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ゲーム寄りのよろず二次創作ブログ
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風色サーフ SS
クラウスED前提、コリン→エリカ。
でも出てくるのはコリンとアレック。



 コリン・グレイディーアの信条のひとつ、『女性は笑っているべきだ』の理由は至極簡単だ。笑顔こそが、女性を最も魅力的に、より美しく見せる要素であり、同時に彼は女性が幸せそうに笑う姿が好きだから。母が父の隣で幸せそうに笑っている姿こそが、彼の中の女性への憧憬の始まりだったからだ。


「君が反対しないとは、意外だな」
 その言葉に、ひんやりした青い目の奥にどんな意思が隠されているのか。悲しいかな、コリンはそれをはっきりと読み取れてしまうほどの洞察力の持ち主だった。ただ彼は、そんな自身を後悔したことも嫌悪したこともない。
「まあ、そうですよね。普通は反対しますよ、アレックさんみたいに」
 肩をすくめてみせたコリンに、相手は―アレックは一瞬、唇の端をゆがめる。しかしそれは、ちょうど口元に運ばれていたウィスキーグラスに隠されてコリンに見つかることはなかった。
 ロランドの片隅にある、ひっそりとした静かな雰囲気のバー。程よく客の入った店内、そのカウンターに並ぶ私服の二人に注目する人間はいない。それが、暗黙のルールであるからだ。彼らが好んで通うフォンク亭を利用していない理由は、交わす会話の内容にある。
「エリカちゃんはまだ若い。若さゆえに……盲目的に、暴走しようとしている。俺にはそう思えるよ。だから止める」
「かもしれません。時々信じられなくなりますけど、まだ18歳ですからね。……大佐がよけいに彼女を大人にした」
 その死が、という部分をわざと省いたコリンは、先ほどからほとんど量の減っていない自身のお前に置かれたワインのグラスを見つめる。……ゆらりゆらりと光がたゆたうそこに、大佐―クラウスの命を飲み込んだ炎が思い出されるのは、感傷に過ぎるというものだ。
「君は知っているのか? 大佐とエリカちゃんの間にどんな関係があったのか」
「知りませんけど、推測はできてます」
 彼こそが、あのウサギのぬいぐるみの片割れを持つ『おじさま』だったのだろう。エリカの初恋の、そして生涯唯一となろうとしている、想い人だ。 
 クラウスと親交の深かった人間、たとえばアレックやルイディナ、ナカジマからすれば、彼がらしくもなく新人の整備兵に心を砕いていることは明白だった。それはすぐに、コリンのような観察眼に優れた者にも知れることとなり……その最後の出撃の際、クラウスがエリカに何事かを告げていた場面は多くの人間が目にしていた。そして、クラウスの死にエリカが大きな喪失を味わったことも。……そこから導き出される結論は、あまりに苦いものだった。
 そして、自身の18歳の誕生日に、エリカはとんでもない決意を口にした。『ウーデット家に入る』、つまり死者に嫁ぐ、と。それが彼女の、クラウスの愛に応えようとするがゆえの結論だったのだ。
「聞かないんですね、俺の推測」
「推測は推測、真実ではないよ。それに、どんな理由があろうと俺は反対だ。……副司令、いや、大佐も、こんなことを望んでなどいない」
 ロビュ小隊に所属する人間のほとんどが、未だにクラウスを『副司令』と呼んでしまう。二階級特進など上層部が勝手に決めたことで、実際に彼に接していた人間にとってはどうでもいいことなのだ。それは彼を過去のものにしないというささやかな抵抗であり、同時に、死でしかエリカを救えなかった彼への、愚かしい復讐であるのかもしれない。
 まったく、ままならない。人間というものは、自分のことしか考えていない。
 コリンもまた、いまのアレック同様に憤りを感じたが、彼もエリカと同じだった。
 いや、彼こそが一番の道化であるのかもしれない。もうこの世にはいない人間への愛を貫こうとするエリカを美しいと想ってしまう、その強さに惹かれてしまった自分がいることを、コリンはようやく認めたのだから。
 そうだ、もうやめようじゃないか。コリン・グレイディーアが惚れたのは、クラウス・ウーデットを想うことでより強さを、美しさを得た彼女だと、認めようじゃないか。
「知ってますよ。こんなこと誰も望んじゃいない。正しいのかなんて、わかりゃしない。それでも俺は彼女の味方です」
「コリン、君は……」
 続けようとしたアレックの言葉は、そこで途切れる。アレックを見やったコリンの、凍りつくような冷たい瞳に射すくめられて。
「文句は聞きませんよ。貴方だって、俺に言っていないことが山ほどあるはずだ。どうしてそうも自分を責めるのか、どんな責任を勝手に感じているのか知りませんけど、貴方は大佐じゃない」
 らしくない、吐き捨てるような言い方にアレックは押し黙る。まったくもって図星だったからだ。コリンが確信を持って放った矢は、アレックの言葉を残酷に封じる。それもまた、彼らしくない。
「いざとなったら、実家にも相談しますよ。はたして我が家名がどれほどのものかを知る良い機会だ」
 普段は絶対に表に出さない、政治家でありとあらゆる方面にコネを持つ父を使っても。そこまでしてでも、望んでいないことをするというのか。アレックからすれば、コリンもまた暴走しているようにしか見えない。それとも彼らは、静かに狂ってしまったとでもいうのか。死者に呪いをかけられて。
「コリン……」
「アレックさん。俺はね、結構ズルイ男なんですよ。惚れた女が笑ってくれるのなら、どんな方法でも、たとえ魔法でも使ってみせます」
 では、その魔法が解けたとき、傍にいるのは?
 ふとアレックの脳裏をよぎった疑問は、次の瞬間、納得に変わる。ああ、この青年は本当に……。
「……わかったよ。もう、君にはなにも言わない」
「納得してもらえて助かりました。じゃあ、俺はこれで」
 呼び出されたのはコリンのほうだ。よって話が済んだのなら用はない、そんな風にさっさと立ち去っていったコリンを見送り、アレックはもう一度、深く椅子に座り直す。その視線は、空いた席に残されたワイングラスに注がれていた。
 たゆたう水面に浮かんで見えるのは、なんなのだろう。
「確かに、エリカちゃんを幸せにできるとしたら……君しかいないな」


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