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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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ACE COMBAT 6 SS
Mission1開始直後、ガルーダ隊編成時


 『上がれる機体はすべて上げろ』。その防空司令部の命令に従って、シャムロックもグレースメリアの空へと舞い上がった。彼が目指す先、前方のAWACSの周囲には同じように飛び立った機体が集まっている。これは迎撃部隊の第何陣にあたるのだろうか、少なくとも第一陣よりも相当の後れを取っていることは確かだった。
 離陸直前のチェックが遅れたことで隊の皆とははぐれてしまったことが、シャムロックの精神を苛立たせる。普段なら気にもかけないだろう、これは演習ではないと繰り返す基地管制の声すらささくれだった心を刺激した。
「くそ、そんなことはわかっている!」
 地上で所属不明部隊の攻撃に怯えているだろう妻子を想い歯がみする彼の耳に届いたのは、こんな時でも、いや、こんな時だからこそ冷静でいなければならない男の声だ。
《こちら空中管制機ゴーストアイ。防空任務に上がった各機に告ぐ。状況が混乱している、これより臨時に緊急編成を実施する。個別に指示に従え》
 続いて指示が始まった。パイロット達のコールサインが呼ばれ振り分けられて行く様は情けなくもあるようで、シャムロックはますます苛立つ。相手側の作戦が防衛機能を上回ったのかはわからないが、首都襲撃をこうもあっさりと許したことといい、これではエメリア軍は平和に溺れていると揶揄されるのもしかたないざまだ。
《……ガルーダ1、貴君は僚機を欠いている》
 そこで聞こえたコールサインにふと意識が向いた。あれが、とシャムロックは前方のやや高い位置を飛ぶF-15C―その異名『鷲』に似た神鳥のエンブレムを頂くはずの機体を視界に捕らえる。
 通称『ガルーダ』と呼ばれる飛行隊は、一昨年、東部防空軍第8航空団内に編成された、航空学校上がりでそろそろルーキーと呼ばれる時期を抜け出す者たちで構成された部隊だ。特徴といえばそれだけで基地内で有名なわけではない。ただシャムロックはつい先日、ゴーストアイと彼らを話題にしたことがあったのだ。


「一番機が、とにかくクセ者なんだ」
 グレースメリア空軍基地内のレストルームで、向かいに腰掛けたシャムロックを相手にゴーストアイは額を押さえてそう言った。
 堅物揃い思われがちな司令部だが、彼はなかなかに気さくでユーモアのセンスもあり、地上でもパイロット達と同じく階級ではなくコールサインで呼ばれている。とはいえ基本的な部分は生真面目で有名な彼の愚痴にシャムロックが付き合うことは珍しくないが、ガルーダ隊が話題に上ったのは初めてのことだった。
「技術は並よりやや上と言ったところだが、空戦のセンスは突出していて運も良い。パイロットとしての条件はそろっているんだが、なんとも扱いづらい」
「つまり? 若いんだし、がむしゃらで周りが見えないタイプなのか?」
「確かにそうでもあるんだが、がむしゃらとは違う。はしゃいでいると言えばいいのか……そうだ、子どもの遊びに付き合っている気分になるんだ。次になにをしでかすか、さっぱり読めない辺りが特にな」
 捻り出した自分の表現に納得したように一度頷き、そしてその時を思い出したのかゴーストアイの眉間にしわが寄る。
「だが、腕はいい。現状の方向を潰した場合どう転ぶやら見当もつかない」
「可能性も潰しかねない、か」
 今度は苦々しく頷いたゴーストアイは、黙ったままコツコツと一定のリズムでテーブルを叩く。シャムロックがなんとなしにその回数を数えてきっちり7回目、ぴたりと指が止まった。
「可能ならば、君のような二番機をつけてみたいのが正直なところだ」
 そう言ったとき、彼の唇の端が微かに上がったのは見間違えではなかったと思う。


《シャムロック、君も迷子か。よし、君がガルーダ1の二番機につけ》
 だから今、こうして指名されたこと対する驚きはそれほど大きくはなかった。ゴーストアイからすれば、ガルーダ1が現状僚機を欠いていることも、そこに同じくなシャムロックが来たことも僥倖であったのかもしれない。
《オーケー》
 シャムロック自身も、長く管制官を務めているゴーストアイにそんなことを言わせたパイロットに興味がわいていた。それに若く才能があるというのなら、ベテランのフォローの元で戦場を経験させ、生き延びさせることが後々のエメリア軍にとって利になるはずだ。今首都に攻め込んできた傍若無人な連中との戦いが、この一戦で終わるわけがないのだから。そんなことを考えつつも、シャムロックは自機をF-15Cに向け上昇させ編隊を組む。
《じゃあ、僕はガルーダ2だ。ガルーダ1、援護位置につくよ》
《ガルーダ1から2へ。了解! 背中をお願いします、シャムロック!》
「え……」
 今のが聞き間違いでないのなら、『ガルーダ1』と名乗った声が予想に反するトーンだったことに、一瞬だけシャムロックの思考が止まった。その隙を突いて出てしまった驚愕のつぶやきは極小さく、無線に拾われなかったのは幸いだった。
(女性、なのか)
 ゴーストアイの話しぶりから血気盛んな青年兵を想像していたが、見事なまでに大外れだったようだ。しかし確かに声からしてかなり若く、今のたった一言にすら自覚のないままに己を鼓舞する戦場への高揚を漲らせ、同時に端々に隠しきれない強ばりを滲ませていた。それは眼下の守るべき街が攻撃に曝されている現状に加えて、初めて組む僚機となんの打ち合わせもなしに実戦に臨む不安、それが年上の先輩パイロットで自身が一番機となることも少なくない影響を及ぼしているだろう。
《ああ、任せてくれ》
 ではその先輩として、自分はどうすべきか。長年の経験と、原隊にて『永遠の二番機』などと呼ばれるスタイルを持つ―だからこそのゴーストアイの指名なのだろうが―シャムロックは、自分が果たすべき役割を瞬時に理解し行動に移す。
《残念だけど、詳しい自己紹介は後でしよう。どうも方向音痴でね、君についていくよ》
 わざと冗談めかした言葉に、相手が軽く噴き出すのが無線越しでもわかる。
《あははっ、方向音痴のパイロットか。見失わずについてきてくださいよ?》
《もちろん。眼はいいんだ、パイロットだからな》
 続いた返答は、少し生意気な風を装った快活なものだった。どうやら彼女とは気が合いそうだなと、狙い通り、むしろそれ以上の反応にシャムロックは満足する。と、それを見越したようなタイミングでゴーストアイの指示が飛んだ。
《ガルーダ隊、交戦を許可する。目標はグレースメリア上空の敵性航空機》
《了解!》
《ガルーダ2了解、行こうガルーダ1!》
 返事の代わりにF-15Cが機体を旋回させ一気に速度を上げる。それはシャムロックも同じで、気も合いそうだが空における間合い取りとでも言えばいいのか、それもふたりは似ているようだ。
 ゴーストアイ曰くとんでもないじゃじゃ馬らしいが、これなら行けそうだな。……気がつけば、先ほどまでシャムロックを苛んでいた焦燥感はすっかり消えていた。なるほど、ここまで考えていたのかゴーストアイめ、と、あの時の彼と同じように唇の端に笑みを浮かべ、そして多くの機体が入り乱れる戦場を見据えてシャムロックは独りごちる。
《金色の王の微笑みが共にあらんことを》


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