「血ぃーのーニーオイーがするー」
「……変なの歌うな、子供じゃないんだから」
「鼻についてもうたしな、気ぃ紛らわさな辛いんや」
ユミは、仕方ないわねと言いたげな目をしたが、それでも膝立てなった先にあるその髪を梳いてやる手を止めることはなかった。霧絃はユミにされるがまま、回復の泉のふちで足を投げ出すように座っている。くるぶしまで足を浸している泉は、手足についた血を洗い流したはずのなのに、すでにもう澄んだ色を取り戻していた。
「あと、……動かないでよ。……まだ取れて……ないんだ……から、さ」
霧絃の髪は真っ直ぐで、本来は何かが絡まる要素はない。それでも、そこに入り込んでいるモノと格闘することに真剣になっているためだろう、自分の手の動きにあわせて切れ切れにしゃべるユミに、霧絃は目を閉じて詫びの言葉を口にする。
「すまんな、んなことさせて。返ってくる分、よけ損ねたんはオレやねんに」
「仕方ないって。……アタシが…………うまく、やれなかったからってのも……あるし」
不自然になった言葉の間に霧絃は目を開いて、背後にいる人がどんな表情をしているのだろうか、などと少し思う。それから、いつ言おうかと考えていた事を口にする。
「なあ、どうするん?」
「ん?」
「まだ戦うか? さっき、顔真っ青やったで?」
『助げでぐれ』
『苦じいー、この苦じみがわがるかぁぁぁぁぁぁ』
『楽にじでぐれぇぇ』
忘れていた吐き気が一瞬にしてこみ上げる。
自分が取っている、霧絃の髪に絡んだそれ。
赤黒く、どす黒く、こんなになっても変に個性を主張してみせる、
かつて人体を構成していた破片。
同じ空間で、同じ立場で、同じ言語を発していただろう人たちのモノだ。
「あのー、この状況でリアルに思い出させないでよ。アンタって実はアタシのこと嫌い?」
「んや、むしろ好き。ええ女やなー思うとる、いやマジやで」
「へ~、ふーん、そう。その女にこの仕打ち?」
「……せやから、こんなん嫌なんやったら止めた方がええやんか」
「バカねぇ、アタシにお姫様役が似合うと思う?」
そこまで問答したところで、霧絃がくくっと笑うと、それにユミが猛然と抗議する。
「ああー! バカ! 今動いた、取れそうだったのに!」
「おっけい。もう動かん、よーく分かりました」