--------------------------------------------------------------------------
タッタッタと軽快な足音と共に走ってきたのは、今やエメリア軍内どころか国内一般市民でも知らぬ者はいないだろうエース“ガルーダ1”タリズマンだ。戦闘機パイロットしてはかなり小柄と言っていい部類の身体となびく長い黒髪……パッと見て軍人にすら見えないその容姿を、空にある際の自由奔放かつ豪快な飛行に『合っている』と思うのか『落差がありすぎる』と思うのかは個人の主観によるだろう。ただ、ひとつ、彼女に関して軍内でほぼ一致する意見があることをガイ“スネークピット”スチュワートは知っており、彼自身もその意見に大いに賛同したいと考えていた。
「おっ? あいつも本当に走るのが好きだなぁ」
「趣味だと本人が言っているからな」
隣にいるゲイリー“ワーロック”キャンベルが呆れたような感心したような声を上げるのに答えつつ、スネークピットはタリズマンに向かって手を振った。二人が佇む廊下から見える格納庫前、そこで足を止め柔軟で走り込み後の体を整える彼女がそれに気がつきブンブンと両腕を振り返してくるのに、そこまでしなくてもいいのに、と思わず微笑んでしまう。
「まったく。我らがエース様は今日も絶好調だな」
「あれで仮にも『天使』なんだ、ごつい男よりも、まあそれなりに可愛らしい天使の御加護ってほうが受けるほうとしちゃ気分は良い」
「可愛らしい、ねぇ。お前はそんなことに拘りもはしないだろうに」
「いや、絵的な問題だな」
なぜかニヤニヤとしているワーロックの視線の先で、体を整え終えたタリズマンがとことこと歩き出す。その足が向くのは彼らのほうではなく、まっすぐなんの迷いもなく……スネークピットが気がついてもいなかった休憩用ベンチに向かっていた。いや、より正確を期すのなら、そこで座っている人間の隣だ。
「……あれはシャムロックか、いたんだな」
すとんとタリズマンが腰を下ろしてもシャムロックは微動だにしない。寝ているのだろうか、だとしたらわざわざその隣に座る意図が見えない。もし用があるのなら起こせばいいのに、と首を捻るスネークピットに対し、ワーロックは心得たようにその姿を、両手の指で作ったフレームに収めて眺めていた。
「なにやってるんだ、ワーロック?」
「よく覚えとこうと思ってな。これが俺たちの『ガルーダ』だってところを」
「確かに、あのふたりはあんな風にしている印象が強いか」
「あれが当然なんだろう。一番居心地の良い場所を覚えた犬みたいなもんさ」
犬ね、とスネークピットは苦笑する。どうやら彼女に関して軍内でほぼ一致する意見については、ワーロックも賛同しているようだ。
「言ってみれば観察記録か」
「はは、そいつはいい。実は、この戦争が終わったら回顧録でも書いてやろうと思っててな。うまいこと映画化でもされたら面白いことになるかもしれないぞ」
PR