑っていた。でもそれはきっと、期待されているように皆を護ることに繋がっていくのかもしれない。
「そっか。……まあ、うん、そういうことなら」
 そう納得したタリズマンだったが、返事を聞いたワーロックがにんまりと笑ったことに嫌な予感を覚える。だが、言ってしまったことは取り消せない。彼女は数十分後、それを思い知ることになる。


「だからって、なんでこうなるんだよっ!」
 基地内のほとんどがいるんじゃないかと思われる人の塊、その中心にある整備台の上でタリズマンが抗議の声を上げた。が、この状況を作り出した主犯である、台の下で大笑いしているワーロックとアバランチは聞いてもいないようで、代わりにガビアルが同情した顔をして手でメガホンを作りタリズマンに話しかける。実は、そうでもしないと声が届かないほどに格納庫は妙な熱気に包まれているのだ。
「もう諦めろって! 嘆くよりはとっとと撒いて終わりにしたほうが早いぞ!」
「ああ~、もう! じゃあ、いくよ! タリズマン、FOX2!」
 ついにやけになったのか、タリズマンが足元にいくつもある段ボールから菓子を両手にひっつかみ、大きく腕を振る。広い格納庫の空間に包み紙がキラキラと光を反射して舞う光景など、なかなかお目にかかれないだろう。それに向かって歓声を上げたのが無邪気な子ども達なら微笑ましい光景だが、いい年をした軍人連中なのだから、ますます、だ。
「FOX2かよ! 投下じゃないのか?」
「うっさい! 爆撃は性に合わないんだよ!」
「タリズマン、こっちにも寄越せ!」
「はいはい。ガルーダ1、FOX3~」
 珍妙なやり取りの次は袋ごと振り回す豪快な投下になり、更なる騒ぎになっていく。そんな様子を、シャムロックは集団から離れた位置の壁に寄りかかり目を細めつつ眺めていた。
 数日前にワーロックにバレンタインの話を持ちかけられ、まあ悪くないんじゃないかと相棒には黙ったまま準備を進めたのだが、まさかこんなおかしなイベントにまで発展するとは思っていなかった。しかし、悪いことではないだろう。やっていることは不謹慎だが、ほんの一ヶ月前は、本土を追いやられ上陸作戦にすべてをかけた悲壮感さえあったエメリアがここまで持ち直したということなのだから。
「ん? もう離脱か?」
「ああ。しかし軍隊らしくなったらなったでこうなんだよな、うちは」
 そう言いながらシャムロックの隣に収まったのはスカイキッドだ。華麗な操縦技術を持つ彼はここでもそれを活かしたのか、とっととやることをすませ混戦を抜け出してきたのだろう。戦利品らしいクッキーが入った小さな袋を手の上で弾ませている。
「悪巧みが好きってことかい? それならまったく同意だけど、あとで僕がタリズマンに怒られそうだ」
「確かに、本人はこういう扱いを嫌ってそうだ」
 一度中空に上げた包みをぱしっと手に握り、でも、とスカイキッドは続ける。
「これくらいはいいだろ? 俺たちにとってタリズマンは……あの重苦しい空を真っ先に切り裂いてみせて……本当に、天使が来たとか素で叫ぶような経験は、あれきりだろうな」
 シャムロックは、包み紙を見つめながら語る横顔に目をやる。スカイキッドが言う『俺たち』は、彼やスティングレイの飛行隊、ガビアル、ドラゴンバスターズたち戦車隊など、シルワートタウンに孤立していた部隊すべてを指すのだろう。
 ゲリラ放送のラジオDJからの情報を信じるしかないほど追い詰められた戦況で、いつ来るかも知れないケセドからの友軍を待ち粘りに粘っていた屈強な精神を持つ彼らにとって、いや、そんな彼らだからこそ、ガルーダの登場がより劇的に映ったことは、同じ軍人としてシャムロックにも想像ができた。もちろん、相棒と呼び合うパートナーをそんな風に言われて悪い気はしない。
「ああ、もちろんお前もだぞ? シャムロック。ガルーダ隊が一気に戦況を変えた上に、俺たちを背に乗せて勝利まで飛んでくれたんだからな」
「よしてくれ、僕は天使なんて柄じゃない」
「ははは! っと、ついに姐さんまで引っ張り出されたか?」
 言われてシャムロックが正面に視線を戻せば、もうひとりの女性パイロットであるラナーも台に引っ張り上げられていた。
 そもそもワーロックは彼女にも参加を打診したのだが、勘弁してちょうだいとすげなく断られてしまっている。が、同じ女性なら彼女からもらうほうがいいという声でも上がったのか、それともタリズマンが引きずり込んだのかはわからないが、開き直って長い黒髪を大きく振り騒ぐタリズマンと好対照に、仕方ないわねといった苦笑混じりの顔でボブカットの金の髪を柔らかに揺らし、しなやかな手から包み紙を撒いていく。それにまた、歓声が上がった。


