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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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ACE COMBAT 6 SS
シルワート攻防戦後、重巡航管制機要撃前の、どこかの戦場で補給中の一幕。

「来たぞ!」
 補給基地に飛来したのは、ガルーダのマークの入った二機だ。同時に基地管制官から整備チームへと、補給についてパイロットからの指定が入ってくる。……どうやら、すぐにでも取って返さなくてはならない戦況らしい。どの整備員も思ったことは同じだったのだろう、厳しい表情のまま忙しく動き回り、降りてくる二機を迎え入れる。
 先に着陸した一機から降りてきたのは、戦闘機乗りとしては非常に小柄な部類に入るパイロットだ。メットをやや乱雑に外すと、ブルリと首を振るわせてから汗で額にこびりついた前髪をかき上げる。エメリアではめずらしい、闇夜を閉じ込めたような黒髪。それと同じ色をした黒瞳が一斉に機体に取り付いた整備員たちを見上げた。そこに浮かぶ、ここに存在することへの安堵と、燻る戦場での興奮がない交ぜになった色が、笑みを唇に形作る。
「整備のみなさーん! こっちの機体、対空兵装でよろしくぅ!」
「おうよ!」
「了解済みだ、タリズマン!」
 メットを振り上げて大声を上げたパイロット―タリズマンに、馴染みの整備員たちが同じく腕を振り上げて応える。そんなパートナーの様子を、少し遅れて機体を地上に固定したシャムロックは、自機に掛けられた梯子を下りながら横目で見ていた。それを待ち構えているのは、このチームの主任であり、セケドから長くガルーダに付き合ってくれている中年の整備兵だ。
「すぐに出るか?」
「少しでいい、休ませてやってくれ」
 地に降り立ったシャムロックは、主任に向かい首を振ってそう告げた。了解という意を込めて主任が頷き、そしていまだ明るい声を上げるタリズマンとやり取りをしている部下たちを叱咤して作業に取りかかる。シャムロックもまた、タリズマンに歩み寄ってその肩をぽんと叩いた。
「補修に時間がかかるそうだ。少しは休めるな」
「あれま。もしかして私、派手に被弾してた?」
「いや、僕が」
 肩をすくめて見せたシャムロックは、さりげなくタリズマンの背に手を添えて歩くように促した。その手に感じる、ひんやりとした黒髪の束の感触が心地良い。
 タリズマンの、肩胛骨下の辺りまで伸ばしたクセのない黒髪は、空の上ではひとつにくくられているのが常だ。シャムロックが、自身や娘の、緩やかなカーブのかかったブラウンの髪とはあまりに違う手触りに驚いてしまったのも良い思い出だ。……この戦争の始まりに彼女と出会ってから、それだけの時間が経っている。
 そんな、滑走路の片隅へと向かっていくふたりを不思議に思う整備兵もいた。いつもならば、空を飛んでいるときと同じテンションのタリズマンは、シャムロックと戦域状況を語りつつ機体の側を離れないで補給が終わるのを待ち構えているからだ。
 そう、このエースたちに疲れが存在するのか。整備班では時折、そんなことも話題になる。もっぱら、飛行機さえあれば疲れ知らずなんだろうという結論に落ち着くのは、そういった話題を出すのが若い整備兵ばかりだからだ。今日もまた、彼らの多くがガルーダの上げる戦果に酔いしれている。
 が、タリズマンの後ろで、ある時は横で、またある時は先行して常に共に飛ぶシャムロックにはわかっていた。わずかではあるが、タリズマンの反応速度が落ち始めている、と。もっとも彼女の真価はここから発揮されるのだが、休んで回復してくれる分に越したことはない。
「あー、ほんと対地攻撃苦手! 精神すり減って死にそうっていうかSAM怖い! あれ怖すぎる!」
 むき出しのコンクリートに並んで座って一番、足を放り出して空に向かって吠えたタリズマンに苦笑する。空戦に関してはタリズマンが上だが、地上目標に対する攻撃はシャムロックが勝る。対地に限れば、同年代は軽く上回るものの、ベテランパイロット達には彼女も敵わない。とはいえ、ここまでの乱戦の中で、器用に標的を破壊できるだけでも大したものなのだが。
「例の巡航ミサイルよりマシだろう? 問答無用ってことはないからな」
「シャムロックさーん? 比べる対象がオカシイですよー?」
 それが彼なりのジョークなのか、それとも本気なのか。どっちでもいいと思いつつ、タリズマンは傍らを見上げ、ぱたぱたと手を振って笑い……その手がピッと空を指さす形になる。
「そろそろ、いいよね? SAMと自走砲はあらかたやった」
「もう換装の指示を出してるのによく言うな、君も」
 戦域は予想以上に広がり、相対的に戦闘時間も長引いている。遠方の基地から飛来する、エストバキアの増援が間に合ってしまう可能性が出てきてしまったことは否めなかった。それが敵エース部隊シュトリゴンである可能性もまた、ゼロではない。彼らを相手にするのは、暗黙のうちに遊軍部隊となっている自分達であるべきと、彼女はよく分かっているのだ。そしてまた、シャムロックも意志は同じだ。
「我が隊は対空迎撃を意識しつつの友軍支援、二番機は対地装備継続。オーケー?」
「オーケー、相棒」
 笑みを含んだシャムロックの返事と同時に、身を浮かせたタリズマンの腕がその首にぐるっと回された。タリズマン本人としては、シャムロックと肩を組んでいるつもりなのだろう。が、体格差ゆえに首根っこにしがみついたようにも見えるのはご愛敬だ。
「支援は任せた、相棒!」
「ああ。上は任せたよ」
 頭に頭をぶつけるようにして言われた言葉。それに応え、あごの下辺りにある手の甲に、コンと手の甲を打ち合わせる。それが合図だったかのように、首を覆う腕が離れ、滑るようにタリズマンの体がシャムロックの腿へと落ちる。遠慮なく彼を枕に仰向けになったタリズマンはすでに目を閉じて、一度大きく吐かれた息は、すぐに軽やかな寝息へと変わった。寝付きの良さもエース級だな、と馬鹿なことを考えながら、つかの間の安らぎとなることを祈って、シャムロックはタリズマンのまぶたを手で覆い暗闇を作ってやった。
 体躯の小ささゆえの体力不足。それが、タリズマンを縛るどうしようもないハンデだ。実際、この眠りは半ば疲労から来る気絶に近いものなのだろう。
 彼女は決して、日々のトレーニングを怠けているわけではない。むしろハンデを無くそうと弛まぬ努力をしているが、それだけでは埋められない差は、歴然と存在する。例えばいまなら、ささやかな嘘と共犯者を使い、パートナーを休ませる時間を作れるだけの余裕、という形で。
 しかし、タリズマンがそれに憤ることも、こうしてフォローすることに拗ねることもなくいてくれるのが、シャムロックにとって本当に喜ばしいことだった。最後に信じられるのは己だけ、そんな凄惨な戦場にあって、自分達は間違いなく最高の『相棒』を得ているのだ。改めてそう思えば、照れをも越えて柄にもなく胸にこみ上げてくるものすらある。
 かつてなく長い戦いになったが、これが最後の補給になるだろう。それでこの戦場は終わる、こちらの、エメリアの勝利で。
「あともう少しだ、タリズマン」

 だが、戦争はまだ続く。
 グレースメリアの空を取り戻す、その日まで。

 

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