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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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真・女神転生if... SS
ノモス中盤。アキラとヒロイン。


 張り詰めた空気の中で、二人は対峙していた。

「惜しかったな」
「……」
 自らに向けられた刃を握り止め、アキラは相手にそう宣言する。見下ろしていると言っても過言ではないほどの体格差のある相手、紺野真歩は、宣言されてアキラに向けた刃を引いて、肩を落とした。
「まだ勝てないか~。惜しいとこまで行くんだけど、……身体の大きさはハンデだなあ」
 ブツブツとそんなことを言う真歩にふうっとため息をついて、アキラはどかっと壁際の床に腰を下ろした。
 こうやって、一対一の模擬戦の真似事をしようと言い出したのは真歩だ。時々、思い出した様に挑んでくる真歩に、その理由を訊いたことはない。単に強くなるためだろうと思っていた。実際、この頃では手加減が難しくなってきていて、一戦するのに神経が結構すり減る。つまり言い変えれば、その程度に真歩は強くなっているということなのだから。
「いつまで続けるんだ、この勝負」
「私が勝つまで」
「勝てると思ってんのか」
「それは宮本くんが私よりも優位だから言うのかな?」
 抜き身のままの刀をオモチャの様にプラプラさせ、勢いとも本気ともつかない口調で真歩はアキラの前に立つ。鞘は、いつものことだが、どこかに放り出しているのだろう。
「自分の身は自分で守ろうかなって」
「ムチャ言うな。ソイツがなきゃ、すぐにくたばるだろ。死にはしないが、ここから出られねえだろう」
 アキラが目線で指したのは、真歩の左腕にゴテゴテと装着されたCOMP。悪魔召喚プログラムが収められたそれ。ガーディアンの加護を得ているとはいえ、ただの人間である真歩が、幽閉の塔のここまで登って来ることを可能にしたチカラだ。
「これはもう、私の一部だもの。仲魔は全部、私のチカラとみていいでしょ。私の命令は聞くけど、宮本くんの言うことは聞かないんだしね。あのセベクやトートやハトホルもそうだったし」
「俺は関係ないだろう」
「……ホント、わかってないね」
 言いながら真歩の体がさっと動いた。手に持った刀を逆手に持ち替え両手を添え、
「関係大アリっ!」
 それと共に振りかぶった刀を、全力を込めて突き出した。
「!」
 ガギッ、という耳障りな音を立てて、刃はアキラの顔数センチ横に突き立てられた。しかしアキラは、それが振り下ろされる前も後も微動だにしない。真歩に殺気が一切なかったからだ。ただ、真歩の真黒な、光を反射せずに飲み込んでいるほどの瞳を見つめ返し続ける。
「お前、俺をなんだと思ってる?」
「じゃあ、私も聞く。満月のとき、宮本くん、自分がどういう顔してるか知ってる?」
 満月。その単語にわずかにアキラが顔をしかめた。そこに真歩はたたみ掛けるように言う。

「無表情、本当にカンペキな無表情」

 冷たい響きを含んだ声。

「何考えてたら、あんな顔出来るの?」

 冷たい輝きを放つ刀と、冷たい黒曜石のような瞳で。

「あの顔が出来るのって、宮本くんなの? それともアモン?」

 アキラに問うのは。

「そうやって何でも黙ってないで」

 目の前の、人間。

「どっちなのか分からなくなるから」

 それは無言のまま行われた。
 アキラの手が真歩の腕をつかむ。真歩が何事かと思う前に、強い力で身体が引かれた。バランスを崩すどころではなく、半ば中に浮く勢いで真歩の身体が壁に背中から叩きつけられる。
「……くあっ」
 襲う激痛と一緒に、意味ない声が真歩の口から漏れた。続いて腕にズキリと違う痛みが走る。アキラの爪が食い込んでいる痛みだ。更にギリッと、つかまれた腕が嫌な音を立てる。悲鳴を押し殺した息を吐いた真歩の目の端に、期せずして涙が滲む。本気なのか、反撃すべきなのか。アキラから感じる気配に殺気はないが、そう思わせる迫力が代わりにあった。
 が、そこで唐突に腕が開放されて、真歩は重力に引かれるまま床に膝をついた。何故と思ったが、体を起こすことはまだ出来ないで、ただうずくまる。声を出そうにも肺が悲鳴を上げて、ケホケホと軽いせきをしながら息を整えるのが精一杯だった。
 そんな真歩を見ながら、アキラは先ほどまで真歩を捕らえていた手を自分の額に置いた。軽々と扱えてしまった真歩の身体、それを行った自分に悪心を感じる。これが、理性ではなく衝動であった事は確かだ。では、その衝動のスイッチを入れたのは何なのか、……すぐに考えがそこに至って、悪心は倍増し嫌悪に身体が震えた。
 『どっちなのか』。言ってほしくないことを言われたから。なんて単純なことなのか。……これは完全な八つ当たりだ、自分の願望を真歩に押し付けた。
「……悪い。本当に、……俺が悪いな」
 そのアキラのつぶやき。それが真歩に、確信をくれた。

 自分は生き残る事が出来るだろう。
 その先は、まだ分からないけれど。

 そして真歩は微笑んだ。
「もういいや。宮本くんに勝たなくてもいい気がしてきた」
 アキラが驚いて顔を上げた。ぺったりと床に腰を下ろし、つかまれていた腕をかばいながら、真歩は気の緩んだ様子でアキラを見ている。
「どっちだって宮本くんみたいだから」
 続けて聞こえた真歩の言葉が、そして何よりその小さな笑みが全てを許してくれているように見えてしまい、アキラはまたうつむいて、嘆息する。
「……どっちでもない、か」


 ただ、この二人に決定的にあった差異。
 それは、今ここに確かにあるのは、笑ったという事実だけだということを、認識しているかどうかだった。

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