忍者ブログ
ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
14
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

風色サーフ SS
アレックルート前提、オズウェル→エリカ。
死にネタ展開に注意。


 おおむね世界は理不尽に満ち満ちていて、それでいてどこまでも平気な顔をしている。オズウェル・アグスタ・ウエストランドは、それをよく知っているつもりだった。それが、たとえ世界に対して拗ねているだけと知ってしまっても生き方は早々変えられない。
 その結果として自身がよりいっそうの孤独を囲うことになったのが罰だとしたら、余りにも陳腐な脚本だと、世界を操る誰か―もしかしたら神とか呼ばれるもの―を笑ってやることだろう。
 オズウェルが気がついたときには彼女の、エリカの瞳は、アレックの背を追っていた。アレックもまた、エリカの強さに惹かれ助けられて、再び空へと舞い戻っていった。その出来事もまた、完成されたパズルのように整然としていて、オズウェルにつけ入る隙はなかったのだ。
 だから。
 その言葉を聞いたとき、彼は己の耳を疑った。
「アレックさん、が? なにかの……間違いってことは?」
「間違いねぇ。今度の革命の先頭に立ってた皇女がいるだろ? あれがここまで直々に報告に来たんだ。アレックの奴、なんで3年も帰ってこねぇんだと思ったら、あの皇女の要請で革命軍のパイロットをやってたらしい。あいつのことだ、帝国をなんとかしないことにゃ守れるもんも守れねぇと思ったんだ……」
「それで死んだって! なんだよ、それはっ!」
 オズウェルの、らしくもない感情むき出しの声がナカジマをさえぎった。同時に、きびすを返してドックを飛び出していく。先日から妙に基地の警備が厳重であった理由、エリカが一時間ほど前に司令室に呼び出された理由が彼をそうさせた。
『アレック・ユーティライネンの死亡が確認された』
 エリカは、そんな話を聞かされに向かってしまったのだ。もう話は終わっているのだろうか、だとしたらどこにいるのか、そんなオズウェルの思考は幸いなことに無駄に終わった。途中、ドッグへ戻るつもりだったのか、いつも通りの足取りで歩いてくるエリカに鉢合わせたからだ。
「あれ、オズウェル? どうしたの?」
 しかし、そう言って笑ったことが、すでに彼女が平静でない証だろう。『どうした』なんて聞き返すまでもない自体が起こっていることは事実であり、オズウェルがそれを知っていることに想像が至らないほど彼女は愚かではないはずだったのに。
 だから、無言でエリカの右手首をつかんだ。そのまま有無を言わさずに無人の資料室まで連れて行き、閲覧用の椅子に座らせる。やや低い位置にあるエリカの瞳には戸惑いもなく、それどころか明らかにオズウェルを写していなかった。だが、なにから話せばいいのかと迷うオズウェルに向かい彼女は口を開く。
「皇女様がいたの」
「皇女?」
「エルネスティーネ様っておっしゃるんだって。ああ、でももう皇女じゃないんだって言ってた。帝国は変わるから。でも、すごく皇族らしい人だった。この人なら国を変えてくれるんじゃないかって思えるような人。きっと、アレックさんも同じことを思ったんだろうな」
「……お前……」
 『アレックさん』と、ごく普通に口にする。そのことに、オズウェルの背筋が寒くなる。
「それでね、アレックさんは皇女様に協力してたんだって。帝国のエースパイロットと組んで、革命を成功させる力になって……」
 ぎゅ、とエリカがひざに置いた手を握り締める。それで、オズウェルはエリカがなにかを握り締めていることにようやく気がついた。繋がっているのだろう鎖が手から見えて、それがなんなのか、すぐに想像はつく。
 だがエリカは、そのオズウェルの視線に気がつくこともなく、誰に語るでもないように続けた。
