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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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ACE COMBAT 6 SS
重巡航管制機要撃とラグノ要塞突破の合間。
タリズマンとシャムロック、ゴーストアイ。
捏造を多分に含む。



「おわー……」
 ぽかんという言葉を体現する様子でタリズマンが見上げているのは、かなり風変わりなF-15だ。外見上だけでもカナード翼の追加、垂直尾翼の位置を変更し大きく外側に傾けられているところなど多くの違いが上げられるが、他にも最新鋭の電子戦システムを搭載、コストを無視し考え得るうち可能な限りの改良と改修を施した特別仕様であることが彼女の手にあるマニュアル上で語られている。
「こ、こんなのどっから手に入れたの? っていうか私が乗っていいの!?」
 我に返ったタリズマンがものすごい勢いで振り返った先には、ゴーストアイとシャムロックの姿がある。自身の予想通りの彼女の様子にくつくつと笑うシャムロックの横で、いつもと同じしかめ面でゴーストアイが頷いた。
「君以外の誰が乗るんだ」
「でもこれってコスト的に量産できるシロモノじゃないよね? まさか私専用に?」
「だってさ。隊章もちゃんと入ってる」
 ほら、とシャムロックが指さした先は、機体の大きな特徴となっている尾翼だ。そこには確かに、誇らしげにガルーダの青き紋章が飾られている。
「いや、それはもう私だって見たけど!」
「これはそもそもエメリア空軍の前期改修計画に上がっていたモデルで、その試作機だ。が、仮称もついていない段階で空軍の運用方針変更に伴い計画見直し、これもひとまず保全されていた。それを引っ張り出して手を入れたんだそうだ」
「……まあ、使えるものはなんでも使えって状況だしね。しっかし、よくエストバキアに押さえられなかったな」
「君の働きへの対価、と言ってはおかしいが、この機体を最大に活かせるパイロットは現在我が軍に君をおいて他にいまいというのが上層部の結論だ。ゆえに最終的に君専用という前提での改装となった」
「あの~、それってさりげないプレッシャー?」
 包帯が外れたばかりの額にかかる前髪に手を入れてくしゃりと握るタリズマンに、さてな、とゴーストアイは表情ひとつ変えない。が、シャムロックのほうはくすりとまた笑う。
「君はプレッシャーなんて感じるタイプだったかな、タリズマン?」
「うわ、それはひどいなぁ、シャムロック?」
「だけどそうだろう?」
 返事はしないまま、ニヤニヤした表情になったタリズマンはポンポンとマニュアルで自分の肩を叩いた。そして新たな機体を振り仰ぐ。恐らく彼女の中ではすでに、ようやく傷の癒えた体をこの機体に収めて空駆ける様子が思い描かれているのだろう。はつらつとした輝きを宿した瞳はまるで新しいオモチャを与えられた子ども、あるいは好きになれるものを見つけた少年のようだ。そう思いながら、シャムロックは彼女の隣に立って同じように新たな片翼となる機に眼を細めて、呟く。
「そして君が墜とされた直後に届いたのは、まさに奇縁ってところかな」
 その言葉にぴくりと反応したのはタリズマンではなく、ゴーストアイだ。
 先のアイガイオン戦による一件は、戦略的な意味でも彼ら自身の心情的な意味でも大きな試練となったはずだ。果たしてガルーダがそれに対してどうケリをつけたのか、あるいはつけそこなったのか、それを上官として知っておく必要がゴーストアイにはある。彼らが今後もこの戦争の中心に存在することが可能かどうかを判断するために。
