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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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真・女神転生if... SS
この話のみのヒロインとレイコ。同人誌からの再録。

 ムカムカする。胃の底辺がジリジリ焼けている。吐き気がこみ上げる。経験はないが、二日酔いというのはこんな感じだろうか。
 そう考えながら、赤根沢玲子は目の前で剣を振る少女に向かって早口に呪文を唱えていた。
 玲子が発動した、一時的に身体能力を強化し反射神経と反応速度を高める効果がある魔法を受け、少女は危ういところで悪魔の攻撃を掻い潜り、手に持った剣を振り上げる。
「こ~れでっ、最後ぉぉおおぉぉっ!」
 後半は勇壮な雄叫びとなったそれは、言葉の通りに相手をしていた幽鬼の群、その最後の一匹を斬り裂いた。数秒遅れて響いた、ドチャ、という腐肉の塊が地に倒れる尊厳もなにもない音が戦いの終わりの合図となり、少女は少し離れたところで援護をしていた玲子を振り返る。
「よーしっ! 玲子ちゃん、楽勝だったね!」
「楽勝、ですか。私の魔法がなければ、右腕をなくしていたと思いますが?」
「うぐっ! そんな具体的に言わないでよぉ、玲子ちゃんイジワルー。私、一応先輩だぞ?」
 自覚はあったのか、肉を削がれていたかもしれない右の二の腕をこすりながら、少女―鳶塚香津美(とびつか・かつみ)が唇を尖らせた。その様子にも、くりくりした瞳で睨んでくるのにも、玲子よりも背の低い子供っぽい容姿にも口で言う先輩の威厳など欠片もなく、玲子はまた正直に言い返す。
「イジワルではありません。自覚を促しているだけです」
「……はーい。以後、気をつけます。っと、そうだそうだ、こいつらアレ持ってるかもしれないよね、ちょっと探してみよーっと」
 反省の欠片もなく、鳶塚は玲子に待ってて、と言い残して倒した幽鬼たちの合間をうろちょろし始めた。それに、玲子は軽くため息をつく。
 悪魔たちは時折、鳶塚と玲子の旅路に役立つ物を持っていることがある。死人に口なしは人間も悪魔も共通、それを追いはぎのように奪い取り使わせてもらうことに嫌悪はなかった。綺麗事を言って、自分たちがはがれる側に回るわけにはいかない。
 いま相手をしていた幽鬼たちは、恐らく八体はいた。それらがバラけ、もはや部位もわからなくなって辺りに撒き散らされたホラー映画も裸足で逃げ出す惨状を、制服姿の女子高生が抜き身の剣を片手に物色している。まったくもって馬鹿馬鹿しい光景だと、玲子はまたため息をついた。生きている証としてひっきりなしに吸い込む空気も腐臭と血臭に彩られているはずだが、心と同じく鼻もとっくに麻痺している。
 慣れとは恐ろしい。玲子はそう思うのと同時に、未だに喉に張りついた不快感に薄く笑う。
 この惨状に慣れても、彼女への不快感、怒り、憎悪は消えていない。まだ少しも薄まっていない。予想通り、望んだ通りだ。鳶塚は、玲子の隣で悪魔召還プログラムを使いこなして道を開いてみせることに加え、更なる役割を担ってくれている。
「あった! 見て見て玲子ちゃん、ほら、これ、サファイアだよね、これで何個目だっけ?」
 この世界では、宝石はただの装飾品ではなく九つ集めればチカラの源となる。鳶塚は腐肉の合間で見つけた石を嬉しそうに掲げて玲子に示しながら、駆け戻ってこようとしていた。泥んこ遊びの果てに地面から誰かの忘れ物のビー玉でも掘り当てた子供のような、無邪気という形容詞そのままの様子に、ぷつり、と玲子の中で感情の泡がはじける。
「…………」
「玲子ちゃん? なにか言った?」
「いいえ、なにも」
 覗き込んでも玲子の表情は冷静そのもので、鳶塚はそう、と一瞬だけ不思議そうな表情を見せた。が、しかしすぐに鳶塚の瞳は玲子の向こう側に光るものを捉え、それに負けないくらいの輝きを放つ。
「ああああー! すっごいラッキー!」
 ポンと玲子の肩を叩き、鳶塚はその傍らを駆け抜けていく。ぴょん、と仰向けに倒れた幽鬼の死体を乗り越えて、無造作に転がっていた石を拾い上げた。
「イエイ! サファイアもういっこゲーット!」
「……珍しいですね、一度にふたつもなんて」
「ふっふっふ、待ってろハザマ、これでもっと強くなってぶっ倒してやるからな!」
「これでまだ四個目ですから、先は長いですね」
「ぐぐぐ~、玲子ちゃんノリ悪い! いいよ、じゃあ九つ集まるまでここで狩りをします、はい決定!」
 ちっとも自分に賛同してくれない玲子にムキになったのか、プイッと背を向けて鳶塚は先に歩き出す。そんな勝手な、とその背にしぶしぶ従う態度を取る自分の涙ぐましい努力を思って、玲子はまた、笑った。
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