「アレックさんがいなかったら革命は成功しなかった。成ったかもしれないけれど、もっと年数がかかっただろうって、言ってた。やっぱりアレックさんは、すごいパイロットだったんだね。事情があってオオルリには乗れなくて、ヤクトケーファーで帝国の空を飛んでいた。そのことをすごく残念がってたって。あの飛行機なら俺は墜ちやしないって……言って……」
 今度は、エリカの手から力が抜けた。だから握り締めていたものがころりとひざに落ち、オズウェルは自身の想像が当たってしまったことを悟り奥歯をかみ締める。
 古ぼけた金属プレートは、ユクトランド軍兵士用の認識票だ。
「……それを、皇女様が持ってきたのか?」
「うん。ユクトランドの人間だって知られるといけないから身に着けないで、皇女様に預けていたんだって。だからこうして残っていて……。アレックさんがね、言ったことがあったんだって。あのオオルリは俺の女神からの贈り物なんですよ、って。だから皇女様直々に私を捜して、届けに……それくらいしか自分に出来ることがないって」
 では本当に、あの男は死んだと言うのか。約束はどうなった、いない間は頼むと言った、あの言葉は。なにしてるんだ、あんたは英雄と呼ばれたほどのパイロットなんだろう。頭にはぐるぐるとアレックへの呪詛が渦巻くが、オズウェルは浅い息を繰り返すことでなんとか冷静さを保とうとする。
「エリカ、お前は」
「あのね?」
 言葉をさえぎったのか、それとも、そもそもオズウェルなど、どうでもいいというのか。先ほどからエリカの言葉はまるで歌うようなリズムを刻んでいる。
「未来はある。この先に必ずある。でも、いいのかな? 私は未来を見ていて、いいの?」
「……っ!」
 限界だ。これ以上、エリカに思考を継続させてはならない。そのためにどうすればいいかなど不器用な彼にはわかるはずもなく、ただ、その体を抱き寄せるしかなかった。
 それは、この三年間、心の奥底に沈めていた感情からではない。ずっとこらえていた衝動からではない。本当に、こうしてエリカの顔を肩口に押し付けてしまうことくらいしかできなかったのだ。
「ちょ、ちょっと、オズウェル、苦しい」
「泣けよ」
「え……」
「なんでお前は泣かないんだよ。あのときといい、今といい!」
 あの時は、泣いたからもう帰ってこない気がすると言っていた。でも今は? もう戻ってこないのに? 言葉にはとてもできないが、きっとエリカもわかっているはずだ。
「なんでって……」
「いいから! 泣け!」
 オズウェルの怒鳴り声に、びくりとエリカの肩が震える。それで、ようやく糸が切れたのだろう。オズウェルの服に顔を埋めて、嗚咽が聞こえてきた。
 わかっていたはずだったのに。世界は理不尽で、無慈悲だ。なのにどうして、エリカだけはきっと幸せになれるとどこか安心して……油断していたのだろう。たとえオズウェルにできることがなかったとしても、ただ傍にいることを選んだのだろう。それが正しいと信じたのだろう。
 だが、そこでふと思い至った考えに、オズウェルは自らの臓腑が焦げ付くような感覚を覚える。
 自分は、アレックが残した言葉の真意を読み違えていたのではないか? では、まさかこれもまた、罰だというのか? 世界を受けれることを忘れてしまった人間への? 孤独を囲う自身への? それにエリカを巻き込んだのか?
「……くそ」
 自らの腕の中で震える存在を、さらに固く抱きしめる。どこで歯車が狂ったのだと、いつの間に神の脚本とやらに嵌ってしまったのだと自分を責めても、もう遅い。ここには後悔しか残らず、目をそらしても未来は必ずやってくるのだから。


PR
お名前
タイトル
文字色
URL
コメント
パスワード
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Copyright c イ ク ヨ ギ All Rights Reserved
Powered by ニンジャブログ  Designed by ピンキー・ローン・ピッグ
忍者ブログ[PR]