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「なあ、タリズマン」
「はいはい、なんですかシャムロックさん」
「僕は君が心配なんだ。君は空に上がると無茶ばかりするし周囲をあまり見ないし、テンションが振り切れがちだし。確かに君のセンスと度胸は認めるけど、しかし……」
「わかったってば……」
うんざり、まではいかないが、明らかに扱いに困っているとわかる口調のタリズマンが、自身の肩に額を押しつけるようにしてもたれ掛かるシャムロックの頭をぽふぽふと叩く。さっきから何回、これに準ずる台詞を聞かされたかわからない。が、かといって、がっちりと肩に腕を回された状況からは逃げることもできないし、そもそも特に逃げる気もおきない。こう長いことひっつかれてると暑いんだけどなぁ、とボヤきたくなる程度だ。
「説教魔だったんだな、シャムロックは」
ご愁傷様、とタリズマンに片手を上げてニヤニヤするのは、その正面に陣取ったアバランチだ。ここまで泥酔したシャムロックを見るのは、海軍所属であるアバランチは当然初めてなのだろう。同じ空軍所属ではあるが年代が異なるためタリズマンも初めて体験することとなったシャムロックの絡み酒は、二人にはなかなかに意外ではあった。
普段は節度をわきまえてアルコールを嗜む彼が、今日はなにかの弾みにうっかり許容を越えてしまったらしい。やけに口数が減ったと思っていたら、突如、グッと肩を掴まれて正面を向かされ、個人に向けた物言いが始まったときにはタリズマンも面食らった。が、酔っぱらいに逆らわないほうがいいのはどんな相手でも共通、そのまま気が済むまで付き合ってやろうと思った結果がこれだ。
「この状況、どうしたらいいかな?」
「もうちょっと飲ませれば潰れるんじゃないか?」
「それはそれで困るんじゃない? アバランチ、面倒見てくれんの?」
「野郎を介抱する趣味はないな」
「んな無責任な……」
「……タリズマン?」
「ああ、なに?」
自身から気がそれたことを咎めるシャムロックの声に、タリズマンが聞いてるよと言うように肩の頭に頬をつける。それに、シャムロックが頷くような仕草をして、また口を開いた。
「いいか、君が飛ぶときは必ず僕を呼ぶんだぞ」
「うん」
「君の背は僕が護る、僕は君が思ったように飛べるようにするから……」
相づちをうちながら、もう何ループ目になるのかわからないシャムロックの話を聞くタリズマンにアバランチは軽く笑う。なぜならそのタリズマンは、困り果てた表情の中にわずかながら嬉しそうな色を隠しているから。
「なあ、シャムロック。そろそろ休む? 眠くなってきてない?」
「大丈夫だ。君よりも先に寝たりしない」
「うーん、そういうわけじゃなくて」
まったく見せ付けてくれる、と笑みを隠すためにアバランチはグラスを口に運ぶ。恐らくシャムロックは『説教魔』なのではなく、アルコールのせいで本心を口にしやすくなってるだけだろう。こうもかみ合った行為と感情は、色恋沙汰などではなくとも見ていてなんとも面映ゆい。
「まあ、潰れるか気が済むまでやらせよう。付き合うぜ」
こういう人間たちがこの戦争の最前線に立っている。その事実は大いなる皮肉なのか、それともいつしか混迷を抜ける暗示なのか。少なくともエメリアの未来を託すには悪くない連中だ。そう思いつつ、自身もまたエメリアの未来を担う貴い一翼であることをうっかり忘れたまま、アバランチはタリズマンのグラスに酒をついだ。
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