 だが、その結論は今の一言に集約されている。ゴーストアイの知るシャムロックならば彼女の前で『君が墜とされた』などとは言わない、いや、言えなかったはずだ。だが、彼は躊躇もなく事実を口にして、
「うん、そうだね」
 同じように、それを当然のこととしてタリズマンもうなずく。
 なるほど、とゴーストアイは身長差のあるふたりの背中を交互に見やる。タリズマンは戦闘機パイロットとしては非常に小柄、逆にシャムロックは空軍パイロット中で一、二を争う長身なのだからその差は推して知るべし、それも手伝ってふたりは常々、親子だ保護者だなどと言われがちなのだ。そして―気がついているのがゴーストアイだけとはいえ―ふたりの、互いに向けられた感情にもそれだけ差異があったはずだ。
「そういえば、この子ってなんて呼べばいいんだろ? 普通にイーグルって言うには、ちょっと改造されすぎだよな?」
「好きに呼んだらいいさ。イーグル・カスタムなんてどうだ?」
「……シャムロックってネーミングセンスないんだ、知らなかった」
「そうか?」
「カスタムってまんまじゃん。せめてプラスとか……あ、響きいいな、イーグル・プラス!」
 しかし、いま、下らないが楽しげな会話を続ける彼らの間にあるのは、純粋な肉体的な差異のみだ。そう判断し、ゴーストアイの唇の端が微かに上がる。それはいつか、彼がシャムロックに見せたものに近い。
「開発者たちにはイーグル・ネロと呼ばれていたが?」
 ゴーストアイの横やりにふたりが振り返る。ネロ、とただ繰り返したタリズマンに対して、シャムロックはすぐにその理由に思い当たったようだ。
「なるほどな、黒か」
「あー、そういうこと。っていうか、それ、なんか悪役っぽくない?」
 エメリアの古語で『ネロ』は『黒』を意味する。つまり間違いなくタリズマンの、いまやエメリアのエースの代名詞となった濡れ羽色の髪から取られたものなのだろう。それに、かくりと首を傾けつつため息をついたタリズマンは、でも、とまた機体を振り仰ぐ。
「……なあ、ゴーストアイ」
「なんだ」
「次の作戦ってすぐだよな。それまでにはこの子の扱い、覚えとくから」
「当然だろう」
 指揮官の声には、なにを今更、と言いたげな響きが露骨に透けている。それにタリズマンは機体を見つめたまま笑みをこぼした。……やっと飛べる。新たな翼を新たな想いで駆る自分に、今度こそ、なにができるだろうか。この手で掴めるものを今一度確かめて、そして……。そう考えながら彼女がごく自然に隣を見れば、『相棒』が同じように彼女へと視線を向けていた。その間にあるのは、出会いの時と同じあり得ないはずの年月を重ねたような空気で、そしてタリズマンの口から意識しないまま言葉が紡がれる。
「またよろしく、相棒」
「ああ、こっちこそ。相棒」
 『黒翼の鳥』と『金色の鳥』、約束された対の存在であるかのように呼ばれるふたりの、再びの出会いに等しいやりとり。それを目の前にしたゴーストアイは、優秀なる部下でありかけがえのない戦友でもある者たちがひとつの壁を越えてみせたことに温かな笑みを浮かべた。その、いままで誰一人として見たことがないだろう表情はふたりへのなによりの祝福であったが、あいにくとここでもまた誰にも気がつかれることはなく、そして彼は腕組みをしていつもの指揮官としての有り様に戻る。
「先のミューティングでも告げたが、次はラグノ要塞を落とす」
 アネア大陸中央よりやや東に位置するグラジオ渓谷には、堅牢な要塞・ラグノが存在する。未だにエストバキアに奪われたままのそこは、アイガイオンを撃墜した今、東進における最大のネックと考えられている場所だ。
「ここがグレースメリアまでの最後の難関。エストバキアにとっても防衛の最後の砦だ」
「……わかっているさ」
