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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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ACE COMBAT 6 SS
バルトロメオ要塞攻略戦中の一幕




《ワーロック、またむさ苦しい顔に会えたな! クオックス隊、ワーロック隊と合流するぞ》
《了解。ワーロック隊はクオックス隊に合流。……むさ苦しい顔だとぉ!? おーおー、これでもかってくらい見せてやるぞ、盛大に喜んでくれやクオックス!》
 無線から聞こえてきた漫才じみたやり取りに、バルトロメオ要塞上空でF-15Eを駆るシャムロックは思わず頬を緩めた。地上の戦車大隊と機甲大隊が合流したらしい。それは端的に、この作戦が順調に進んでいることを示していた。
 隊長の名そのままで呼ばれているこのふたつの部隊は、ヴィトーツェでの再編以来、ガルーダ隊ともよく連携を取るようになった。そのためタリズマンとシャムロックも二人となにかと言葉を交わすようになり、いまでは親しいと言って差し支えのない仲になっている。特に陽気なワーロックは、同じくノリの良いタリズマンを気に入ってからかって遊んだり、時には組んで隊員達に色々なイラズラを仕掛けたりすることも多かった。
《……くく、く、あはは、あはははは!》
 と、また無線から妙な声が聞こえた、と思った途端、それは笑声となって炸裂する。シャムロック機の先、ロッテを組んだ位置に見えるF-15Cのコクピットで笑い転げているのは、無論、タリズマンだ。
《いまの聞いた、シャムロック!? ワーロックのあんな声、初めてだ!》
《ああ、確かにな》
 どこまで敵に追いつめられうようが、どんなに部隊が損耗しようが、常に冷静さを失わず的確な指示を飛ばして突破口を作り出すワーロックは、戦場においては非常に頼もしい存在だった。それが、どうだ。クオックスのほんのちょっとの軽口に、あんなにもムキになって言い返すなんて。シャムロックも軽く笑い声を漏らすと、それに冷徹な声が被さってくる。
《ガルーダ隊、私語は慎め。引き続き、敵山岳要塞を攻略せよ》
 その主は、AWACS『ゴーストアイ』に乗り込んだ管制官だ。AWACS管制官としては比較的柔軟な頭を持つ彼も、無線を占領されるほどの笑い声にはさすがに怒り心頭だったのだろう。まあ、怒鳴りつけないのは、逆にAWACSらしいとも言えるが。
《ガルーダ1、了解! ガルーダ2、空に残った連中から片付けよう!》
《了解!》
 編隊を維持したまま、ぐんっと機体を上昇させる。広い戦場に展開する陸戦部隊が空を気にしなくてもよいよう、掃除に取りかかったところで、
《ねえ、シャムロック!》
 慎めと言われたそばから、テンションの高い声が飛んでくる。こんなことにもすっかり慣れてしまったし、むしろ、これこそが重要だとシャムロックはわかっている。
 空の上のタリズマンは本能そのままだと、彼女を指導した教官やかつて組んでいた同僚たちは言う。頭のどこかが振り切れてしまったような勢いで何事か口走り、どんな機動を取るのか、敵機どころか僚機にも悟らせない。だが、その模擬空戦の戦績は同期の中で揺るぎないナンバーワンであった。だからこそ、突出した才能、本能で飛んでいると言われたのだ。
 確かに、ふたりが初めて『ガルーダ』として組んだ戦場、いまは遠きグレースメリアの空でのタリズマンは、シャムロック、ひいてはエメリア、エストバキア両軍の戦闘機乗り達の想像を超える動きをし……まあ、あまり褒められたものではない挙動ばかりだったが、そして人を食ったようなマニューバでエストバキアのエース、しかもシュトリゴン・リーダーを叩き墜としてしまった。
 だがその成果は、いくつかの偶然と、なによりもベテランの二番機のフォローがあってこそだったと誰もがシャムロックを褒め称えた。それが事実であるのはシャムロックもタリズマンも認めるところだが、そのフォローの正確性が、タリズマンが絶えず発する『無駄口』に由来することに気がついている者が、果たして自分以外にいるのかとシャムロックは思っている。