「つーかーれーたー……」
「ああ、お疲れ」
 べちゃっという擬音が似合いそうな姿で机に突っ伏すタリズマンの頭を、隣のシャムロックがぽんぽんと叩く。ようやく収まった騒ぎのあと、格納庫からこのレストルームまで来る道のりで文句は言いつくしたのか、座ってからはずっとこの調子だ。
 レストルーム北の端にある二席は、『ガルーダ専用』というイメージが立っていて他の人間はあまり座ろうとしない。実際に、なんとなしに地上でも一緒にいることが多いふたりが、ここ数日でそんなイメージが付くほど頻繁に腰掛けているのは事実だ。そんなに一緒にいるんだ、いっそのこと同部屋にしたらどうだ、とからかったのはアバランチで、別にいいけど、と答えたタリズマンにシャムロックが処置なしといった風に肩をすくめ、たまたま耳にしてしまった周囲がむしろ盛大にうろたえたことは、すっかり笑い話になっている。
「あ、そうだ。シャムロック」
「なんだ?」
 むくっと身を起こしたタリズマンは、カーゴパンツのポケットに手を突っ込んで、なにやらごそごそと動かしている。なにをしているのかと気になったシャムロックがつい彼女のほうに身を乗り出したとき、
「てやっ!」
「うぐっ!?」
 それを狙っていたのか、空戦時を思い出させる素早さでタリズマンがポケットから出した掌をシャムロックの口に押しつけた。驚きと、唇に当たった固い物に彼は反射的に口を開けてしまう。
「ん?」
 口中に転がりこんだ物はすぐに溶け出し甘い味に変わっていく。どうやらチョコレートらしい。タリズマンのポケットのふくらみからして、撒いていた物をそれなりにくすねてきたのだろう。まあ、あれだけのことをした報酬には足りない程度の量だが。
 もごもごと口を動かしているシャムロックに、タリズマンはまた机に身をべたりと倒し首だけを捻って彼を見上げる。
「シャムロックは持ってる必要ないもんね。いつも一緒にいるんだから」
「……そうだな」
 小振りのチョコレートはすぐに形をなくし消えてしまった。その名残を舌に感じながら、シャムロックはうなずく。
 ようやく首都奪還の日が見えてきたエメリア軍の前に立ち塞がった、超兵器アイガイオン。奴を屠るための渡り合いは、明日の作戦を含め熾烈なものになるだろう。そんな戦いを前にしたエメリア兵の皆はタリズマンを天使だと言い、戦場における心の支えとしている。そしてタリズマンはその事実を知り、自分が成すべきこと、自分にしかできない役割を意識し始めた。ただ思うがままに空を舞い敵を落とす単純な行為にすら、複雑な事柄が付随してくるという現実を知ったのだ。
 それは戦争を終結させるのに必要なことだが、タリズマンは決して、その役割を望んでなどいない。それでも真っ直ぐに挑んでいくのだろう彼女を孤独しないために。
「僕は君の二番機だからな」
「おうよ。頼りにしてるぜ、相棒」
 皆を護るのがタリズマンならば、その彼女を護るのは誰だというのだ。
 その問いかけを持つ者もその答えを知る者も、ひとりしかいない。それをもどこかで許容しているのか、いつもに増して明るく笑ったタリズマンの頭を、シャムロックはもう一度軽く叩いた。


 
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