 改めてゴーストアイと向き合ったシャムロックの表情が引き締まる。エメリア軍はついに、グレースメリアに手が届く範囲まで来た。逆に言えば、追いつめられたエストバキア軍はここから先、死に物狂いの戦いを挑んでくるだろう。無論、タリズマンを墜としたパイロットとその搭乗機の存在もある。この戦争の正念場は、ここからなのだ。
「あ、そうだ。それでさっき思ったんだけどさ」
 しかし、そう厳しく考えるシャムロックとは対照的にタリズマンが軽い声を上げる。なんだ、と眉を上げたゴーストアイに向かって彼女はついと指を立てて、
「あそこってトンネルあるんだし、いっそ戦闘機で中からぶっ壊せばいいんじゃないの?」
 そう言いながら、すいっと横に動かす。つまりその指の動きはトンネルをくぐり抜ける自機を意味しているのだとシャムロックもゴーストアイも理解したものの、その場の空気は固まった。その反応が予想外だったのか、タリズマンは、あれ、と言いたげに首を傾げる。
「ほら、巡航管制機にやったのと同じだよ。ラグノのトンネルの大きさならこのイーグルでも入れるし、シャムロックのストライクイーグルでも当然いける」
「い、いや! 待て待て、待ってくれタリズマン。確かに可能だけど、いや、可能なのか?」
「不可能ではないが……しかし……」
「むしろ、あの巡航管制機相手にやるよりも簡単だと思う」
 脳内にラグノ要塞の簡易図を思い浮かべつつ考え込んだゴーストアイに、タリズマンは続ける。
「そもそもトンネル内とか入り口周辺に対空砲とか用意してないよね? エストバキアだってこうやるとはきっと夢にも思ってないから、備えなんかしないだろうし」
「ま、まあ、確かに」
 アイガイオンの際は一応、飛行機の発着機構という前提があったわけで、ラグノのような地下トンネル内を戦闘機で飛ぶなど前代未聞だ。うっかり納得してしまうシャムロックに、だろ、とタリズマンが嬉しそうにうなずくのを見てゴーストアイが額を抑える。これはもうやる気満々だ、止めても無駄だろうと判断した彼は、それならばむしろ前向きに行くべきだとタリズマンの進言を組み込んだ新たな作戦をさっさと練り始めた。それに、彼女が意識的に言っているのかどうかは甚だ疑問だが、この『らしい』無茶なやり方はエメリアのエース健在を全軍に―エメリア、エストバキア両軍にアピールするのに悪くないパフォーマンスではある。
「よし、タリズマンの提案は検討しよう。しかし、それまでにこの機体を君の手足とすることが条件だ」
「まっかせろ!」
「いや、ゴーストアイ。ということは僕も付き合わされる?」
「隊長の指示に従うのが二番機だろう。では、これで」
 ばっさりと言い捨て、くるりと背を向けて格納庫を出て行くゴーストアイを見送りつつシャムロックはやれやれと息を吐いた。そして視線を戻せば、タリズマンが自信に溢れた瞳で彼を見上げてかくりと首を傾ける。それに、シャムロックもまた、ただ頷き返した。作戦の危険さはわかっているし文句がないわけではない。しかし自分たちなら、『ガルーダ』ならやれると考えてしまうのはもはや自惚れではないのだと、彼には確信できるのだから。
「よし! んじゃ、とっととこの子と仲良くならないとね~」
 が、タリズマンがわくわくとした表情を隠そうともしないでマニュアルをめくり始めたのには、さすがに苦笑してしまう。やはり彼女にとっては、新しい遊具を与えられた感覚に近いのかもしれない。
 しかし、自分たちが駆るものは冗談でも遊具などではない。戦争でしか活かされない兵器そのもので、しかもこうしているタリズマンは、幼い頃に自身が覚えただろう本来の無邪気な好奇心の対象を、忘れてしまっている。
 改めてそう思えば、シャムロックの中にどうしようもない悲哀が湧き上がってくる、が、彼はそれを振り払うようにタリズマンの手元を覗き込んで明るく言った。
「操作感は、従来のイーグルと大差なさそうか?」