 タリズマン本人すら気付いていないのだ。彼女がいかな想いを空に抱き、それを軌跡とし口ずさみながら鋼鉄の天使たちと舞うのかを。
《なんだ、タリズマン?》
 だから彼女の、片翼の言葉を、丁寧にすくい上げていく。それは、小さな子どもから溢れる言葉を辛抱強く聞き分ける行為に似ている。
《ワーロック達は生きて会えたんだ。この戦いの中で生き残って! この戦場までたどり着いて! その第一声があれって最高だ!》
 敵機がタリズマンの、すれ違いざまの派手な旋回に惑わされた隙に、すかさずシャムロックがロックオン、ミサイルを叩き込む。アネア大陸からケセド島までの撤退戦、そしてヴィトーツェ、シプリの戦場を経て磨かれてきたコンビネーションは完成に近付きつつある。いや、完成などない。これからもずっと進化していくのだ。
 敵機が爆撒するのを背後に見送る中、タリズマンの弾んだ、しかしどこか震えた声がシャムロックの耳を揺らす。
《どうしよう、凄く嬉しいんだ! 本当に、泣きそうに嬉しい!》
 本当は、そんなに単純な感情ではない。いまこうして撃ち落としている機体にも命が宿っていて、彼らにも友人がいるのだろうことくらい、タリズマンも理解している。それでも撃たねば死ぬのは己であり、傍らに在る僚機もまた墜ちる。だから死を覚悟して飛ぶ。その足の下に、いくつもの死を踏みつける覚悟をも。
 ああ、そうだ、でも。
 タリズマンは声なく、また笑う。
 空と地上、その差はあれど、同じ基地を立った自分たちの支援の元、ワーロックとクオックスがこうして再会したように、まだ間に合う。
《ああ。喜んでも、誇ってもいいことだ。そして彼らも僕たちを助けてくれる》
 そう返事をした彼女の相棒は、シャムロックは、生まれ育った故郷を、守りたかった街をエストバキアに奪われた。愛する家族もまたそこに閉じ込められている。それは他の多くのエメリア軍の兵士も同じだ。……でも、いつか取り戻せる、あきらめさえしなければ。なぜなら、それは消えてなくなってしまったわけでは、ない。そう思いながらタリズマンは、操縦桿を握りしめる、分厚い手袋に包まれた自らの掌を意識する。なにも掴めやしない、ただ多くのものが指の間をすり抜けていくばかりだったこの手で、成せることがあるのだ。
《ワーロック、ひょっとして顔を気にして、っと!》
《ガルーダ2、FOX2!》
 シャムロック機が遠距離に見える敵にミサイルを発射する。当たるとは思っていない、これは囮。本命は、あわててミサイルを回避する相手の移動位置を読み、一気に加速したタリズマンの機銃だ。
 また、空に炎が上がる。
《私は、あのくらいのほうが威厳があっていいと思うんだけどなぁ》
《そのセリフ、地上に降りたら直に言うべきだよ。きっと喜ぶぞ?》
《私じゃ、子どものお世辞って言われて終わるよ》
《でなければ、クオックスの差し金と言われるわけか》
《そうそう!》
 続いた応酬に、くっくっく、と笑い合いながら再び編隊を組む。聞こえているはずのゴーストアイがなにも言わないのは、きっと呆れているのだろう。
《敵アンノウン急速接近、二機! ガルーダ隊、迎撃せよ!》
 どうやら、そういうわけではなかったらしい。その指示に、瞬時にガルーダの二人の感覚が空へと解き放たれる。以遠より飛来した敵機はまずレーダーに現れ、そして目視できる距離まであっという間にやって来た。機体は……Su-33。そして、そこにひらめいて見えた赤。それを確認した瞬間、シャムロックの瞳が一気に熱を帯びた。
《魔術師のエンブレム! こいつら、グレースメリアを襲った凄腕だ!》
《魔術師だろうが魔女だろうが、どんどん来やがれ! 魔法のほうきをへし折ってやる!》
 タリズマンの絶叫と共に、ガルーダの両翼が翻る。
《この空はもうエメリアのものだっ!》

 

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