「なっ……んで?」
目の前の地面が撓んだ。当たり前だ、これだけ出血すれば致命傷だろう。両手をついた間に、今もボタボタと冗談のように血が流れ出している。
「まだ声を出すか。まあ、そうでなくては汝の叫びが彼奴に届かぬ」
その源が自分の腹と胸なのだから、冗談にしては性質が悪い。
「いみ、わかんないよ」
かすれ声を出しながら、顔を上げた先には『宮本明』。玄室に青白く映える表情のない男の顔。たった今、死んだように見えて、でも、生き返った男。ソイツは生き返ったついでのように、それを見守っていた相手に無造作に傷をつけた。
命の灯火を叩き消すために。
「地に這いつくは人が定めとはいえ、今の汝の姿は見るに耐えぬぞ?」
「ねえ、どうして?」
「ハザマイデオが為であろうな。いや、この体せいか」
「……」
「以前の我では、このようなことを行いはしなかったであろう。『人』の復讐心とは如何にもしがたい。咎以上の代償を求め、瑣末なことすら復讐とする」
「……あもんって、……誰なの?」
重ねられる、かみ合わない会話。ソイツはまだ、うまく人としての表情が作れないらしい。妙な風に引きつって見える頬は、恐らく笑みを作りそこなっているから、だろう。
「汝はハザマイデオの想い人であるな」
「知ら、ない、よ」
「汝には一片の咎はない、が。それが彼奴の一部を抉り取るのならば、善しとしよう」
少しだけ、笑みが上手くなった。
「故に『宮本明』の望みもまた善しとしよう。『宮本明』は、この道中にて、彼奴らが汝が死を弄するのが許せぬらしい」
「……し?」
「それが汝に対する裏切りになる、と。このような小娘、捨て置けばよいものを」
「……うらぎり?」
「人間とは解せぬ生き物だ。己が充足が望みが、隣に在る者を陵辱することに考えが及ばぬ。及びし時も、それがその者の充足であるとも思い込む。それが汝らの愛するという行為か」
「ひとじゃない?」
「さてな、言うなれば混ざり者であろう。娘よ、『宮本明』は失敗したのだ」
ついにソイツは、声に出して笑うことを学んだ。息を吐くような忍び笑いには、与奪の愉悦がにじんでいる。この場に凝り始めている魔力の源が、その笑みを更に深くした。
「さて、虚界の王の再演か。汝を助くるその言い分、実に楽しみだ。……人間は楽しみが多くて良いな」
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