人間を綺麗だと思うことがある。
そんなことは、それが初めてだった。
息を荒げながら、血塗れで足元の死骸を見つめる、同い年の少女。
憤怒も後悔も悲哀も何一つ見えない、闇色の瞳をした人間。
それは眩暈がするほどに、きれいな光景。
いっそ快楽に近い、遠くにある景色。
「宮本くん?」
少女は、立ち尽くして自分を見つめる半妖の青年を振り返る。
「どうしたの? もう、終わったよ」
計算し尽くされたように、少女は、歩を進め。
その先にある血溜まりすら、その光景の付随物とする。
「どうかした?」
それでも答えない青年に、
立つ少女は、己を省みて笑った。
「あはは、私、すごいことになっちゃったね。
ゾンビなのに、まだ血が赤いんだもん。
さすがに気が引けて、返り血のことまで考えてらんなかった。
回復妖精さんの所で洗わせてもらえるかな?」
青年が、わずかにあえぐ。
言葉を紡ぐには、全てに対して整合が足りなかった。
「宮本くん? ホントに大丈夫? さっきからおかしいよ」
「……紺野」
「ん?」
「お前、強いな」
「はあ? 何言ってるの。
宮本くんの方が断然強いくせに。魔法だって使えるしさ」
不思議そうなその表情に、
自分でも吐き気がするような考えが導き出される。
"こいつが敵だったら、どんなにか、楽だったろう。"
「いや、絶対に強い」
殺してしまえば、忘れられなかったとしても、終わり。
代償など要らない。
いや、きっともう、全て遍く終わってしまっていたのだから。
「ホントどうしたの? 急にそんなこと」
「俺が勝手に思っただけだ」
どこか浮ついた青年の口調に、少女は険しい表情を見せた。
「それって、気にしてくださいって言ってるようなものだよ?
そういうのは嫌いなの。だから、やめてほしいな」
「お前にもっと早く会ってたら、どうなってたか、な」
「別に、どうもしなかったでしょ。
学校じゃ世界違うとこにいたんだし、関わることもなかったんじゃないかな」
容易に想像できる答えに、
踏み込んでしまった迷い道の深さが浮き彫りになって。
「だろうな」
「宮本くん? 何が言いたいの?」
「知らねえ」
「はあ、もういい。回復の泉に行こう」
呆れたのか、血臭を漂わせた少女は青年の傍らをすり抜ける。
このときは。
少女の腕に、手を伸ばさない程度には、自分を押さえることが可能だった。
"ああ、これは、重症だ。"
"いつかきっと、破綻する。"