「まあね。これは全部が再設計されてるってほどじゃないし、雰囲気は変わらないみたいだけど……」
 そもそものF-15Cからして、特に電子機構に関しては、大幅な近代化改修が施されていたのだ。ゆえに軽く図面をなぞってそう言ったタリズマンだったが、指がぴたりと止まり、うーんと首を捻るとすぐにさっと顔を上げた。そしてキョロキョロと周囲を見渡し、目当ての背中を少し離れたところに見つけて手を振る。
「おやっさーん! この子のコックピット、いまから入れるかな?」
「お? ああ、いいぞ! ちょっと待っとれ、用意する」
 なにやらテーブルに向かっていた整備主任が顔を上げて手を振り返す。それを合図に、上司の命令がなくとも幾人かの整備が率先して動き出した。それだけでもよくわかるチームワークに、自分たちを支えてくれるのは彼らの結束力なのだと改めて思ってタリズマンもシャムロックも嘆息する。そしてうちのひとり、シルワート以降にこの班に加わった、ちょうどタリズマンと同年代の整備兵が歩み寄ってきて愉快そうに笑った。
「よう! こいつは大したもんだぜ、タリズマン?」
「本当だよ。ありがとなぁ、こんな面白い機体整備させてくれてよ。良い経験になる」
 そのあとに続いてきた、こちらはシャムロックと同じ年頃の兵もそう言ってポンとタリズマンの肩を叩いてから機体へと取りついていく。そんな彼らに、タリズマンはマニュアルを閉じながら笑うしかない。
「私にお礼言われてもなぁ。むしろ、こっちが言うほうなのに。この機体ってワンオフなんだから、私のためだけに整備マニュアルを覚えなくちゃいけないんだもんな」
「でも気持ちは、わからなくもないだろう」
「まあ、うん。なんとなく、ね」
 今度ははにかんだように微笑み、それからタリズマンはふと外に向かって視線を投げる。それはどこでもない彼方を見ているようで、しかし明確な哀惜を帯びていて、
「でも、あの子も連れて行きたかったなぁ、グレースメリアに」
 『あの子』が、タリズマンがいままで乗っていた機体であることは、その口ぶりからシャムロックにもすぐに伝わる。この戦争をここまで共に戦い抜いたタリズマンのもうひとりの相棒と言うべき存在は、修復ができる状況ではなくすでに廃棄が決まっていた。
 自分に代わりすべての傷を引き受けてくれた彼は、最後まで恐ろしいほどに自身の役割に忠実だったとタリズマンは思う。砕けたキャノピーと衝撃でできた怪我など安いもの、こうして生きていることがほとんど奇跡に近いのだ。……無意識のうちに額の、前髪に隠れている傷跡に触れ、最期までありがと、とすでに遠くに感じられるようになってしまった彼に向かって、タリズマンは心で独り語ちる。
「……そうだな。気持ちはわかるよ」
 そんな彼女に、シャムロックは思い出さずにはいられない。数日前の夜、自身の心情を吐露し、ただいまと優しく笑い、そしてそのまま腕の中で堰が切れたように泣きじゃくったタリズマンの姿を。そのときの、彼の背に回された彼女の腕の強さを。
「ここまでずっと一緒だったのに。それに、あと少しだったのに、な」
 そう、あとわずかだ。ラグノを落とせばもうエメリア軍を阻むものはない。エストバキアをこの国から退け、愛するものすべてをこの手に取り戻し、望むままにその先を築けるはず。再び繋ぐ絆と、新たに紡いだ絆とを寄り合わせて未来を織り成してゆけるはずなのだ。
「グレースメリアに、もう少しで手が届く。……帰れるんだ」
 もう、こんな戦争は終わりにしなくては。
 その決意と共に、シャムロックはもう一度そう呟いた。そこに内包した言いしれぬなにか……普段の彼が時折見せる激情とは違う熾火を、相棒に隠し通したまま。

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