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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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 連作に絡んでいる感じの小ネタ創作文。
 ゲーム開始の数年前、とある夜のシャムロックと娘のジェシカの会話。ジェシカちゃんのキャラ性は妄想で捏造ですのでご注意。ほのぼの9割シリアス1割って感じ。勢いで書いてるので細かいところはご容赦。



 腰にぎゅうとしがみつく重みに、立ち上がろうとしたシャムロックはたたらを踏む。それが、自分を引き留めようとしている誰か―たったいま寝かしつけたばかりのジェシカのものだということはすぐにわかった。が、どうして娘がそんな行為に出たのかはさっぱりで、中途半端に腰を浮かせた姿勢のままで背後を見やる。
「ジェシカ?」
 返事の代わりに、ふるふると首が振られるのが背に当たる感触でわかった。さらに強く額を押しつけてくるのはなにを訴えているのか。まだ寝たくない、お父さんと一緒にいたい。そんな可愛らしいわがままならうっかり許してしまいそうだが、
「もう寝る時間だ。夜更かしはしないってお母さんと約束したろう?」
「……ちがうの。おとうさんが……おとうさんが」
 必死になにかを伝えようとしている、その健気さが胸を打つ。そうさせるなにが自身にあるのかと自問しても答えは出なかった。いや違う、大きな答えはある。
「おとうさん、あした、おしごとにいっちゃう」
 ジェシカの友人達の父、その多くが当たり前としていることがシャムロックにはできない。最前線に身を置く盾として国家の安寧を保ちひいては家族を守ることを誇りに思おうとも、世界でたったひとつの、彼が自らの命よりも尊く思う存在に寂しい想いをさせているという罪悪感はどうしてもつきまとう。
「おとうさん、とんでいっちゃう」
「…………」
 今回の休暇前、毎年恒例の、エメリア空軍によって行われる航空ショーにジェシカを初めて招待したのは、その罪滅ぼし、あるいは自身への言い訳だったのかもしれない。もちろん、それ以上に『はたらくおとうさん』と『おとうさんがだいすきなひこうき』に興味を示してくれた娘への贈り物のつもりであったのだが、逆に不安を植え付けてしまったのだろうか。まだ歳も一桁の子どもにとって空はまったくの未知でありあまりにも漠然としたものであろうし、そのまま恐怖の対象になってもおかしくはない。その上、二十年近く前のあの日……あまりにも強大すぎる、運命としか言いようのない破壊が空より降り注ぎ人が生きる大地を蹂躙した。ジェシカ自身は生まれてもいなかったが、その事実は否応なしに知らされてしまう。そして純粋な心は一時、信じるのだ。この世界を支配する者は空そのものである、と。
 シャムロックが属する隊が見せた、通常よりもずっとアクロバットな飛行を見た当日はとても興奮し、おとうさんはすごいのね、とてもきれいにとべるのね、とりさんよりもすてきね、とはしゃいだ声を上げ続け、夜になってもなかなか寝付いてくれなかったジェシカだが、いまはまったく逆の意味で眠ることを拒否しているのだろう。
「ジェシカ」
 大丈夫だ。お父さんが必ず守る、またあの流れ星が訪れようとも。そう言葉にしたところで、この小さな命相手になんになる。第一、『守る』のだって自身のみではどうにもならない。己のあまりの無力さにシャムロックはうち拉がれそうになるが、それを覆い隠す矜持と強さを与えてくれるのも、同じ存在なのだ。
「あのね、おとうさん」
「なんだい、ジェシカ」
「おとうさん、おそらのむこうにとんでいっちゃう。てんしさまのように」
「……天使?」
「だから、わたし、おとうさんをつかまえていなくちゃ、だめなの」
 ぎゅうとジェシカの手がシャムロックのシャツを握りしめる、決して離さないと決意を表すように。その幼い決意は、なによりも強靱な鎖となってシャムロックの心を捕らえる。そもそもここ以外に行き場のない、行き場を求めることすらしないのに、さらに強く。むしろ捕らえるなどと言うのは滑稽だ、それに支えられて彼のすべてが成り立っているのだから。
「……大丈夫。ちゃんと帰ってくる」
「ほんとう?」
「お父さんが嘘をついたことがあったかな?」
「……ない」
「じゃあ、なにも怖がることはないだろう?」
 諭す声音に、ジェシカはうなずく。しかしやはり納得はしきれないのだろう。迷いながらゆっくりと手が開かれて、そしてその腕にはとても収めきれない大きな背を解放する。それを確認してシャムロックは娘に向き直り、その、不安に沈んでしまいそうな表情に手を伸ばして柔らかな頬を両手で包み込む。
「ジェシカ」
「なに?」
「明日、いってらっしゃいをお父さんに言ってくれるかい?」
「……うん、言えるよ」
「よし、いい子だ」
 そのまま額に唇を寄せて今日二回目のおやすみのキスをして、軽く腕に抱く。そしてベッドに入るように促せば、大人しくもぞもぞとシーツの中に身を横たえた。そこまでを見守ってからシャムロックは立ち上がろうとし、しかしまたジェシカの瞳が何事かを訴えるように見つめているのに気がつく。なんだい、とそっと屈み込んで耳を寄せるポーズを取れば、
「おとうさん、だいすき」
 小さな告白は、次の瞬間には思いきり引っ張り上げられた掛布の向こうに隠されてしまった。それでも、シャムロックは充分すぎるだけのものをそこに見出す。言葉にすれば、幸福と呼ばれるものを。
「お父さんもだよ。ジェシカのことが大好きだ」

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